第11話 せめて人に化けろ
「カリンが『トラジ』と名付けたのは、フローセア種の幼獣だ。成獣なら人族のAランクグループで、なんとか討伐できるぐらいの強い魔物だ」
私の膝の上には、豹なのか鳥なのかわからないけど可愛い子猫が、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
こんなに可愛いのに、強いらしい。でもクロムに説明されたけど、その基準がよくわからない。
「そもそも『人族のAランクグループ』がわからないのだけど?」
「人族にしたらすっげー強い奴らのグループだが、カリンからすれば虫けらだな」
「言い方が酷い!」
私はそんなに強くないよ!
「ほら、食える時に食っておけよ」
三つの太陽が傾き、オレンジ色の光が世界を照らしている。いつの間にか夕方になっていた。
そう、溺れ死にかけて、気がついたら夕方だった。そして、私はキジトラ猫の虎次の夢を見た気がするけど、名をつけた覚えはない。あれ? でもクロムも夢に出てきたような?
そしてクロムから夕食を渡された。それは大きな葉っぱの上に、更に葉っぱに包まれた謎の物体があった。
「これは?」
「肉を葉っぱで包んで焼いたものだ」
ホイル焼きみたいなものかな? 葉っぱの先をめくって開けてみれば、黒い謎の肉があった。
なに? 見たことが無いぐらいに黒い肉……焦げた感じではなくて、肉が黒い。
クロムを見ると、手づかみで食べている。そうだね。私もお弁当の割り箸を洗って使い回しをする現状。
食べても問題なさそうなのを確認して、私も一口大に切られている黒い怪しい肉を食べる。
「ん! 臭くない!」
あの肉臭さが解消されている!……が、味は素材の味そのものだ。
「ちょっと、これと一緒に野菜を焼くってできないの?」
「野菜? 果物しかないな」
「そうだった!」
果物しかお願いしていなかった。しかし、香辛料は欲しい。
「クロムが食べるものを用意してくれるから、私は飢えることがなくて感謝しているけど」
「あ? なんだ? けどって?」
「素材の味だけじゃなくて、塩ぐらい欲しい!」
すると私の直ぐ側にドンッ! っと何かが落ちてきた。横をみると白い岩の塊がある。くっー! そうなんだけど!
「塊のままって使い勝手が悪すぎるよね!」
「カリンって、わがままだな」
「わふっ」
「どこが!」
美味しいものが食べたいというは人としての本能!
って銀太まで同意しているの! でも! でも! 水に落ちたので、服の汚れは謎的に綺麗になって、身体もさっぱりしたけど!
着替えは欲しいし! 香辛料も欲しい!
「人の街に行きたいの! 私はまったく野宿や旅なんて、想定していないの!」
「確かに窮屈そうな服を着ているよな」
そうでしょう! そうでしょう!
「でも人の街は無理だぞ」
「何故に!」
「いいか。カリンが人の街に行くってことは、魔王が人の街に行くようなものだ」
「私は魔王じゃないよ!」
どうして、私と魔王を同列視するわけ? 魔人という枠組みに入るっていうだけだよね?
「ねぇ、どうにかならないの? 言葉が通じそうなケットシーの国には行くのは駄目って言われるし! 人の街に行くのも駄目って言われるし!」
私はそんなワガママを言われてもなって顔をしているクロムに詰め寄って、肩を掴んで揺する。
私が頼れるのは二足歩行の喋る猫しかいないのだよ。
「せめて人族に化けろ」
「人だし!」
「魔人な」
くー! そもそも第一異世界人を発見した姿は、西洋人ぽかったけど、姿形的には変わらなかった……はず! 何が違うの!
「魔人って言われても、私は何も変わっていないよ」
「わがままということだな」
こんなこと、わがままに入らないよ。
「わがままっていうのは、こんな肉じゃなくて、ちゃんとした料理を食べたいって文句を言うことだよ」
「言ったよな」
「わふっ」
くっ! この世界では塩をかけるっていうことも、ちゃんとした料理に含まれるわけ? 塩は人が生きるのに必要な栄養素だよ。
ゾウだって、わざわざ塩を食べに集まる場所があるって言うぐらいじゃない。
「塩は生きるのに必要な栄養素……焼く肉に塩をふりかけるだけで、別に塩に漬け込んで燻製にして欲しいとか言っていないよ」
「くんせいってなんだ?」
「異世界は保存食もないの? 私が最後の食料って渡したような物」
カチカチの肉の塊じゃなくて、食べやすいように加工してあるけど。
「へー。あの肉は、変な歯ごたえがあって美味かった」
味じゃなくて歯ごたえ! もしかして、味覚の機能が発達していない?
「あと、人に黒い目や毛を持つヤツはいない。獣人ならいるから、人族に化けろって言っているんだよ」
獣人? 私は首を傾げてクロムを見る。二足歩行の猫。獣人だよね。
「クロムの姿が獣人?」
「ああ? 俺は妖精族って言ったよな! その頭の中には何が詰まっているんだ?」
そう言えば、らしくない妖精族って言われていた。そうだね。カバ一家のキャラクターと一緒だね。意識しておかないと、絶対に忘れる自信がある。
だってどう見ても私には、二足歩行の喋る猫だし。
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