第13話 ドラゴンから貢がれたもの
「なんだ! これは!」
異世界五日目の夕刻。
クロムが頭を抱えて叫んでいる。そして私の背後を指して言った。
「俺が半日離れただけで、なぜこのようなことになっているんだ!」
私の背後には山のように積み上がったキラキラした板状のものがある。それも色とりどりで宝石のように綺麗だけど、これは宝石ではない。
「親切なドラゴンさんたちが鱗を分けてくれた」
「そんなことがあるか!」
クロムは叫んでいるけど、本当のことだ。
それは今朝のこと。クロムは国に戻ると言って去っていったので、私は今後のことを考え行動に移した。
異世界で物を買うにはお金が必要。だけどお金は持っていないので、お金になりそうなものを探しに行けばいい!
「ねぇ、銀太。人が好みそうなお金になるモノがある場所って知っている?」
私は気がついてしまった。銀太も私の言葉を理解していると。日本語がわかる狼だと。
昔家で飼っていたハスキー犬の銀太より偉い。
すると銀太は『わふっ』と鳴いて身を低くした。
これはその場所に連れて行ってくれるということなのだろう。
私はパタパタと飛んでいる虎次に手を伸ばして、こっちに来るように言う。すると『キューイ』と鳴きながら、私のところにやってきた。虎次も日本語がわかるとなると、名付けの契約に何かがあるのかもしれない。
そして、虎次はニャーと鳴くと思っていたのに、鳥のような鳴き声に更に猫科なのか鳥なのか分からなくなってしまった。
虎次を抱えて、銀太の背によじ登れば、銀太は颯爽と草原を駆け出したのだった。
たどり着いたのは、虎次がいた泉からも見えていた岩ばかりの山。まるで地面から巨大な岩の槍が突き出したかのような感じで、他の周りの山とは雰囲気が違っていた。
山の頂上に向かうわけでもなく、何かを探すように移動している銀太。
でも、岩山に入って一時間ぐらいたったけど、全く生き物を見かけてはいない。
「ねぇ、お金になりそうなモノって何?」
銀太に聞いてみたけど、銀太は話せないのだった。これはどうすべきかと悩んでいると、日差しが何かに遮られる。
ふと視線を上げると翼の生えた何かが上にいる。そして目の前に下りてきて、口に何かを咥えて差し出してきていた。
「鱗?」
多分本物は見たことがないから予想だけど、ドラゴンというモノではないだろうか? 銀太より大きいように思える全身が、鱗に覆われ翼が生えたトカゲ。あっ、頭に二本の角も生えている。
緑色のトカゲ……ドラゴンが緑色の鱗を差し出しているのだ。だけど、その鱗の大きさは私とあまり変わらないように思える。流石にこれは持てないな。
「くれるの?」
するとドラゴンは『グルルルル』と鳴いた。これは了承の意味でいいのだろうか。
「流石に持てないから、あそこに見えている丸い泉の側に置いてきてくれる?」
そう、お願いするとドラゴンは翼を広げて飛んでいった。
あれも貢物になるのかと思っていたら、上空に複数の色が違うドラゴンが飛んでいた。それも丸い泉のほうに向かっている。
「え? あんなにドラゴンがいたの? 銀太がウロウロしていたのに一匹も見当たらなかったよ」
もしかして、銀太の動きに合わせてドラゴンたちが逃げ回っていたのだろうか。
私ってそこまで恐がられているの? あんな巨大なドラゴンにまで?
魔人っていったい何! と思いながら、泉の方に戻っていくと、クロムが指した鱗の山が出来上がっていたのだった。
「よくわかった。カリンから目を離すと、何をしでかすかわからないってことが」
そしてクロムは山になった鱗の前で項垂れている。
でも、ドラゴンがくれるっていうから、もらったんだよ?
「これってお金になるんだよね。銀太にお金になるモノがあるところに連れて行ってもらったんだよ。人の街に行くなら、お金に替えられるものが必要だよね?」
するとクロムはますます項垂れていく。
「常識がないって、こういうヤツのことを言うんだよな。俺なんか可愛いものじゃないか」
クロムは誰かから常識がないと言われているのかな? 元気がないクロムにはコレをあげよう。
「クロム。これを食べて元気になろうよ。多分美味しいのじゃないのかな?」
私は綺麗な白いダチョウの卵をクロムに見せる。
ダチョウの卵は見たことあるよ。大きさも質感も一緒だ。ただ、少し重いような気がするけど。
「おまえっ! 馬鹿か! それはドラゴンの卵だ! 今すぐ返してこい!」
「え? ダチョウの卵だよね?」
私は首を傾げならが、手に持っている卵をみる。この卵、帰り道に落ちていたんだよね。別に何かの巣があるように見えなかったし。育児放棄された卵だと思う。
「だちょうってなんだ! そもそもシューエル山は魔力が強すぎてドラゴン以外住みつかねぇ場所だ!それに今は繁殖の時期! 状況的にはドラゴンの卵以外ありえねぇ!」
山自体に強い魔力がある? そんなところに住むドラゴンに逃げられる私ってなに!
仕方がない。ドラゴンの卵が食べれるかはわからないから、戻しておくよ。
「でも巣っぽくない場所に落ちていたけど?」
「その巣はカリンの目線ではなくて、ドラゴンの目線で巣ではないと判断したのか?」
「うーん? 広い平らな場所の周りが岩に囲まれていた」
「岩しかない山に平らな場所がある時点で、ドラゴンがわざわざ平らにしたって、ことだろうが!」
どうやら私が何もない場所と思っていたところは、ドラゴンの巣だったようだ。
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