第16話: 嵐の使者との邂逅

イビルアイは森の奥深くに立ち尽くし、微動だにしなかった。ガイゼル軍の動きを察知し、彼らが何かを企んでいることはすでに理解していた。そして今、その使者が自分に向かってくるのを感じ取っていた。


「嵐の使者か…」


彼女の冷たい声が静かに漏れる。その言葉通り、遠くから雷鳴が響き渡り、木々が風に揺れ始めた。森の中は徐々に不穏な空気に包まれていく。やがて、空気がピリピリと電気を帯びた感触を漂わせ始めた。


「やはり来たわね…ヴォルテクス・ディオニス。」


イビルアイは冷静に呼吸を整え、彼女独自の力を活性化させ始めた。彼女の力は主に「浮遊(フロート)」や「高位の呪文」を駆使する魔法使いとして知られているが、その真の強さは決してその範囲に留まらない。

一瞬の閃光とともに、ヴォルテクス・ディオニスが彼女の前に現れた。全身に金色の雷光を纏った男は、嵐の具現化とも言える存在だった。彼の足元には草木が焼き焦げ、彼の一歩一歩がまるで地鳴りのように森全体を揺さぶっている。


「イビルアイか。お前が我々の邪魔をするならば、その命もここで終わるだろう。」


ディオニスの言葉には冷酷な自信があった。彼はかつて無数の戦場で嵐を巻き起こし、圧倒的な破壊力を誇ってきた。その雷の力は、一撃で全てを焼き尽くすことができる。


「簡単にはやられないわよ…」


イビルアイは冷静に、彼の言葉に応じた。そして、彼女は軽く手を振ると、その周囲に「魔法障壁(マジック・シールド)」を展開した。これは強力な防御魔法であり、相手の攻撃を受け止めるためのものだ。


「まずは様子を見せてもらおうか。」


ディオニスが冷笑を浮かべると、その手から雷撃が放たれた。まさに雷の如き速さでイビルアイへと突き進む。だが、その雷は彼女の魔法障壁に衝突すると同時に消滅した。わずかな火花が散っただけで、何も彼女に届くことはなかった。


「どうした? それで終わりかしら?」


イビルアイは挑発的に問いかけた。その瞬間、ディオニスは顔をしかめ、怒りを露わにする。


「その口が聞けるのも今のうちだ。」


ディオニスは再び攻撃に移った。彼の手からは今度はより強力な雷の槍が生成され、それが空を切り裂いてイビルアイに向かって放たれた。しかし、イビルアイは素早く浮遊(フロート)を使って空中に跳び上がり、その槍を容易に避けた。


「さすがに避けられるか…だが、この嵐の力は逃れられん!」


彼の怒声とともに、大地に雷鳴が轟き渡り、周囲の木々が一瞬にして焦土と化した。その電撃の波動が広がり、イビルアイを取り囲むように迫ってきた。


「影の壁(シャドウ・バリア)!」


彼女は瞬時に闇の力を召喚し、自分を包み込む影の壁を展開した。雷がその壁に衝突し、閃光とともに音が爆発したが、彼女は一歩も引かなかった。その防御は完全で、ディオニスの攻撃をしっかりと受け止めていた。


「この程度じゃ倒せないわよ。」


イビルアイは再び呪文を唱え始め、次に彼女が放ったのは「魔力解放(エナジー・ディスチャージ)」だ。彼女の周囲に膨大な魔力が解放され、それが雷撃を相殺するかのように広がっていった。瞬間、彼女は一気にディオニスへ向かって接近した。


「何っ…!」


ディオニスは驚愕の表情を見せたが、その時にはすでにイビルアイの手が彼の胸を狙っていた。


「これで終わりよ。『グレーターメイデン』!」


彼女は高位の呪文を使い、強力な衝撃波がディオニスの体を吹き飛ばした。金色の鎧がバラバラに崩れ落ち、彼は地面に叩きつけられた。


だが、イビルアイは油断しなかった。彼の雷の力がまだ完全に消え去ったわけではない。彼女は次の一手を考えながら、冷静に彼の動きを見守っていた。


「さあ、次はどう出るのかしら?」


その戦いの幕はまだ開いたばかり。嵐の力を操る男との戦いが続いていく。

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