第2話
その努力は無事報われたらしく、髪を切って帰ってきた私に母は
「まぁ!イケメン!ショートカットがこんなに似合う女の子はあなただけよ〜!」
と絶賛した。
「記念よ、記念っ」と言って母は
年季の入ったカメラを箪笥から取り出すと
さながらカメラマンのように構え
写真をパシャパシャと撮ると、満足気に眺めた。
張り切りすぎだし、
「我が娘とは思えないほどの造形よね」
と少し親バカでもある。
でもまあ、こうやって
可愛がって貰えて嫌なわけない。
つまりは満更でもない部分もあるのだけれど
「いや、お母さんには私がどう見えてるよの」
とちょっと恥ずかしくもあるのだ。
「遥ちゃんが頓着ないだけよ〜!
まあ、そこがいいところなんだけどね」
母は私をその気にさせるのが上手かった。
いざと言うときにはたいがい母に鼓舞され
私はやる気を出していた気がする。
受験とか、試合前とか。
それに数日前まで体調を崩していた母が、
昨日よりも元気そうに見えるので
「これもこれでいいか」と思った。
短くなった髪を弄ぶと、ふわりと美容院のジャンプーの香りが漂った。
そうして、まんまと母にヨイショされた私は
電車とバスを2時間乗り継いで、
これからの私の職場 兼 住居となる予定の
『真田低』へと足を運んだ。
たどり着いた時、思わず目を見張った。
見上げるほどに大きな豪邸に怖気づく。
こんなところで私はちゃんと馴染めるのだろうかと思わないでもなかったが、
この日のために新調したスーツの襟を整え
数回の深呼吸を経て、呼び鈴を押した。
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