第2話 異界人から攻撃された!

 お弁当を食べ終わった私は、通勤用のリュックを枕にして草原に寝転がった。

 ここが安全かどうかわからないけど、今の私にはどうしようもない。ならば、草に隠れるように寝転がるぐらいしかできない。


「はぁ……何故にこんなことに、なっているの?」


 終電に間に合うように資料を作り終えたから、疲れていたし、パソコンを見すぎて目が死んでいたことも認める。


 いつものコンビニで買物するまでは、普通だったはずだ。私の手には買ったものがあるし。


 ああ、駐車場で騒いでいるなと思った記憶がある。高校生かな? 大学生かな? それぐらいの男女が五人ぐらい集まっていて、頭に声が響いてうるさいなと思った。

 なんだったかなぁ?


『これって魔法陣ってやつじゃねぇ』

『動画撮ってアップする?』

『え?動けない!』

『これって異世界召喚じゃないのか!』

『俺TUEEEやりてー!』


 とか言っていたから、アニメの話で盛り上がっているのかと……ん? 異世界召喚?


 それに巻き込まれた系?

いやいやいやいや! ここには誰もいないけど!


ほら、アニメの巻き込まれた系って、どこぞかの神殿に召喚されて、異界の人に囲まれているって状況だよね!


 私一人だし!


「ないわー」






 気がつくと朝だった。寝てしまっていたらしい。

 太陽が三つ空に浮かんでいた。


 夢ではなかった。


「これからどうすれば良いのだろう?」


 もうここが日本でも地球でも無いことは理解した。でもさぁ、異界の人と会って言葉が通じるのかって問題があるし、異界人が見ず知らずの私に親切にしてくれるとも思えない。

 異界から召喚されるということは、召喚されるような、ろくでもない原因があるということだ。


 あれか。まずはこういう場合の儀式をしなければならないよね。


「ステータスオープン!」


 ……私の目には青い空と三つの太陽しか映らない。何も起こらなかった。


「ゲームの世界でもないと……では『鑑定』……」


 すると目の前に透明な板が出現した。


「これは剣と魔法の世界ってところかな? でもRPG系って得意じゃないのだけどなぁ」


 どちらかというと、ほのぼの農業系の方が、好みだ。一瞬で種まきを終えて、一瞬で収穫できる謎システム。


 はぁ、そもそもこの透明の板に書かれている文字が読めない。どこの文字?

 日本語にしろよ! 私は日本人だし!


 もう詰んでいる。文字が読めないって最悪だよね。契約書だって渡された紙に、理不尽なことが書かれていても、わからないということだ。


「食べ物はどうするかなぁ。あとおにぎり二個とパンしかないからなぁ。朝からビール飲んでいいかなぁ。五缶買ってあるから、一缶ぐらいいいかなぁ。よし! 飲まなきゃやってられない!」


 コンビニの袋をから缶ビールを取り出して、プシュっと開けて空きっ腹にビールを流し込む。


「ぬるい」


 ぬるいビールだ。仕方がないのはわかる。しかし、ビールは冷えていてこそ!


「冷えてくれないかなぁ」


 するとピキッっと音が響いてきた。そして、私は目の前に広がった光景に唖然とする。


「草原が凍っている」


 何が起こったのか全くわからない。草が生えた大地が白く、放射状に凍っているのだ。それも私を中心に、目に見える遠くの山までもだ。


「ははははは、朝霜かな?」


 そう脳内で処理をして、缶ビールに口をつけて飲む。先ほどとは違い、喉越しが良く一気に一缶を飲み干す。


「何故に冷たいんだ!」


 思わずビールの空き缶をグシャリと握りつぶしてしまった。


 それはビールは冷たい方がいいと思ったよ。だけど、気候としては寒くも暑くも無いので、地面が凍りつくほどじゃない。


 ああ、駄目だ。私には理解できないことが起こっている。


 まずは、食べ物を探そう。あと水だ。それから、人がいればここがどこか聞き出せるかもしれない。

 一応、英語とフランス語は話せる。よし!




 私は空を見上げた。三つの太陽が真上から傾きだしている。腕時計をみると午後二時。


 全く何も居ない。空を見上げても鳥も飛んでおらず、どこまでも続いている草原には動物らしきものの姿も見えない。


 なにこれ? もしかしてこの世界の生き物が、私だけとか言わないよね。それ生きていける自信がないよ。


 周りを見渡しながら歩いていても人工物すらも見えない。凄く遠くに見える山を越えれば、何か生き物が居たりするかもしれない。


 そんな蜘蛛の糸ほどの希望を持ちかけたとき、私の目に人らしきものが映った。


 らしきものでも、藁にしがみつく勢いで駆け出す。あの人らしき数人を見逃したら、私はもう誰とも会えないかもしれない。


 あれ? ずっと歩いていたのに身体が軽い。社会人になってから、運動なんてしていなかったのに、こんなに走れるんだ。


 あ! 人だ! 私の目には西洋人らしき人たちが六人ほど見える。


「こんにちわ~! 少しお話できますか〜!」


 私が近づきながら声を掛けると、相手の人たちは叫び声を上げ始めた。

 え? なに? その怖ろしいモノに出会ったという反応。


「ちょっとだけでいいのです〜!」

『ΝχιΕΠζΔΠ‼』

『ΒλΗΓΞΓΗξ!』


 全然わからない言葉だった。


 そして、私の右頬の何かがかすめて、思わず立ち止まる。

 何か次々と……火とか氷とか突風みたいのが飛んでくるのだけど!

 これってもしかして魔法っていうやつ?


 ってことは、私が攻撃されているってことぉぉぉ!


 気がつけば、西洋人ぽい人たちは居なくなっていた。


 私、呼びかけただけなのに攻撃されるの? それも言葉が知っている言葉に当てはまらなかった。


 これもう詰んでない?

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