第3話

「…………はい」


呼び鈴から、こちらを伺うような声色が聞こえた。



「あ、今日から働かせてもらいます。



『立花 透』と申します」



まだ慣れないその名前を口にする。



しかしこの『立花 透』という名前は本名では無い。



私の本当の名前『立花 遥』がいかにも女性名だったため、性別を偽るにあたってそう名乗るようにと指示されていた。





『お待ちしておりました。お入りください』



声が聞こえ門がゆっくりと開く。



正面には大きな噴水があり

敷石を辿って、手の行き届いた庭園の中を進むとその奥に玄関の扉があった。




想像していた豪華な家をはるかに超える豪邸に

腰を抜かしそうになる。



まるで違う世界に来たみたいだった。





「……広すぎだよ」




つい、独り言もこぼれる。




辺りをキョロキョロしながら玄関扉のそばまで来ると、見ていたのかと思うような絶妙なタイミングで扉が開いた。




中から気の強そうな初老の女性が出てくる。




男装をするようにと言われたからには何か理由があるのだろうと思っていた。



例えば、女性嫌いの職員がいる、とか。まあ他には全然思いつかないのだけれど。何かしらの理由があるんだと。




しかし、女性も働いているのだとしたら少し不思議だった。それだと何故私が男装をしているのか分からない。

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