第3話 もう泣きたい
「ああ、太陽が三つだ」
翌朝、目が覚めて太陽が三つもあることに絶望する。夢ではなかったと。
昨日、朝は食べずに我慢して、お昼におにぎりと夜に最後のおにぎりを食べたから、残るは菓子パンただ一つ。ビールのつまみがあるけど、これは日がもつから手を出したくはない。
「うぅぅぅぅ。あんぱん美味しいぃぃぃ」
最後に甘いものを残したけど、心に染み渡る。
もう、帰りたい。帰ってベッドの上でゴロゴロしたい。草の上で寝るのは、もうイヤ! チクチクする!
「飲み物もビールだけかぁ。ペットボトルはあるから、水があれば飲水の確保に……お腹を壊すかな?」
山からの湧き水なら飲めるって聞いたことがあるけど、ここはどう見ても平原。絶対に煮沸消毒が必要だよね。そんな道具ないし、そもそも火が熾せないし。
「綺麗な水って湧いてこないかなぁ?」
そんなことは無理なのはわかっているけど、切実に水が欲しい。アンパンは喉が乾く。
あと歯磨きしたい。リュックの中に歯磨きセットはある。綺麗な水があればできる。
するとゴゴゴッという地鳴りが聞こえてきた。
「え? 地震? こんなところで?……まぁ、上から降ってきそうなものは無いけど」
屋外で周りには何もない平原だと、太陽しかない空を見上げれば、水しぶきが顔にかかった。
「冷たい! なにこれ水?」
辺りを見渡すと少し離れたとこで噴水が上がっている。それも地面から噴出している。
そして徐々に勢いが衰え、水が湧き出ている波紋が見える水たまりになっていた。
……突然、地殻変動が起きて、地下水が出てきた?
普通ならラッキーと言うべきだけど、この状況に頭が追いついてこない。凄く怖いというのと、喉が渇いているという間で私の心は揺れ動いている。
「うまっ!」
喉の渇きには勝てなかった。
ペットボトルに水を汲んで飲んでみたら、クセがなくてとても美味しい水だった。
顔も久しぶりに洗った。歯も磨いてすっきりした。
日差しが心地よい草原に寝転がる。
生き返った気分だ。でも足りないものがある。
「化粧水が欲しい。なんでリュックの中には、化粧直ししか入っていないの?」
いや、そもそもこんな状況に陥るとは思っていないので、通勤で重くなる要素は必要最低限にしている。
うじうじと考えても仕方がないことを、考えていると、パシャンっと顔に水がかかった。
「何! また水が吹き出した!」
慌てて起き上がるも、水たまりは何も変わらず、水面が湧き水によって揺れているだけだ。
何が起こっているのはさっぱり分からず、顔にかかった水をハンカチで拭き取ると……なんだか肌のつっぱりがなくなっている?
「まさかね」
しかし落ち着いたら気が緩んだのか、お腹が鳴り出した。さっき、あんぱんを食べたじゃない!
いや、あんぱんだけでは足りないのはわかっている。昨日なんておにぎりが二個だ。足りるわけではない。
でも残りのビールのつまみで買ったジャーキーを食べても、お腹の虫は満足しないだろう。余計に喉が渇くだけだ。
「はぁ、お肉が食べたい! 魚でもいい! みずみずしい果物が食べたい! 美味しいものが食べたい!」
人は三大欲求に敵わないものだ。特に食欲! 食べたいのは食べたいのだ!
仕方がない。遠くに見える山の方に行けば、木の実ぐらいはあるかもしれない。季節的にあるかどうかは知らないけど。
グーグーと、うるさいお腹を押さえながら立ち上がると、またしても地響きが鳴り出した。
「今度はなに!」
どこで噴水があがってもいいように見渡していると、遠くのほうに砂埃が舞っているように見える。
地割れ!
どこに逃げればいいのか、周りを見渡していると、目の前に茶色い塊が降ってきた。
「ひっ!」
馬? 牛? よく分からない四足の有蹄類の獣が落ちてきた。上を見上げると、見たことがないぐらい大きな翼を持った鳥が飛んでいる。
「鳥っていたんだ」
すると、空を飛んでいる大きな鳥が蔦のようなモノに絡まれて、地面に叩き落された。
「鳥が落とされた!」
慌てて視線を空から地面に戻すと、よくわからない動物の死屍累々が私の周りに積み上がっている。
そして木が動いて近づいてくるのが見える。
これは何? 何が起こっているわけ? あの木から逃げた方がいいよね。でもなんだかよくわからない死骸を越えないと逃げられない。
もう泣いていいかな? 泣き叫んでいいかな?
こんなところもう嫌だよ。
四メートルはありそうな木が死屍累々の手前で止まり、蔦を私に向けて奮ってきた。殺されると身を固くして目を瞑る。
……痛みが来ない。
……それよりも甘い匂いがするのだけど?
そっと目を開けてみると、死屍累々の手前には、何かの果実らしいものが、山のように積み重なっていた。
そして動く木の姿はいなくなっている。
「全然意味がわからないのだけど? なにこれ? 私が食べ物が欲しいと言ったから、こうなっているわけ?」
言った。確かに言った。
だけど、よく分からない生き物そのままってどうすればいい! 生で食えるはずないよね!
そもそも、どこからこんな生き物が降って湧いてきたわけ?
駄目だ。お腹が空きすぎてイライラしてする。
目の前の山積みなっている果実らしきものに視線を向ける。
あっ!これはどう見てもリンゴだ。赤いリンゴ。皮が薄いからそのまま食べれそう。
赤いリンゴを手にとって、がぶりと齧り付く。咀嚼する。赤いリンゴの齧ったところを見る。
うん。みずみずしいね。みずみずしいのだけど……
「見た目がリンゴなのに中身がミカンって頭と舌がパニック!」
リンゴの中身が赤いつぶつぶって柘榴っぽい。食べるけどね。
見た目と中身が予想とは違う果実を三つ食べたところで満足し、改めて周りをみる。
この死屍累々をどうすればいいのだろう?
「おい! アレの仕業はお前か!」
背後から私のわかる言葉が聞こえてきた!
「日本語!」
これで助かる。そして元の世界に帰れる。そう思って振り返って見た人物は人ではなく灰色の猫だった。
猫って!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます