妄想少女は理想を超える
海来 宙
episode 1 一範くんは実奈が好き
まあいいや。私が彼に好みの女のタイプを訊いたのは一昨日か一昨々日だったか混乱でもう分からなくなっているけど、彼はあの時〝タイプ〟という一種の理想形を思い浮かべるのではなく実在する少女の名を口にした。本当の少女は思春期の少年が描きがちな理想とは対極の不完全で不健全、もっといえば不潔――ゆえに魅力があるものだと私は思うのだが、とはいえ彼はどうして
あ。
理想は浮かんでいたかもしれない。頭の中の映像と吐き出す言葉はしょっちゅう喧嘩するもの、私だって完全な一致はない。一範くんは好みのタイプを頭で形成しそこからイメージに合った恋愛対象を選び、結果私に「実奈」と告げた。いや違う、理想と現実は対極にあるんだ。彼は理想を描いてはいたけれど、止められない肉体の欲望というか感情の暴走が手っ取り早く熱と実体を持つクラスメートを求めた。どう? うん。
なるほど奴の口から岡田実奈が出てきたのはそういうことか。
口から出てきた? 別に一範くんが身体の中に彼女を飼ってたわけではないよ、当たり前。てか人気者ではないがサッカー部でレギュラーを張る彼にもてるなんてすごいなあ。私は彼女が彼の理想とはかけ離れていると知ってもどうせ理想は叶いっこないという宇宙の真理に護られていた。
うらやましい? まさか。雷鳴がどこかでかすかに震えた。
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