第12話 放置されたら死ぬかも

「いいか。人族っていうのは大きく二つに分けられる」


 夕食が終わったら、クロムは地面に謎の文字を書き始めた。言葉がわかるのに文字が理解できない。

 それも私が鑑定した……恐らくステータスだろうという文字とも違うように見える。


 いや、いくつもの言葉や文字があるのは不思議じゃないけど、いったいどれほど覚えないといけないわけ?


 それも今書いている文字。象形文字に近い。何かを模して崩したような文字だ。だから、複雑だけど一つの文字に意味が込められているという感じ。


「この文字は一般的に何と表現されているの?」

「精霊文字だ。文字自体に力がある。人族が使う文字とは違う」


 ふーん。ということは最初に私が鑑定で見た文字は、人が使う文字ということかな?


「人の文字は書ける?」

「ああ? なんで俺があんな意味がねぇ文字を書かないといけねぇんだ!」


 凄く怒られた。どうも精霊文字を使っていることに、プライドがあるみたい。


「いいか。人族には人と獣人がいる。一番数が多いだろうな。人はカリンと見た目は変わらないが凄く弱い。だが、集団で襲ってきたら何をしでかすかわからねぇから気をつけろ」


 凄く面倒くさそうに言われた。昔なにかあったのだろうか?


「それから獣人だ。獣の姿をした人だ。こいつらは脳みそが筋肉で出来ているから、言葉が通じないときがある」


 獣の姿をした人。焚き火の光に照らされたクロムを見る。獣の姿の二足歩行で言葉を話す猫。どこが獣人じゃないと言うのだろう。

 でもそれを聞くとまた機嫌が悪くなりそうだから、聞かないでおく。


 しかしこの焚き火って何が燃える材料になっているかわからないよね。何か木ではない棒を燃やしているっぽいけど。


「あと妖精族は種族が多い。妖精族の代表と言えばエルフ族だな」


 エルフって妖精なの?……いや、この世界は、そうだということにしておこう。


「俺がいるから大丈夫だと思うが、エルフ族は他の種族を見下しているから、喧嘩をふっかけられたら平服しておけ」

「なんか感じ悪っ!」


 なに? その当たり屋っぽい言い方。エルフ族はヤバいって覚えておこう。


「精霊族は姿はみることはないと思うが、だいたいその辺にいる。自然の化身だな。だから火の精霊と水の精霊は相性が悪いからな! 覚えておけ!」


 私が頼んだことは、よっぽど常識外れだったらしい。再度念押しされた。


「あとは、魔族と魔人がいるが、魔族は常識が通じねぇ魔王の配下だから、関わらないようにしろ。魔人はよくわからん。カリンは、わがままなバカだと言うことがわかったが」

「私の印象が酷い!」

「ということだから、カリンと人族は全く違う」

「全然説明になってない! 見た目が変わらないのなら大丈夫なはず!」


 問題なのは黒髪と黒目だけでしょ!

 えーっと、魔法っていうのがさっぱりわからないけど、今まで口に出せばなんとかなったから、できるはず。

 私が見た人たちは金髪と茶髪がいたよね。あとは目は青とか緑……あれ? なんで凄く距離があったのに、目の色までわかったのだろう?

 まぁいいか。


「髪を茶髪に、目は青色……で、どう? 変わった?」


 後ろに一つで結っている髪を前に持ってきて、焚き火の光に当ててみると、いつもより明るい色に見える。


「変な術を使っているが、結果は問題ないな。あとはその膨大な魔力を少ないように見せかけろ」


 ……魔力? それ全然わからないのだけど? 目に見えているのなら、これのことを言っているよねとかわかるんだけどなぁ。


 取り敢えず言ってみるか。


「魔力が少なくみえるように……ってどう?」

「全然っていうか、髪の色が元に戻っているぞ」

「え?」


 手に持っている髪を見てみると、見慣れた色になっている。


「もしかして、子供みたいに、一つしか魔法を使えないとか言わないよな」

「……赤子ぐらいの扱いでお願いします」


 この世界の常識はわからないけど、私の常識には魔法というものがないので、なぜ髪の色が変わったのかも理解できていない。


 そして魔力っていうのが、全く自覚できない。多いと言われても、私はいつも通りだけど? としか思わないのだ。


「はぁぁぁぁぁぁ」


 盛大な、ため息がクロムから出てきた。だからね。私は元々この世界の人ではないし、魔人でもないからね。


「わかった。朝になったら少し出かけてくる」

「え? クロムに放置されたら、路頭に迷うけど?」

「少しって言っただろう! 強制契約があるから長期間離れたら、俺に契約不履行の罰が下るだろうが!」

「申し訳ございません」


 凄く怒られた。そうか私が強制的に契約をしてしまったから、クロムの自由は限られてしまう。


「本当にすみません」


 私は深々と頭を下げる。

 すると、またため息が降ってきた。うぅぅぅぅ……だってそんなこと知らなかったんだよ。


「ワザとではなくて、カリンが馬鹿だったというのが理解できたから、そんなに謝らくていい」


 これは私が馬鹿だと定着している!


「魔力を抑えるような装飾品が国で売っている。凄く金がかかるから、カリンへの貢物を少し売ってきてもいいか?」

「どうぞ! どうぞ!」


 全部食べるかと言われたら、食べられないと思うので、お金に替えてくれていいよ。

 そうか、物を買うにはお金がいるのは、世界が変わっても同じなんだね。

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