第4話『回想』

 私と紅葉が出会ったのがいつだったのかは、あまりにも幼い頃だったので、よく覚えていない。逆に言えば、それくらい昔から親友だったとも言える。

 何をするにも一緒だったし、誰よりも大好きな人だった。小4の頃に好きだった初恋の相手よりも、紅葉の方が大好きだったかも知れない。

 でも、いやだからこそ、になるのかな。彼女からの告白は、とてもショックだった。親友に裏切られたような、そんな気持ちになったんだ。

 授業では『年頃になると異性に興味を持つようになる』と習っていたし。当時の担任も、『中には同性を好きになる変態もいるが、皆はそうはならないようにな』と話していたから。ド変態が親友面して側にいたんだって、怖くもなった。

 勿論、今だったら、あの教師が酷い差別をしていたのだと。それを私達に植え付けていたのだと、分かるけれども。その時の私には、まだその判断が出来なかった。だから、色々と酷い言動をしてしまった。


 紅葉に言葉のナイフを突き立てた少し後、私は祖母に愚痴るつもりで、その時の事を話した。そうしたら、いつも穏やかな笑みを浮かべていた祖母は、怖いくらいに真顔になって、私に自身の事を教えてくれた。動物の同性愛行動についても、図鑑を示しながら教えてくれた。


 祖母が両性愛者バイセクシャルであり、初恋の相手は女の子だった事。ボノボのホカホカのような例もある事。そういった事実を知った私は、一番の親友を裏切ってしまった事実に、強い悔恨の念に襲われた。彼女に会わせる顔がないと思った。


 それでも逃げ場がなければ、その内顔を合わせる事になっただろうし、仲直りだって出来たかもしれない。いや、私は真摯に謝罪して、許しを請うべきだったのだ。

 けれど、そもそもの告白が、親の転勤に伴って、私が転校する事がキッカケだった。そして私は、一方的かつ簡易な手紙を郵便受けに放り込むと、そのまま逃げ出してしまった。

 私は自身の罪から、想起させる存在から、距離を取っていった。忘れたくても忘れられない存在から、必死に目を反らした。それはいつしか、日常のルーチンと化していった。


 そして、4年の月日が経ち、今になってココに戻ってきた。遅すぎる、過去との対面をする為に。

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