第拾玖話 初心者よ 相対するは 角ウサギ
[エルミラージとの戦闘が開始されました。]
「
普通のアルミラージであれば、直立してもアマオーの胸に届くか届かないか。一方でこのエルミラージは彼女の2倍の図体をしていた。
(もしかしてLサイズのアルミラージだからエルミラージ……みたいな?)
果たしてそれは真相か否か。それを確かめるのが今ではないことだけは確かだ。
「ショート、来て!」
「来たぜ」
エルミラージの突進攻撃を横にジャンプして躱しつつ、ショートにお願いをする。
「今から魔法ぶつけてくからあのモンスターの弱点見つけて!」
「お安い御用だぜ!」
火の球、雷の矢、氷の槍、風の刃、土の弾丸、水の波動。様々な属性の攻撃魔法がそれぞれに適した姿を持ってエルミラージへと殺到していく。そのどれもが無詠唱であるためダメージはそれほど見込めないものの、アマオーの狙いはダメージとは別の所にあった。
「ショート! どうだった?」
「火が特に効いてるんだぜ。他はそこそこだけど、雷はあまり効いてないぜ」
「わかった。ありがとね!」
攻撃系魔法職の立ち回りにおいて重要視される要素の一つ。それは「相手の弱点属性を把握しておく」ということ。
魔法職の攻撃は物理職のそれと比較して属性による補正の比重が大きい。特にアマオーが今使っている魔法は「基礎属性魔法」と呼ばれるカテゴリであり火の球や氷の槍といった属性の力を直接ぶつける代物。例えばファイアーボールのダメージの割合は「基本ダメージ:30% / 属性ダメージ:70%」となっている。
そのため「火」「水」「風」「土」「雷」「氷」「光」「闇」の8つの属性の中で何が効いて何が効かないかを把握し、効率よく相手にダメージを与えていくことは非常に重要なのである。
「炎神よ、我が声を聴きたまえ!―――――」
視界端に表示されるファイアーボールの詠唱文を一語一句違わずに読み上げていく。それ相応に時間が掛かる弱点はあるが、それ以上に得られる恩恵があるからこその選択だ。
「ファイアーボール!」
先ほど様子見で放ったのとは二回りほど大きさが違う火球がエルミラージの腹部に直撃する。
「デュマッ!?」
(同じMP消費でもかける手間でここまで威力が変わってくるんだから面白いよね!)
さらなる追撃のために杖の照準を合わせるアマオー。一方でエルミラージは何やら力をためるような動作を見せる。
「炎神よ、我が声を――」
「デュマア~~~!」
エルミラージは特大ジャンプでアマオー眼前へと着地した。
(え、そうやって距離詰めてくるの!?)
眼前のエルミラージを見上げるアマオー。
「モンスターじゃなかったら抱きついてたのに……」
「デュゥゥゥマァァァ!」
エルミラージは振り上げた右前脚をアマオーに向かって振り下ろす。ギラリと光る爪はその一撃が決して軽くないことを示している。アマオーはひとまず後ろに跳んで回避…………と、一撃目を避けて少し気が緩んだ所へ二撃目! 突き出すように放たれた左前脚がアマオーを捉えた。
「わぷっ!?」
エルミラージの一撃に軽々と吹き飛ばされ、エリア端の木に背中をぶつける。視界が急転したせいで思うように位置を把握できない。
「結構痛いの食らっちゃったな……ヒール」
杖先から放たれた緑色の光が私の体を包み込み、さっきの一撃で半分近くまで減ったHPが元の全快状態まで戻る。
「ごめんね、アマオー。どうやら私が知らない間にアプデでボスの種類が追加されてたっぽい!」
後ろから聞こえてきたのは零門が謝る声。飛ばされたのはちょうど観戦席の目の前だった。
「いや、別にいいよ。知らなかったことはしょうがないし」
「お詫びと言ってはなんだけど、アドバイス的なの要る?」
「いや、いい! 私一人でやらせて!」
「了解。とりあえずこっちばかり向いてないでボスの方見よっか」
「ほへ?」
前を向けば右腕を振り上げたエルミラージが眼前に。
「ごめん! さっきの一旦ナシ! アドバイスお願い!」
「まず右腕、姿勢低めで左に回避! 相手の右側に回り込んで!」
「どわっと!」
振り下ろされた右腕がアマオーの頭上スレスレを通過していく。なんとかよけきれたと判断し、がら空きの右側へ。
「次左腕、その位置だと強引にぶん回してくるから後ろにステップ!」
「あぶっ!」
体全体を捻って放たれる左腕の薙ぎ払いを後ろへのステップで回避。何とかその爪の餌食にならずに済む。
「次タックル、右側に大きく跳んで!」
「でえええい!」
やや強引な体勢から放たれたタックル攻撃を右に跳んで回避! エルミラージはバランスを崩しゴロゴロと地面を転がっていく。
「ここ大きな隙! 攻撃しつつ距離離してって!」
「オッケー! ファイアーボール!」
攻撃を加えつつも後方へと下がり距離を確保する。
「とりあえず、近接戦闘になったら今の手順で通用すると思う。ここらへんの二足歩行系の獣モンスターは大体同じ動きしてくるから」
「アドバイスありがとね! 助かったよ!」
「どういたしまして。さあ、目の前の敵に集中して! まだまだ何してくるのかわかったもんじゃないんだから」
===
避けて撃つ。躱して撃つ。相手の攻撃が届かない場所から撃つ。
相手の行動パターンが手に取るように分かる段階まで来たら、必然的にプレイヤーの行動パターンも固定されていくのがゲームの常。それが行き過ぎてしまえばマンネリとなり、作業となってしまう。それを打破するためにゲーム側は様々な仕掛けを用意する。例えばそれはモーションの変化……
===
「デュマママママママママママ!」
「来た!
ボス戦もいよいよ佳境。ショートが「もうすぐ倒せると思うぜ!」と発言したところで変化は起きた。エルミラージが角に電気を纏い始め、一部のモーションに変化が生じたのだ。
「デュマァ!」
エルミラージの角から放たれた電撃をどうにか杖で受け止めるアマオー。直撃こそ免れたものの、電撃は杖を伝い、彼女に少なくないダメージを負わせる。目の前で焼け焦げていく杖を見ながら、彼女に一つの懸念がよぎる。
「ショート、杖の耐久値を見てくれる?」
「了解だぜ。ローディン……ヤバいぜ。あと少ししか耐久値が残ってないぜ!」
「やっぱり……」
アマオーの脳裏に浮かぶのはつい半時間前の光景。アルミラージの攻撃をガードした零門の大剣が壊れた時のこと。
杖が無くてもシステム上問題なく魔法は放てる。魔法系アイテムを持たずに刀やナイフ片手に魔法を撃ってる零門がいい例だ。
だが杖をはじめとした魔法系の武器にはそれ相応の補正がある。アマオーが今持っている「魔法使い見習いの杖」は
「デュ~ッマ!」
エルミラージが突進してくる。角に纏った電撃により見た目以上に広い攻撃判定を誇る厄介な攻撃。アマオーは確実に回避するため右方向へ全力でダッシュする。
「わわっと!」
背後に電熱を感じつつもどうにか回避。向き直れば、四つん這い状態で再びチャージ動作をとるエルミラージの姿。全身の毛が逆立ち、角から迸る電撃が見る見るうちに増していく。
「デュマママママママ……!」
「やっぱりあの角がカギだよね……」
アマオーは一旦杖をしまい、代わりに錆ナイフを展開。そのままエルミラージの方へ走り寄る。
「ナイフなんて取り出して何するつもりだぜ?」
「こうするつもり!」
十分な近さまで接近したところで錆ナイフをエルミラージの角目掛けて投擲。狙い通りに角に命中させる!
「デュマッ!? マァァァ~~~~~!?」
角に溜めていた電撃が暴発し自爆ダメージと共にスタンするエルミラージ。
「まさか狙ったんだぜ!?」
「賭けだったけどね!」
確証などほとんどない。強いて挙げれば、レトロゲーマーとしての勘がアマオーをそうさせた。
杖を再展開し、照準をエルミラージに合わせる。唱えるのはこの戦いで幾度となく唱え続けた攻撃魔法の詠唱文。
「炎神よ、我が声を聴きたまえ! 我が求めるは燃え上がる炎!ファイアーボール!」
なけなしのMPと杖の耐久値を引き替えに放たれた最後の火球は未だスタン状態のエルミラージを焼き尽くす。
HPの尽きたエルミラージと耐久値の尽きた杖が素材を残して消滅したのはほぼ同じタイミングだった。
[エルミラージの討伐が完了しました。]
「やったー! 勝ったよ! ショート!」
「よ、よくやったんだぜ。褒めてやってもいいんだぜ」
「勝ったよ~! 零門~! ライムちゃ~ん!」
「お、俺の言葉を聞くんだぜ!?」
[レベルアップ! アマオーのレベルが9に上がりました!]
[ボーナスとしてステータスポイントが6ポイント加算されます]
[ボーナスとしてスキルポイントAが2ポイント加算されます]
[ボーナスとしてスキルポイントBが2ポイント加算されます]
[見習い卒業! アマオーは正式に魔法使いとなりました!]
[ジョブ補正:魔法使いの心得 が解放されました]
[アカデミーの学位が解放されました。現在の学位は初等です]
[カテゴリ『中級攻撃魔法』を習得しました]
[エリアボス初撃破! 冒険はまだまだ始まったばかりだ!]
[初心者応援キャンペーン! 条件①達成まで残り1レベル!]
[プロデューサーからのお祝いメッセージ!
オルワコプロデューサーのナスミンです。レベルアップおめでとう! いつか会えるといいね!]
――――――――――
「勝ったよ~! 零門~! ライムちゃ~ん!」
大きく手を振りながら叫ぶ親友の姿に、零門も手を振り返して応える。
危ない場面こそあったものの、とっさの判断力や機転には目を見張るものがあった。魔法攻撃もほとんど外さず命中させており、零門はアマオーに確かなセンスを感じ取る。
「私も負けてられないな……」
静かに闘志を燃やしつつ、零門はボスエリアへと足を踏み入れた。
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