第6話: 森林の深淵へ

リ・エスティーゼ王国の冒険者ギルド。ここは冒険者たちが依頼を受け、その腕前を発揮する場所だ。昼間の光が差し込む中、黒い鎧に身を包んだ「漆黒の英雄」モモンが、相棒のナーベラル・ガンマと共にギルドの扉を押し開けた。


ギルド内の冒険者たちは、モモンの登場に気づき、その場の空気が一変する。彼らの視線は一斉にモモンへと集まり、軽いざわめきが広がった。


「おい、見ろよ…あの黒い鎧。間違いない、モモンだ!」


「本当にモモンがここにいるなんて…このギルドに寄ることなんて滅多にないだろう。」


その声がモモンの耳に届くが、彼は気にも留めず、静かにカウンターへと向かう。冒険者ギルドの受付嬢がその姿に気づき、顔を輝かせて出迎えた。


「モモン様、いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件でしょうか?」


モモンは低い声で答えた。「少々、腕を試す依頼を探している。できれば高難易度のものがいい。」


受付嬢はモモンの申し出に驚きながらも、即座に対応を開始した。彼女はいくつかの依頼を選び、その中でも最も過酷な依頼を取り出して、彼の前に差し出した。


「こちらの依頼はいかがでしょうか?王国北方の深い森、"影の森"と呼ばれる地域で、数多くの魔獣が潜んでいます。非常に危険な地域であり、冒険者ランクでも最上級の者たちしか足を踏み入れることは許されていません。複数のパーティーが探索に失敗しており、行方不明者も続出しています。」


モモンは依頼書に目を通し、何も言わずにそれを手に取った。ナーベラルが隣で控えめに声をかける。


「モモン様、この依頼、私たちの力であれば十分に対応できるでしょう。ですが…影の森には、通常の魔物以上に危険な存在が潜んでいると聞きます。」


モモンは一瞬だけナーベラルに視線を送った後、再び受付嬢に目を向けた。


「この依頼を受ける。準備はすぐに整えよう。」


受付嬢は緊張しながらも、その場で了承の印をつけた。「かしこまりました、モモン様。どうか、お気をつけて…」


モモンとナーベラルは、短い準備を終えた後、即座に王国北方に向けて出発した。影の森は、通常の冒険者にとって恐怖の象徴だった。暗い木々が密集し、その中には得体の知れない危険が潜んでいると噂されている。


道中、ナーベラルが静かに口を開いた。「モモン様、この森に潜むという魔獣たち…私たちの力であれば問題はないかと存じますが、何か特別な指示はありますでしょうか?」


モモンはゆっくりと頭を振った。「まずは様子を見る。力を見せつけるのは時と場所を選ぶ必要がある。我々の目的は、ただ依頼を完了するだけではない。」


ナーベラルはうなずき、言葉を慎んだ。彼女もモモンの真意を理解していた。今回の依頼は単なる試練ではなく、背後にある異変や脅威を探るための手段でもあったのだ。


影の森に入ると、周囲の空気が急激に重くなった。静寂の中に潜む何かが、彼らを見張っているような感覚が漂う。


「モモン様、周囲にいくつかの魔獣の気配を感じます。数はそれほど多くありませんが、注意が必要かと…」


モモンは森の奥をじっと見据えた。「その通りだ。ここは通常の魔獣の巣窟ではない。何かが我々を試しているように感じる。」


その時、不意に巨大な影が木々の間から現れた。鋭い爪を持ち、赤い目で彼らを見下ろす獣が、一瞬の間をおいて突進してきた。ナーベラルが素早く魔法を詠唱し、電撃がその獣を包み込む。


「【ライトニング】!」


電撃が獣の体を貫くが、その巨大な体はわずかに揺らめくだけで、全く怯む様子がない。


「くっ、やはりただの魔獣ではない…」


モモンは冷静に剣を抜き、静かに構えを取った。「ナーベラル、支援を頼む。これは私が仕留める。」


彼がその言葉を口にするや否や、黒い鎧の巨躯が閃光のように獣に向かって突進した。その動きは、人間の冒険者とは思えない速さと力を持っていた。モモンの剣が獣の肉体に食い込み、瞬時にその体を切り裂く。


巨大な獣は、声を上げる間もなく倒れ、その周囲に暗黒の瘴気が広がっていく。モモンはゆっくりと剣を収めた。


「この程度か…影の森に潜むものたちは、まだ本気を出していないようだ。」


ナーベラルが彼の隣に立ち、感嘆の表情を浮かべる。「さすがです、モモン様。しかし、これがこの森の全てではないでしょう。」


モモンは周囲の気配を探りながら答えた。「そうだな。更なる強敵が潜んでいるのを感じる。行こう、依頼を完遂し、この森の真の姿を暴き出す。」


こうしてモモンとナーベラルは、影の森の更なる深淵へと進んでいった。彼らを待ち受けるのは、果たしてどのような脅威なのか――それは、まだ誰にもわからない。







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