第5話: ナザリックの眼差し

ナザリック地下大墳墓。その中でも最も荘厳で静寂に包まれた玉座の間。アインズ・ウール・ゴウン――死者の王は、その全知全能をもって広大な世界を見渡していた。彼の骨のような手が、ゆっくりと玉座の肘掛けに置かれる。彼の周囲には、いつものように忠実な守護者たちが整然と並び、その気配を感じ取っている。


その時、デミウルゴスが一歩前に出た。


「アインズ様、先ほどお伝えした異変についての続報をお持ちしました。どうやら、リ・エスティーゼ王国近郊での動きが活発化している模様です。例の不審な存在――"ガイゼル"という者に関して、目を引くべき報告が上がっています。」


アインズは、興味深げにデミウルゴスの言葉を聞いた。この「ガイゼル」という存在は、既にナザリックの監視の対象となっていた。彼の力と行動が普通の冒険者とは明らかに異なることを察知していたからだ。しかし、ナザリックの対応は慎重だった。すぐに介入することはせず、彼の動向を静かに見守っていた。


アインズは、深く思案しながら返答する。


「ふむ、例の男か。まだその行動には決定的な危険は感じられないが…何か裏があると考えるべきだな。彼は、ただの冒険者ではない。彼の背後に何かがある、あるいは――彼自身が非常に特異な存在かもしれない。」


アインズの鋭い洞察は、ガイゼルの異常な力に対して警戒心を抱かせていた。アダマンタイト級を超える存在として、リ・エスティーゼ王国を中心に次々と冒険者を倒していく彼の行動は、ナザリックにとって無視できないものとなりつつあった。


デミウルゴスは続ける。


「アインズ様、現段階では彼の真の力の全貌は分かっておりません。しかし、彼が変身能力を持つことを確認しております。まだ第一形態のままですが、その力はアダマンタイト級を上回っており、我々の監視を継続すべきと考えます。」


アインズは少し考え込みながら、デミウルゴスの意見を吟味した。


「ふむ、ガイゼルの変身能力…興味深い。今は我々が無闇に手を出すべき時ではない。監視を続けるだけでいい。ただし、もし彼が我々に直接干渉するような動きを見せた場合、その時は…手を打つことにする。だが、それまでは冷静に観察を続けるのが得策だ。」


コキュートスがその巨大な体を揺らし、重々しい声で意見を述べる。


「アインズ様のご判断、まさに至極の策です。…しかし、もしもその男がさらなる進化を遂げたならば、我が刃で打ち砕く機会を…与えていただけることを願います。」


アインズはコキュートスに向かってうなずく。


「お前の力を貸してもらう時が来るかもしれないな。だが、まだその時ではない。」


シャルティアも、手に持った槍を静かに回しながら言葉を漏らす。


「そのガイゼルという者…シャルティアよりも強くなる可能性があるのかしら?興味が湧くわね。」


アルベドが彼女に向かって冷静に応じた。


「シャルティア、興味を持つのは良いことですが、彼が敵になるかどうかはまだ不明です。我々は今は監視する立場にいるに過ぎません。アインズ様のご命令に従い、最良の行動を取ることが重要です。」


シャルティアはそれを聞いて、少し悔しそうにうなずいた。


アインズは、慎重かつ戦略的な判断を下すために、さらなる報告を待つことを決意した。


「デミウルゴス、引き続きガイゼルを監視し、何か異常があれば即座に報告するのだ。私たちが動く時が来るのなら、その時まで準備を怠らずに。」


「かしこまりました、アインズ様。」


こうして、ナザリックはガイゼルの動向に対する監視を強化することになった。だが、今はまだ表立った行動は控え、慎重に策を練る段階にあった。アインズとナザリックの守護者たちは、冷静にその時を待つ。ガイゼルがどのような目的を持ち、どこへ向かっているのか――その全貌を解明するために。


ナザリックの暗い影が、静かに動き出す。



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