第4話 猫がしゃべっている!


「やらかしたなら、元に戻して行け!」


 猫が日本語を話している……なんと! この世界は猫が日本語を話す世界だったのか!


 それも子供ぐらいの大きさの灰色の猫が後ろ足で立っているし、毛むくじゃらなのに衣服を着てマントまで羽織っているし、その毛は防寒の意味じゃなかったの!


 もう、いろんなことを言いたくて、私の口からは『あ……えっと……何?』としか声がでてこなかった。

 パニックになると人の言葉を言えなくなるよね。


「お前だろう! 山を凍らせたヤツは!」


 やま? 山……を凍らせた?

 ……もしかして朝霜のこと? 凍らせたって……文句言われるほど凍らせてはないし、私自身もよくわかっていないのだけど?


「え〜っと、猫さん。山を凍らせたのが私って、なぜそう思ったの?」


 まずはそこからだ。私がやったと決めつけている。心当たりはあるけど、私じゃないかもしれない。


「何を言っているんだ? お前の存在そのものが、示しているだろうが!」


 ……日本語なのに……日本語のはずなのに、私には猫が言っている意味が理解できなかった。


 そもそも私の心当たりは昨日の朝にビールを飲んで、これが冷えていたらなぁと思っていただけだ。いや、心の声を口に出しただけだ。

 それにたとえ、あの朝霜の所為だとしても、丸一日経っている。夏のような日差しじゃないけど、日中は太陽が地面を照らし、氷が解ける零度以上だったはずだ。残っている方がおかしい。


「猫さん。確かに心当たりはあるけど、昨日のことだよ。もう解けているはず。それに朝霜みたいになってしまっただけだよね」

「ああ? そんな簡単にとけるか! 山が真冬のようになって、山全体が凍りついているんだよ! 国に帰ろうと思ったら入口が凍りついて開かねぇんだ! やった張本人がなんとかしろ!」


 山が真冬……え? そんなことになっているの? 私の記憶では遠くの山が白くなったなと……うん。朝霜だけでは山は真っ白にはならないね。


 しかし、真冬の山から下りてきたから、この猫は毛に覆われているにも関わらず、服を着ているのか。


 それに日本語で話す猫がいる国。これは猫にお願いして、その国に連れて行ってもらえないかな?

 このままここに居ても、人っぽいと思って声をかけたら、攻撃されてしまった。だから、元のところに帰るのには何処かの国に行って情報を集める必要がある。それには言葉が通じる国という条件だ必須だ。


「えーっと、その……元に戻したら、猫さんの国に行ってもいいかな?」

「国を亡ぼしにか!」


 え? なぜそうなってしまったの? 私は一言も国を亡ぼしたいなんて言っていない。

 言ったのは、国に行きたいと言っただけだ。


「それから、さっきから俺のことをネコネコと言っているが、俺はケットシーだ!」


 ケットシー……猫の王様の絵本で読んだ記憶があるけど、あれって猫が次の王様は僕だって言った話だったよね。


 うん。猫が話しているのは合っている。だけど、ケットシーがよくわからない。


「えっと、猫さんの国は猫さんがたくさん住んでいるのかな?」

「ああ? ヴィレの山にはケットシーの国の入口があるって常識だろうが!」


 ごめんなさい。その常識すら知らないのだけど?


 でも、ということは、日本語を話す猫の国なら、何か帰れる情報か、せめてこの異世界らしいところの情報が欲しい。

 ここに居ても常識ですらわからないのだから。


「あの……この食べ物をあげるから、そのケットシーの国に連れて行ってもらうって駄目かな?」

「それは俺達を太らせて食べようという魂胆か!」


 いや、肉は好きだけど、猫を食べようだなんて思ったことはないよ。


「それにこれらはお前に貢がれたものだろう。それをもらい受けるわけにはいかない」

「え? これ貢がれていたの?」


 いや、考えてみればおかしなことだ。私がお腹が空いて、食べたいと言えば、今まで何も居なかった草原に、土煙が立ち上るほどの勢いで何かが近づいてきて、上から食べられるであろう牛っぽい物が降ってきた。


 それで鳥がいるのかと口にすれば、鳥も必要なのかと言わんばかりに地面に叩きつけられた?


 いやいやいやいや、これは流石に考え過ぎだよね。


「これ、何で貢がれたの?」


 私は山になっている見たことがない動物の死骸と果物の山を指して聞いてみる。


「そんなの知らねぇよ」


 そうだよね。猫には関係ないことだものね。


「だが、お前が欲しいって言ったんだろう? 己が食べられる前に他のモノで腹を満たせと、差し出したんだろう?」

「うー……やっぱり、私がお腹が空いたと言ったのが原因?」


 灰色の猫は毛むくじゃらの顔をしているのに、何を言っているのかと言わんばかりに顔をしかめている。


 これは私がこんなに食べると思われているのか?


 私のこの状況が全く理解が出来ずに頭を抱える。猫はこの状況が普通だと理解している。


 いや、この猫は私がここにいて、貢物を受けているのが当然だと理解している。そう、猫は私がここにいる状況が当然だと受け止めているのだった。


「ねぇ、私は何者?」


_________



小話

灰色ネコさん。国に帰ると言っていますが、実は入り口は別にもあります。訳ありで裏の入り口であるヴィレ山からこっそりと帰ろうとして、足止めされて怒っています。

表から帰るのがよっぽど嫌なようです。

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