第2話 異界人から攻撃された!
お弁当を食べ終わった私は、通勤用のリュックを枕にして草原に寝転がった。
ここが安全かどうかわからないけど、今の私にはどうしようもない。ならば、草に隠れるように寝転がるぐらいしかできない。
「はぁ……何故にこんなことに、なっているの?」
終電に間に合うように資料を作り終えたから、疲れていたし、パソコンを見すぎて目が死んでいたことも認める。
いつものコンビニで買物するまでは、普通だったはずだ。私の手には買ったものがあるし。
ああ、駐車場で騒いでいるなと思った記憶がある。高校生かな? 大学生かな? それぐらいの男女が五人ぐらい集まっていて、頭に声が響いてうるさいなと思った。
なんだったかなぁ?
『これって魔法陣ってやつじゃねぇ』
『動画撮ってアップする?』
『え?動けない!』
『これって異世界召喚じゃないのか!』
『俺TUEEEやりてー!』
とか言っていたから、アニメの話で盛り上がっているのかと……ん? 異世界召喚?
それに巻き込まれた系?
いやいやいやいや! ここには誰もいないけど!
ほら、アニメの巻き込まれた系って、どこぞかの神殿に召喚されて、異界の人に囲まれているって状況だよね!
私一人だし!
「ないわー」
*
気がつくと朝だった。寝てしまっていたらしい。
太陽が三つ空に浮かんでいた。
夢ではなかった。
「これからどうすれば良いのだろう?」
もうここが日本でも地球でも無いことは理解した。でもさぁ、異界の人と会って言葉が通じるのかって問題があるし、異界人が見ず知らずの私に親切にしてくれるとも思えない。
異界から召喚されるということは、召喚されるような、ろくでもない原因があるということだ。
あれか。まずはこういう場合の儀式をしなければならないよね。
「ステータスオープン!」
……私の目には青い空と三つの太陽しか映らない。何も起こらなかった。
「ゲームの世界でもないと……では『鑑定』……」
すると目の前に透明な板が出現した。
「これは剣と魔法の世界ってところかな? でもRPG系って得意じゃないのだけどなぁ」
どちらかというと、ほのぼの農業系の方が、好みだ。一瞬で種まきを終えて、一瞬で収穫できる謎システム。
はぁ、そもそもこの透明の板に書かれている文字が読めない。どこの文字?
日本語にしろよ! 私は日本人だし!
もう詰んでいる。文字が読めないって最悪だよね。契約書だって渡された紙に、理不尽なことが書かれていても、わからないということだ。
「食べ物はどうするかなぁ。あとおにぎり二個とパンしかないからなぁ。朝からビール飲んでいいかなぁ。五缶買ってあるから、一缶ぐらいいいかなぁ。よし! 飲まなきゃやってられない!」
コンビニの袋をから缶ビールを取り出して、プシュっと開けて空きっ腹にビールを流し込む。
「ぬるい」
ぬるいビールだ。仕方がないのはわかる。しかし、ビールは冷えていてこそ!
「冷えてくれないかなぁ」
するとピキッっと音が響いてきた。そして、私は目の前に広がった光景に唖然とする。
「草原が凍っている」
何が起こったのか全くわからない。草が生えた大地が白く、放射状に凍っているのだ。それも私を中心に、目に見える遠くの山までもだ。
「ははははは、朝霜かな?」
そう脳内で処理をして、缶ビールに口をつけて飲む。先ほどとは違い、喉越しが良く一気に一缶を飲み干す。
「何故に冷たいんだ!」
思わずビールの空き缶をグシャリと握りつぶしてしまった。
それはビールは冷たい方がいいと思ったよ。だけど、気候としては寒くも暑くも無いので、地面が凍りつくほどじゃない。
ああ、駄目だ。私には理解できないことが起こっている。
まずは、食べ物を探そう。あと水だ。それから、人がいればここがどこか聞き出せるかもしれない。
一応、英語とフランス語は話せる。よし!
私は空を見上げた。三つの太陽が真上から傾きだしている。腕時計をみると午後二時。
全く何も居ない。空を見上げても鳥も飛んでおらず、どこまでも続いている草原には動物らしきものの姿も見えない。
なにこれ? もしかしてこの世界の生き物が、私だけとか言わないよね。それ生きていける自信がないよ。
周りを見渡しながら歩いていても人工物すらも見えない。凄く遠くに見える山を越えれば、何か生き物が居たりするかもしれない。
そんな蜘蛛の糸ほどの希望を持ちかけたとき、私の目に人らしきものが映った。
らしきものでも、藁にしがみつく勢いで駆け出す。あの人らしき数人を見逃したら、私はもう誰とも会えないかもしれない。
あれ? ずっと歩いていたのに身体が軽い。社会人になってから、運動なんてしていなかったのに、こんなに走れるんだ。
あ! 人だ! 私の目には西洋人らしき人たちが六人ほど見える。
「こんにちわ~! 少しお話できますか〜!」
私が近づきながら声を掛けると、相手の人たちは叫び声を上げ始めた。
え? なに? その怖ろしいモノに出会ったという反応。
「ちょっとだけでいいのです〜!」
『ΝχιΕΠζΔΠ‼』
『ΒλΗΓΞΓΗξ!』
全然わからない言葉だった。
そして、私の右頬の何かがかすめて、思わず立ち止まる。
何か次々と……火とか氷とか突風みたいのが飛んでくるのだけど!
これってもしかして魔法っていうやつ?
ってことは、私が攻撃されているってことぉぉぉ!
気がつけば、西洋人ぽい人たちは居なくなっていた。
私、呼びかけただけなのに攻撃されるの? それも言葉が知っている言葉に当てはまらなかった。
これもう詰んでない?
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