第16話 人っぽくなったらしい

「これが限界か」


 凄くクロムから呆れた声が出てきた。私はなんとか、魔力を抑えるという装飾品をつけても壊れない程度には、魔力を抑えることができた。

 一晩でここまでできたというのは、自分で褒めてあげていいと思う。

 魔力って何? から始まったのだから。


 だから、そんな残念そうな顔をしなくてもいいと思うよ。クロム。


「いいか。周りをキョロキョロしない。俺から離れてフラフラと何処かにいかない。知らない人についていかない」


 街に行ったときの注意事項を言われたのだけど、それって子どもに言い聞かせることだよね。

 私、三十年は生きているんだけど? 知らない街に行って、言葉も通じないところで、おかしな行動は取らないよ。


「大丈夫だよ」


 なに? その信じられないという目。


「ねぇ、クロムはついて来てくれるのはわかるけど、銀太と虎次と竜騎はどうするの?」


 銀太は大きすぎて入れないと思うけど、虎次と竜騎は連れて行ってもいいと思うんだよ。可愛いし。


 虎次は朝ご飯は銀太と同じ生肉を食べている。相変わらず鳥なのか豹なのかわからない。いや、肉食の鳥もいるか。


 竜騎は果物を自分の手で掴んで器用に食べている。昨日生まれたばかりで、ミルクが必要なのかと思ったら、ドラゴンに乳は出ないとクロムから言われた。

 そうか爬虫類だものねと認識したよ。ぷくぷく過ぎて、ドラゴンっぽくないけど。


「こいつらを連れて行ったら、街の中が悲鳴で埋め尽くされるぞ」

「え? 銀太がってことだよね?」

「馬鹿か! フローセア種は幼獣でも凶暴だぞ」


 私は肉を食べ終わって、毛づくろいしている虎次を抱きかかえる。


「こんなに可愛いのに?」

『キューイ?』


 虎次は抱きかかえる私を見上げて鳴き声を上げた。

 子猫みたいで可愛いよ。


「魔人の感覚には共感できねぇな。いいか。普通はそうやって捕まえることはできない。幼獣でも手首を噛み切られるだろうな」


 これはきっと名付けの所為かな。

 私が虎次の頭を撫ぜていると、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。

 そうか。普通は噛みついてくるのか。首周りをがしがしとすると膝の上でごろりと寝転がって伸びをしだした。


「おい。聞いているのか?」

「聞いているよ。虎次は可愛いよね」

「はぁ、魔人の感覚はわかんねぇよ」


 いや、魔人だからってなわけではなくて、どうみても虎次は可愛いでしょ!


「話の続きだが、魔力は絶対に使うな。色変えの術は俺がかけたからな」


 これはまだ私の魔力が安定していないからと言われた。少しでも魔力が増えると、魔力抑制の魔道具が壊れるらしい。

 そして私の髪と目は、人にはよくいるという金髪碧眼になっていた。こんなに明るい色にしたことは流石に無かったよ。


「これ以上、壊すなよ」

「はい!」


 今つけているのは、チョーカー型の赤い宝石がついている魔道具なのだけど、これ一つだけで、一年間遊んで暮らせる金額になるらしい。


 でも気になったことを聞きたいのだけど、私は未だに聞けないでいる。

 これ、チョーカーというには可愛げがない。どちらかと言えば、大型犬に使う首輪に見えなくもない。


 ここは勇気を出して聞くべき?


「クロム。ちょっと聞きたいのだけど」

「なんだ?」

「このチョーカー……もうちょっと可愛いものは無かったの?」

「ああ、それは軽犯罪者用だからな」

「軽犯罪者!」


 大型犬の首輪かと思ったら、軽犯罪者用だった! 軽犯罪者ってことは、まだ上があるってこと?


「外すなよ。だから効力が弱い順から渡しただろう。あと残るのは重罪人と奴隷用だからな」

「頑張ります!」


 流石に重罪人と奴隷用は嫌だ。

 一応、クロムも気を使ってくれて、最初は金色の指輪から渡してくれたらしい。

 そうなると孫悟空の輪は何用かとちょっと気になるけど、聞かないでおこう。あまりいい感じはしないからね。


「奴隷用なら凝った作りもあるぞ」

「絶対にイヤ! 次に街に行くときは自力でなんとかするからね!」


 というか、奴隷ってこの世界にいるんだ。

 帰るための情報を集めるなら、色んな情報は事前に知っておかないといけないな。奴隷とか面倒そうだもの。


「ほら、ギンタに乗れ。行くぞ。街には昼前ぐらいにつくだろう」


 腕時計を見ると八時半を回ったぐらい。それで昼前ということは三時間はかかるということ? 銀太の足で?

 それ凄く遠くない?


「銀太で移動してもそれぐらいかかるの? それって人の街は凄く遠いってこと?」

「いや、初めてカリンと会った場所の山側だな」

「もう少しで街だった!」


 あれ? それって私、もう少し行けば人の街にたどり着いたってことじゃない。引き返さなくても良かったのでは?……いや、そうするとクロムに会えなかったと思うから、それはそれで困る。

 異世界の情報は必要だ。


「魔物に襲われないように、切り立った山を崩して、街を作ったところだから、馬鹿なカリンにはわからなかったと思うぞ」


 私が馬鹿って、クロムの中で定着しすぎている。


 私はゴロゴロしている虎次と竜騎を抱きかかえて、銀太の側に……登れない。しまった! 頭の上に虎次は乗せれるけど、微妙に重い竜騎を抱えては自分の背の高さほどの銀太の背には登れなかった。


「カリンって魔人のくせに、身体能力が皆無だよな」


 とクロムに言われて、文句を言おうと隣を見ると……あれ? 視線が合わない。

 いつもは少し視線を下げれば二足歩行の猫がいるのに、そこにはクロムのマントが見えるだけ。


 視線を上げると灰色の髪の目つきの悪い男性がいた。それもクロムと同じ灰色の三角の耳が頭にある。


「ケモミミ!」


 獣人とはケモミミ男子だった!

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