第17話 注意事項は一度聞けばわかるよ
「あそこに見えるのが街に入る門だ」
私は湧き水が吹き出た場所まで戻ってきた。そう、クロムに出会った場所だ。
そこから山の方をみると、連なる山々の一角に縦に線が入っているように見える場所がある。丁度山と山との間とも言えなくはない。
そこは一番低くなっている場所だから、山を切って道を作るにはいいところとは言える。それに警戒するのは一箇所に集中すれば問題ないとも言える。
「ってここで銀太から降りるの? まだまだ遠いよ」
謎的に、私の目には切り込みが入った山の間に門があるのも見える。だけど、ここから山がある場所はかなり遠い。
「だから昼前だと言ったじゃないか」
私が見上げるほどの身長の猫耳男子になったクロムが、呆れながらいう。
これは私が歩くのに時間がかかると言いたいんだよね。残念ながら、それは否定できない。
元の世界でもバスか電車の移動が殆どだったからね。
私は抱えていた虎次と竜騎を身を低くした銀太の側に置く。
「銀太。虎次と竜騎をお願いね。危険なものから守ってあげてね」
私が銀太に言うと、銀太の鼻の上にシワがよった。何? その反応?
「この平原にカリン以上の危険な生き物は居ないぞ」
「クロム。それは酷くない?」
「本当のことだ」
姿は変わっても、クロムが辛辣なのは変わらなかった。
そして、クロムはどこからともなく、深緑色の布を取り出した。
「外套だ。きっちりと羽織っておけ」
クロムは私の頭からすっぽりと深緑の布を被せて、前の留め具を留めた。
頭から足元まですっぽりと緑の布に覆われている。
ん? これなら、髪の色を変えなくても良かったんじゃない?
「これがあるのなら、色変えの術は必要ないよね。それにマントがあるなら服も買ってきてくれて良かったんじゃない?」
「ああ? お前、俺が人の姿になって服が大きくなったことに疑問を思わなかったのか? これは妖精族の特殊な服だ」
はっ! 確かにいつの間にか猫耳獣人の姿になったけど、着ている服は変わっていない。もしかして、これは姿に合わせて大きさが変わる不思議な布!
「俺が魔力をまとわせているからこの大きさだが、俺が元の姿に戻ると縮むからな」
ある意味恐ろしい布だった。これは妖精族が人の中に混じるためのものなのだろう。
「ほら行くぞ」
そう言ってクロムは私の右手を掴んで歩き出した。これは私に勝手な行動をさせないという思惑をありありと感じたのだった。
そして私は遠くで見てたよりも大きな門を見上げている。ただの線にしか見えなかった山を削ったところも、百メートルぐらいの幅がある。
「おい、馬鹿みたいに口が開いているぞ」
クロムに言われて、上を見上げるのをやめて、正面を見る。百メートルいっぱいに石壁があり、この先には安易には通さないぞという圧迫感を受ける。
「本当にお昼前についたね」
「この時間は人が少ないからうろつくにはいいんだよ」
どうやら、クロムは計算でこの時間につくようにしたみたい。
「なぜ?」
「山に入ってから人をよく見かけただろう?」
山というのは、草原から少し山を登ったところに街の入口の門がある。
草原には人は下りてこないけど、山となっている木が生えている場所は人の手が入っているように思えた。
それは人が歩くことでできる山道がいくつかあったからだ。そして、木が切られている場所もあった。
恐らく昼間は人は森に入って仕事をしているとクロムの言葉から考えられる。
だから、街に人は少なく、トラブルをなるべく避けるという意味合いもある。
「そうだね。で、門が閉じているんだけど、どうやって入るの?」
壁には大きな扉がある。それも巨人でも通るのかというぐらいの大きさだ。その扉は固く閉ざされていた。どうやって入るのかわからない。
「何を言っている。あの端を見ろ、日が昇っている間は常時開いている」
「あった!」
大きな門ばかりに目がいってしまったけど、門から離れた一番端に小さな穴がある。
あったよ。人が通る門。
「身分証があれば普通に通れる」
クロムにそう言われて、思わず足が止まる。そんな異世界の身分証なんて無いよ。
「おい、こんなところで止まるな。怪しまれるだろう」
クロムに右手を引っ張られて、自然と足が前に出る。そんなクロムを仰ぎ見た。
「身分証なんて持ってない」
「持ってないやつは金を払えばいい」
「あ……そういうシステムね」
そして段々と近づく入口に、その奥から人々のざわめきが聞こえてくる。
「ねぇ、この街って人がたくさんいる街?」
「ああ、辺境だが『隠滅の平原』の特殊素材を採取するために、冒険者や商人が出入りしているから、活気はあるだろうな」
そうなんだね。人がたくさんいるということは、服もたくさん種類がありそう。
「再度言っておくが、俺から離れるな。勝手な行動は取るな。誰かに話しかけられても話すな」
「もう、銀太に乗って移動している時に、背後から呪のように言われたからわかっているって」
「そう言いながら、カリンは『ギンタ、はやーい』とか、『トラジ、かわいいー』とか『タツキ、ぷくぷく』って馬鹿なことを言っていたよな」
いや、一度聞けばわかるよ。子どもじゃないんだから。
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