第9話: 闇の深淵


暗闇の中、森の奥へと進むモモンとナーベラル。霧がますます濃くなり、周囲の景色がぼやけていく。森の静けさが彼らの耳に重くのしかかり、まるで全てが異常なまでに静まり返っているかのようだった。動物の鳴き声すら聞こえず、ただ風の音だけが森を支配していた。


「…何かがいる。」ナーベラルが鋭い感覚で察知する。


「ふむ。気を引き締めろ、ナーベ。ここからが本番だ。」モモンは冷静に言いながら、黒い大剣を構えた。その剣からは不気味な闇のオーラが放たれ、まるでその空間を飲み込むかのようだ。


ナーベラルが即座に後方で魔力を集め、準備を整える。


そんな二人に対して、静寂を破るかのように現れたのは、ガイゼル軍の精鋭たち。鋭い目つきと共に、彼らはまるで影のようにモモンたちの前に姿を現した。姿は人間に近いものの、明らかに異形の風貌を持つ。ガイゼルの下で強力な力を得た者たちだ。


「貴様が…噂の冒険者、モモンか。」先頭に立つ男が不敵に笑い、鋭い剣を抜く。彼はガイゼル軍の幹部、ゴーシュと呼ばれる存在で、体躯は巨大で、筋骨隆々。彼の剣はまるで一振りで山を切り裂けそうなほどの威圧感を放っていた。


「モモン様、あの男は…ただの冒険者ではありません。極めて危険です。」ナーベラルが警戒の声を上げた。


「分かっている。」モモンはゆっくりと頷き、静かに剣を構え直す。「だが、それがどうした。」


「ふん…こちらは一流の冒険者が相手だと聞いていたが…それなら、こちらも全力で行かせてもらおう。」ゴーシュは不気味な笑みを浮かべ、仲間たちに目配せをする。瞬時に周囲のガイゼル軍幹部たちも動き始めた。


ゴーシュを中心に、まるで連携が取れた動きでモモンたちを取り囲む。その中の一人、白金の装甲を纏った女性が、ナーベラルに目を付け、素早くその場を駆け抜けた。彼女は同じガイゼル軍の幹部、リーシェ。華麗な剣技と魔法を使いこなし、あらゆる戦場で名を馳せた強者だ。


「モモン様、援護を!」ナーベラルは瞬時にその攻撃を察知し、風の魔法で自身を守りつつ反撃に転じる。


「無駄よ、そこの女!」リーシェは笑みを浮かべながらも、動きは素早く、ナーベラルの魔法をかわして接近する。二人の戦いが激しく始まり、その激しい剣戟の音が森に響き渡った。


一方、モモンはゴーシュの圧倒的な存在感を前にして、静かに剣を振りかざしていた。


「お前が相手か…ならば試させてもらおう。」ゴーシュは剣を高々と掲げ、一瞬の間に大地を叩き割るかのような一撃を放つ。


衝撃波が周囲の木々を倒し、地面が裂けるが、モモンは微動だにせず、その一撃を受け流した。


「その程度では俺には勝てん。」モモンは冷ややかに呟くと、瞬時に剣を振り下ろした。その一閃は空間を裂き、ゴーシュの体を深く斬り裂いた。彼の巨体が一瞬のうちに崩れ落ち、血が地面を染める。


「ぐ…っ…! こ、これが…モモン…!」ゴーシュは驚愕の表情を浮かべながらも、最後の力を振り絞り再び立ち上がろうとする。


「無駄だ。」モモンは冷淡に一言だけを放ち、もう一度剣を振るった。今度こそ、ゴーシュは完全に沈黙した。


同時に、ナーベラルの魔法も炸裂し、リーシェの動きが止まる。「これで終わりよ!」ナーベラルの手から放たれた雷撃が彼女に直撃し、白金の装甲が砕け散った。


「ぐっ…まだ…終わりじゃ…ない…」リーシェは息を切らしながらも、まだ立ち上がろうとしていたが、モモンが彼女に向かって静かに歩み寄る。


「終わりだ。」モモンは冷ややかな目で彼女を見下ろし、そのまま彼女に止めを刺した。


---


その戦いの様子は、遠くから密かに見守られていた。


「これが…モモン…」イビルアイは木陰から戦場を見つめ、胸の奥に不安と興奮が入り混じった感情が渦巻いていた。モモンの戦闘力は、予想以上に高かった。ゴーシュやリーシェといった強者たちを相手にして、圧倒的な実力で彼らを打ち倒してしまったのだ。


「一体、何者なの…? あの男…」イビルアイはつぶやき、密かにモモンの動向に興味を抱き始める。

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