第6話

「失礼します」




入ると、ゆったりとソファーに腰をかけてこちらに手招きする当主がいた。



もう見るからに優しそうな感じで、

ホットひと安心する。



「よく来てくれたね。まあ、そこにお座り」



私は言われた通りソファーまで行くと、おずおずと腰を下ろす。


目の前には柔和そうに微笑む当主が私にお茶を勧めてきた。




「すいません。いただきます」





湯呑みを覗くとご丁寧に茶柱がたっていた。


縁起がいいな、良いことが起こる前触れかもしれないと私は単純にも浮かれてしまう。




まさかこの仕事が私の人生のターニングポイントになるなんてこの時は知る由もない。






「わざわざ遠くから来てくれてありがとう。

荷物は傍に置いてくれて構わないよ」



「ありがとうございます」



私は膝の上に置いていた荷物をソファーの横に立てかけるようにして置いた。



面接などのやり取りはずっと電話を使っていて、その度にいつも少し眠たそうな声だった。



あれはおそらく海外からの電話番号だったから、今日、久しぶりに日本に帰ってきたのだろうと思う。




「真田様は家にあまりいらっしゃらないと伺っておりました。

ですので、こちらこそお時間を作って頂きありがとうございます」




「いやぁ、会えて嬉しいよ。そうだ、真田様なんてなんだか他人みたいだから、お父様と呼んで欲しいんだけれど」



どうかな? と、チャーミングに首をかしげて聞かれる。



「えっと、それではお言葉に甘えてお父様と呼ばせていただきます」



「うんうん。もし娘が出来たら言ってもらおうと思ってたんだよ。まあ、何がともあれ聞いていた通りのお嬢さんで良かった、これで安心だ」




おおいに満足していただけて、とても嬉しいのだけれど



「───それでなんだが」



とお父様のその言葉に少しの違和感を感じた。




スイッチが切り替わったように、深く腰掛けていた体を起こして、



「働く内容なんだが……」



と先を急ぐ。少しの沈黙のあと言いにくそうに



「そのー、うちの息子の執事を頼みたいんだ」




と衝撃の答えが発せられた。




「え、あの、事務仕事のはずじゃ……?」






お父様は先程とは打って変わって真剣な表情なのでジョークではないらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る