第参話 いるだけで 世界に人に 嫌われて

「ああ! なんと禍々しく罪深い姿か!」


 解呪のために教会に足を踏み入れた零門に対する神父の一言目がコレである。


「半魔よ! 半魔が来たわ!」

「ああ、神よ! この地に災いが降りかかるというのですか!?」


 続けて二人のシスターが零門に対する一言目がコレである。


「えぇ…………あの、解呪してほしいんですけど……」


 拒絶の言葉にめげず、零門は交渉を試みる。だがそんなことを聞き入れてくれるはずもなく……


「貴様に与える神の施しはない!」

「呪わしい!」

「汚らわしい!」


「そ、そんなことは言わずせめてお話だけでも……」


 尚も諦めない零門に対し、神父たちは教壇に陣取り音頭を取った。


「貴様らは悪魔から産み出されし禁断の忌子! 存在自体が呪われておるのだ! 去らぬというのなら実力行使あるのみ! ゆくぞ! シスター達」

「「はい!」」


 横並びに陣取った三人はそれぞれ大きく振りかぶり、零門へと渾身の一撃を見舞う。


「清めの塩ォーッ!」

「聖なる聖水ィーッ!」

「破魔の魔石ィーッ!」


~~~~~~~~~~


「しょっぱい……」


「零門様、そんなに気を落とさないでくださいまし」


「うん……大丈夫……」


 清めの塩(塩)、聖なる聖水(塩水)、破魔の魔石(岩塩)による文字通りの塩対応。「呪いの装備を解除してもらおう作戦」は見事に瓦解した。


「はてさてどうしたものか……」


「見た目を変えたいのならアクセサリーもおすすめですのよ!」


「それだ!」


 このゲームのアクセサリーはプレイヤーの見た目にも干渉する仕様。マントや外套といった大きめのアクセサリーであれば確かに身体を覆い隠すことも可能だ。

 無論「マントの下は下着」だとか「コートの下は下着」だとかいう服装は変態のそれに変わりはないのだが、零門は完全にそのことを失念している。そもそも……


「というわけで装備屋に行くよ! ライム、案内お願い!」


 教会でさえ拒絶されたほどの人間が一般的な店で受け入れられるなどという甘い幻想を持つのが間違いなのである。


~~~~~~~~~~

・一軒目

「半魔なんてお呼びじゃねぇんだよ! あっち行け!」

~~~~~~~~~~

・二軒目

「今日はもう閉店だよ! 半魔なんかにウチの大事な商品は売れないね!」

~~~~~~~~~~

・三軒目

「去れィッ! さもなくば貴様を武具の素材にしてくれるッ!」

~~~~~~~~~~

・四軒目

「そのがまがましいすがた! おまえ、はんまだな! えほんでよんだぞ! やっつけてやる!」

「おい! マルコ! 止めるんだ! その人に近づくんじゃない!」

「お願いします! 私たちはどうなっても構いません! 店の商品も全部差し上げます! だからあの子だけは見逃してください! マルコは私たち夫婦の大事な宝物なんです!」

~~~~~~~~~~


「私だって好きでこんな姿してるんじゃないのにぃ~~~っ!」


 人気のない裏路地に零門の叫びが木霊した。ある種当然としか言えない結果ではあったが、それでも零門は叫ばずにはいられなかった。


「そう落ち込まないでくださいまし。零門様」


「う、うん……大丈夫……ありがと、ライム」


「恐縮ですのよ! 零門様!」


「マルコ君かわいかったな……ご両親の事あんなに大切に想ってるんだ。泣きながら私に立ち向かってきたんだよ。すごく良い子だよ。良い子。ご両親もマルコ君をすごく大事にしてるのが伝わってきて…感動の親子愛になんかジーンと来ちゃったよ。でも悪者は私だよ。心が痛いよ」


 ブツブツと呟きながら零門は項垂れた。その目には仄かに光るものが見てとれる。


「はぁ~……泣きたい」


「零門様……」


「大丈夫、大丈夫……泣き言は二言までで終わらせるから……ふぅ……」


 二言どころではない泣き言で何とか心を落ち着いたのか、再び状況の把握に乗り出した。教会で解呪はダメ。武具屋でアクセサリーを買うのもダメ。それならばどうするべきか。


「そういえば焦ってスルーしてたけどみんな気になること言ってたな……ライム、『半魔』についての詳細情報をお願い」


「了解ですのよ! ローディンローディン……」


――――――――――

【半魔】

半魔はヒューマンと悪魔の契約により産み出された世界の忌子です。

悪魔との契約で生み出されたが故に神の寵愛を半分しか与えられず、またその多くは親の愛を知らないまま育ちます。

人からは忌子、魔族からは出来損ないとして忌避されるため人間社会や群れといった正規のコミュニティに居場所がありません。裏社会に身を投じるか誰とも何とも関わらずに一人彷徨う者が大半を占めます。

故に暴走する者も数多く存在し、半魔による災いは世界各地で確認され深刻な問題となっています。

[種族補正]

MP,ATK,MAT:25%Up / AGI:20%Up / HP:20%Down / DEX:25%Down / LUK:50%Down

世界の忌子(NPCの初期好感度:最低)

出来損ない(モンスターからのヘイト:最大)

声なきモノの声(一部モンスターの思考を感じとれる)

原初魔法適性:◎/理論魔法適性:△

――――――――――


 そう、これが零門がNPC達から拒絶されていた原因であり、ついでに言うとNPCからチラチラと目線を集めていた理由である。見た目が変態だからではないのだ。そもそもNPCは見た目でプレイヤーを差別はしないため、零門の懸念はある意味自意識過剰であるともいえた。


 このゲームにおけるNPCとの交流は「好感度システム」によって左右される。好感度が底辺の状態だと、店で買い物ができず、教会では相手にされず、宿屋にも泊めてもらえない。これはマナーの悪いプレイヤーに対する罰則的な意味合いが強いが、世界観再現のため半魔にも同レベルの措置がなされていた。


「フレーバーに力入ってる作品は嫌いじゃないんだけどなぁ……今はそれが恨めしい……」


 ゲーム的都合と世界観の表現。そこにはどうしても相いれない要素というのが発生するのが常である。今の零門は世界観の表現のせいで不憫な目に遭っているといえるだろう。


「『裏社会の身を投じる』……かぁ……」


 そしてこの状況を打開するヒントも世界観の中にあった。そう、今零門が開いている半魔のフレーバーテキストの中にだ。


「ライム、この街の裏社会にコンタクトとれる場所は?」


「ローディンローディン……表示しましたのよ!」


 目の前のマップに赤いマークが表示される。


「よし、行くよライム!」


「いいですのよ? こういう場所は危険がいっぱいですのよ!」


「大丈夫! 私を信じて!」


 その言葉と共に零門は駆けだすのだった。


―――約束の時間まで残り54分

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