第36話【月下の花 1】
バァン。
と、一発の風船が割れた様な、身体をピクリと驚かせてしまう銃声が鳴る。
どうやらまだ銃を隠し持っていた様で、ミカの左腕は綺麗な放物線を描いてはじけ飛ぶ。
「ミカさん!」
「痛いだけだから。安心して」
「痛いだけって…………」
はじけ飛んだ左腕のあった場所から血がドバドバと流れだす。
そんなことをミカはさも当たり前かの様に気にすることはなく、壊れた黒狐の仮面を創り出しソフィアの夢を守ろうと努力する。
「ミカさんっ! わたくしのことはいいですから!」
「なにもよくないよ」
「狐の仮面なんて」
「大切でしょ」
「今はわたくしことなんでどうでもいいんです!」
ソフィアにそう強く言われたことで、ミカは仮面をつけるのをやめ、創り出した仮面を軽く握りつぶす。
左腕があった場所からの出血は次第に止まり、腕はまた生えてくる。
「…………怖いでしょ。それでいいんだよ」
ミカはソフィアにそう語りかけて、彼らを睨みつける。
もう四の五の言っていられない、ソフィアを傷つけられる前に彼らを皆殺しにすればいい。
それだけの話なら。
ソフィアは不安そうな目でミカの服を掴む。
そして、身体を震わせ涙を噛み殺し、言葉は詰まって出てこない。
何を言っていいのか、分からない。
何をすればいいのか、分からない。
分からないに分からないが重なって、ソフィアはただ荒い息を漏らす。
「大丈夫だから」
「…………え」
ソフィアの方を見ることもなく、それだけ言い捨てると、ミカは勢いよく駆け出し、まず銃を撃って左腕を弾け飛ばした一人の男を勢いのままに蹴り飛ばす。
勢いよく上げた脚は男の首を切り取り、同時に衝撃で男の後ろにあったガラス窓がパリンと割れる。
開け放たれた夜の世界へと、その男の首が投げ出されたことが合図となって、周りにいた者達は一斉にミカに襲い掛かる。
降りかかった剣を腕で防ごうと、左腕を曲げて突き出し関節の辺りで剣を受けるが力を込められた剣で、そのまま腕は切り落とされる。
その腕を再生することも忘れて、腕を切り落とした男を蹴り飛ばし、背中から刺される痛みを無視する。
一人、男が倒れてもその後ろからまた一人二人と、数でミカを圧倒しようとする。
ミカ一人に対して大勢の男達やメイド達が剣や斧、ナイフでひたすら傷をつけ、腕を切り落とし、腹を裂く、突飛なものになれば槍で突き刺す者までいる。
ミカはその度に大量の出血をし、それが自分自身に降りかかる。
苦悶の表情を浮かべ、
と、一発の風船が割れた様な、身体をピクリと驚かせてしまう銃声が鳴る。
どうやらまだ銃を隠し持っていた様で、ミカの左腕は綺麗な放物線を描いてはじけ飛ぶ。
「ミカさん!」
「痛いだけだから。安心して」
「痛いだけって…………」
はじけ飛んだ左腕のあった場所から血がドバドバと流れだす。
そんなことをミカはさも当たり前かの様に気にすることはなく、壊れた黒狐の仮面を創り出しソフィアの夢を守ろうと努力する。
「ミカさんっ! わたくしのことはいいですから!」
「なにもよくないよ」
「狐の仮面なんて」
「大切でしょ」
「今はわたくしことなんでどうでもいいんです!」
ソフィアにそう強く言われたことで、ミカは仮面をつけるのをやめ、創り出した仮面を軽く握りつぶす。
左腕があった場所からの出血は次第に止まり、腕はまた生えてくる。
「…………怖いでしょ。それでいいんだよ」
ミカはソフィアにそう語りかけて、彼らを睨みつける。
もう四の五の言っていられない、ソフィアを傷つけられる前に彼らを皆殺しにすればいい。
それだけの話なら。
ソフィアは不安そうな目でミカの服を掴む。
そして、身体を震わせ涙を噛み殺し、言葉は詰まって出てこない。
何を言っていいのか、分からない。
何をすればいいのか、分からない。
分からないに分からないが重なって、ソフィアはただ荒い息を漏らす。
「大丈夫だから」
「…………え」
ソフィアの方を見ることもなく、それだけ言い捨てると、ミカは勢いよく駆け出し、まず銃を撃って左腕を弾け飛ばした一人の男を勢いのままに蹴り飛ばす。
勢いよく上げた脚は男の首を切り取り、同時に衝撃で男の後ろにあったガラス窓がパリンと割れる。
開け放たれた夜の世界へと、その男の首が投げ出されたことが合図となって、周りにいた者達は一斉にミカに襲い掛かる。
降りかかった剣を腕で防ごうと、左腕を曲げて突き出し関節の辺りで剣を受けるが力を込められた剣で、そのまま腕は切り落とされる。
その腕を再生することも忘れて、腕を切り落とした男を蹴り飛ばし、背中から刺される痛みを無視する。
一人、男が倒れてもその後ろからまた一人二人と、数でミカを圧倒しようとする。
ミカ一人に対して大勢の男達やメイド達が剣や斧、ナイフでひたすら傷をつけ、腕を切り落とし、腹を裂く、突飛なものになれば槍で突き刺す者までいる。
ミカはその度に大量の出血をし、それが自分自身に降りかかる。
傷に、痛みに、ミカは耐え耐え耐え、ひたすら耐え凌ぐ。
ミカが悲鳴を上げることはなく、しかしミカの中では絶えずシャルロットが甲高い悲鳴を上げ続けていた。
「あぁ…………ぁあ」
血が舞って舞って舞って舞って、舞う。
ソフィアは、今目の前にある光景が舞台の上で行われているお芝居の様にも見えてしまう。
だっておかしい、寄ってたかって一人の人間を傷つけるなんて。
だっておかしい、その一人の人間が何度も腕や脚や臓物を曝け出しても、立ち上がってどこからか短刀を生み出し、束になって襲いかかる彼らを切り裂く。
人が死んでいく、人が、人が、人が、人が、人が死んでいく。
簡単に、淡々と、次々と、なんの躊躇いもなく、なんの後腐れもなく、死んでいく。
そんなことが許されるのは、お話の中だけだ。
ラチが明かないと悟ると彼らは標的をミカからソフィアに切り替える。
それに気づいたミカは床にぺたんと座って唖然としているソフィアの側に駆け寄り、すぐに抱きしめ、自分自身の背中でソフィアを守る。
誰かが遠くから投げてミカの背中に刺さったナイフに構うことはなく、ミカは立ち上がると。
「失礼します」
ソフィアをそのままお姫様抱っこで持ち上げて、崩れた壁を越えて外へと出る。
そして走りだしたミカはなるべく彼らから距離を取ろうと、庭園の方へ急ぐ。
「申し訳ないです。ソフィア様、お花、少し荒らします」
「それは別にいいの。怪我は? 大丈夫なの?」
大丈夫ではなち分かっていても、咄嗟に出てきた言葉はそんな心配の言葉だった。
しかしソフィアは抱き上げられたまま、ミカの身体を見ると心配が吹き飛ぶくらい綺麗な身体をミカはしていた。
「心配しないでください。この通り、すぐに治りますから」
庭園につくと、ソフィアをなるべく宮殿から遠く、尚且つ背の高い花が植えられた花壇の中へと隠す。
「ここで静かにしていてください。なるべく耳を塞いで、目を瞑って」
「ミカさんは…………戦うのよね」
「えぇ、もちろん」
「ぁっ………………ミカさん」
ごめんなさいが、ソフィアの口からこぼれてしまいそうになる。
けれど、その言葉を必死に飲み込んで。
「待ってるわ」
代わりの言葉を口にして、なるべく笑顔を見せる。
それだけが、今自分にできる唯一のことだと信じて。
宮殿の壁はまた壊される。
ミカが逃げた先を探すのにいちいち宮殿の中を走り回ったり正面玄関から出て外に行くよりも壁を破壊した方が早いのは、確かに理にかなっているのだろう。
バァン。
と、また銃声が鳴る。
庭園で待ち構えていたミカの身体はまた豪快にはじけ飛び、白い花々が赤く染まる。
胴体から分離した右腕は、狭い廊下から花壇へと戦場が移ったことで、自由に宙を飛び回り、遊び疲れてバタンと地面に落ちる。
バァン。
と、また銃声がなる。
次はミカの首が弾け飛ぶ。
とれた首はくるくると空を舞って、地に落ちる。
それでも彼女が死なないことくらい、もはや当たり前の常識となっていた。
「他に同じ物を持つ者は躊躇わず撃て!」
地面に落ちた腕や頭は溶け、残された下半身からまた身体が再生するとすぐにミカは起きあがり、全速力で走りだす。
「撃て! なんとかして殺せ!」
銃を持つ者は少なく、次は五人が一斉にミカに向けて銃を撃つ。
一発はミカの右腕弾け飛ばす、一発はミカのすぐそばを通り花壇に植えられた花を一斉に宙に舞わせ土埃を上げる、一発はミカの腹辺りの肉をかすめ取りミカから腸を引きずり出す、残り二発はどちらも森の中まで飛んでいき木々をなぎ倒す。
それがすべて、一斉に起こる。
右腕が弾け飛び、腸が引きずり出され垂れ始めた身体を気合と根性で使い続け、くるくるとふらふらとしながら前へ前へと進み、そして思いっきり上へ上へと一瞬空を飛び、ミカは自分自身の不完全な身体で月を隠す。
腸が零れ落ちたお腹も綺麗に整えて、生えかけの右腕を掴み引きずり出し不完全ながら応急処置的に再生すると、あとはただ落ちる勢いに任せ、暴徒の群れの中心へと落下する。
ミカは落下した時に舞った土埃で彼らの視界を奪うと、手に力を込め手の爪を伸ばし、一本一本を鋭利な刃物に変えると、円を描くように自分の立つ場所を変えずくるくると回りながらやたらめったらにそれを振り回す。
首が斬れる者もいれば、土埃から目を守る為に両手で目を隠した者は両手を切り裂かれ、中には顔を斜めに切り裂かれる者もいた。
少しして土埃が消えると、辺りには死という結果には至っていないが、これから先の人生で一生涯苦労する様な致命傷を負った者が、大量に悶え苦しんでいる姿がミカの目に映る様になる。
戦場が狭い屋内から、どこまでも広い外の世界へと広がったことで、そしてミカ自身がこの身体の使い方になんとなく慣れてきたことで、戦い方は無限に広がっていく。
未だ怯えず剣を振るい立ち向かう勇猛果敢な奴の喉を掴み、腹を一発殴って思いっきり投げ飛ばすとそれは赤い血の円を描いて花壇に落ちる。
もはやミカに襲い掛かる男達、そしてメイド達は勝ち目など見えていなかった。
いなくなったソフィアの捜索を優先し、さっさとソフィアを切り殺してしまう方が賢明だが、ミカが絶対にそうはさせない。
少しでも迷っていたら、瞬時に近寄ってきて首を裂かれる。
腸を引きずり出され、死体すらも踏み出しにし、襲ってくる。
もはやここに来た暴徒達は、ただ死を待つだけの案山子と化していた。
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