第13話 腹黒高慢合法ロリ生徒会長、あらわる!
地下大講堂側にある応接間。
ボクはふかふかのソファに座りながら、ネプリア先輩と対座していた。他の生徒はレクリエーション中、スズランとルルミには先に行くように言っておいた。
ネプリア先輩がおっとりした笑顔で悪びれもなく言ってくる。
「すみません、驚きましたよね」
「はいー、驚きました」
「ええ、驚かすつもりでやりましたもの。してやったりですわ」
ネプリア先輩がお茶目たっぷりに言ってきたので、ボクは笑顔を返した。
ゲームでは、ネプリア先生として主人公たちを導く存在だけど……。
ユーザーの評価は【合法ロリ】【腹黒高慢ロリ】【泣き顔が一番みたいロリ】だので一部で人気があった。
まあ、やわらかい態度を鵜呑みにしないほうがよい人だ。
「なんの実績もないボクが時計塔教室だなんて……納得しない人もいるでしょう」
「すぐに納得しますわ。先日の模擬線での腕前を見せれば十分です」
「……見ていましたか」
「はい、わたくしと同じように魔術操作に長けた方とお見受けしました。エスキュナー家は風魔術を得意としているそうですが、ご両親はこのことは?」
「知っています。ただ、ボク、魔術出力が苦手なのでそれを
「まあまあ、そういう事情でしたのね」
ネプリア先輩は深く考えるようなそぶりを見せた。
という名目でボクは右手の甲に偽痕を刻んでいる。自分が『すべての終わりを
聖痕由来の力なので、ボクの場合【操作】じゃなくて【支配】なんだよね。
「貴方に魔術操作を教える方はいなかったのではありません?」
「はいー、独学でがんばりましたー」
「そうでしょうね。たいていの方は魔術の出力ばかりに目がいって、操作がおざなりになりがちですわ。鍛えればわたくしや貴方のように、相手の魔術コントロールを奪うなんてこともできますのにね」
グンターとの模擬戦をそう受け取ったらしい。
相手の魔術を支配したのか操作したかの違いで、同じことだけどね。
「まあ、貴方レベルの魔術操作を教えられる人を探すほうが難しいのでしょうね」
「いっぱいがんばりましたー」
「貴方を導ける人なんてそう出会えませんわ。本当に独学でよくがんばりましたね」
「よくがんばりましたー」
ボクは適当ながんばりましたマンと化した。
ネプリア先輩がなにを言いたいかわかるし、彼女のペースに付き合いたくないからだ。
「ですが時計塔教室なら違います。魔術の深奥にたどり着くべく、専門分野外のことでも積極的に学ぶ方々ばかりが集まりますわ。臨時講師には最前線の魔術師もお呼びしますし……そしてなにより、このわたくしがいますもの」
「ネプリア先輩の魔術操作、お見事でした」
「うふふ、貴方もわたくしに師事すれば、あの領域までいたれると思いますよ。……なんて、わたくしもまだまだですが」
ネプリア先輩は褒められて嬉しいのかご機嫌だ。
ナチョラルに自分がはるか格上だと思っているのが未来のネプリア先生だけど、今のネプリア先輩もそんな気がする。
「あの……ネプリア先輩、先にお話ししますね」
「はい、なんでしょう?」
「ボクは学園には、平凡で素敵な日々を送りにきました。ネプリア先輩が望むような魔術師ではありません」
ネプリア先輩が怪訝な顔をする。
「魔術の道を究めずに日常を送りにきた……ということでしょうか?」
「失望させて申し訳ありません」
「安心してください。そんなこと、この学園……いえ、時計塔教室でわたくしと共に学べば考えが変わりますわ」
ネプリア先輩は自信満々に言いきった。
ボクが編入するのはもう決まったみたいだ。
未来の片鱗がすでにあるなあ。
「あくまで勧誘、ですよね?」
「決定事項ですわ。……もちろん、決定権は貴方にございますが」
ネプリア先輩はてへりと笑うが、ボクに決定権がないのは知っている。
断ったところで裏で手を回すのだろうな。
さて、どーしよう。時計塔教室の生徒と切磋琢磨する青春も悪くないとは思うのだけれど……先に確認することはあるか。
「ネプリア先輩は学生派閥についてどう思いますか?」
予想外の質問だったか、ネプリア先輩は瞳を大きくさせた。赤い瞳で、ボクの一挙一動をじっくりと観察してくる。
蒼の派閥に生徒会長が関わっているとは、スズランも言ってなかった。
ただ、蒼の派閥は魔術管理を標榜している。ネプリア先生の思想的に蒼っぽいんだよね。下手したら、ボクを後継者兼操り人形に育てようと思っているのかもしれない。
あくまで素朴な質問として聞いて、反応をみてみよ。
「ボク、学生派閥に驚いちゃいまして。いろんな考えがあるんだなーって思いました。だから一度、生徒会長のご意見をうかがってみたくて」
ボクが笑顔でそう言うと、ネプリア先輩は視線を一度そらした。
「そう、ですねー。生徒会長としてはよくありませんわ」
「ありませんか」
「争いのもとですからね。……ただ、一個人の意見としては蒼の派閥寄りでしょうか」
「そうなんですか? 意外ですー」
「魔術はやはり危険なものです。適切に扱い、適切に学び、適切に行使する。でなければ力に溺れた魔術師が生まれてしまいますわ」
いかにも公明正大で清廉潔白っぽい人の答えだ。
ボクはニコニコ笑顔でつっこんで聞いた。
「蒼の派閥の考えだと、なにが危険でなにがダメなのか、それを判断する人が必要だと思いますけどー。いったい誰が管理するんでしょう?」
「それはもちろんみんなで集まって相談して、【適切な人】が管理しますわ」
ネプリア先輩の笑顔には自分がそうだよと描いてあった。
「なるほどー」
……関わっているどころか裏で操っているね、この人ー。
高慢で利己的。
ネプリア先輩はすでに腹黒合法ロリのようだ。
ゲームのネプリア先生は、主人公たちを導く存在として初期から関わってきた。
優しくて人当たりのよい合法ロリ。
一部で人気はあったのだけど、アークノファンタジーの陰鬱なストーリーが進むにつれて、ファンたちが『いい人なのは逆にあやしくね?』と疑いはじめる。実際シナリオを紐解くと、怪しいムーブをしている人だった。
ファンの妄想か伏線か、長らく議論されていたのだが。
ネプリア先生……不笑王オリンと裏で繋がっていたんだよね……。
しかも主人公たちと不笑王オリン、どっちが自分の利益になるかずっと天秤にかけていた。真実が判明するシナリオでは、ネプリア先生の策略で学園が大破。
それで主人公たちは大ピンチに陥ったわけだ。
最終的に、自分が優秀だと信じて疑わなかったネプリア先生は、不笑王オリンにここぞのタイミングで切り捨てられる。地位も名誉もプライドもすべて失い、無様な泣き顔をユーザーに提供してくれたわけだけど……。
そのあと、ガチャ(期間限定)に追加されるんだよね……。
しかも『わたくし、絆の力を信じますわー』なんて白々しいセリフを吐いて……。
ソシャゲでたまーにある【どの面下げて仲間になった】勢だ。
ネプリア先生とネプリア先輩。性根は変わっていないと思う。
そもそも、ボクの日常をそんなことで切り捨てる人についていきたくない。やんわりと断ったところで、彼女がボクを利益になると思うなら諦めないだろうし。
んー……よし、立ち位置をハッキリさせちゃおー。
「ネプリア先輩」
「心積もりが定まりましたか? それでは編入の件ですか――」
「その前に、わかりやすくしましょうか」
「? わかりやすく、ですか?」
「はい。ボクもね、占いをかじっているんですよ」
ボクは笑顔で指を動かして、机にあったペンを風魔術で操る。
そしてそのまま紙に文字をさらさらと書いていく。
ちなみにネプリア先輩は紙に魔力を直接注いで操るが、ボクは単純に風魔術を精密操作しているだけだ。魔力効率は先輩が圧倒的に優れているのはたしかだ。脳で把握しながら、数百個の折り紙を作るなんて本当に器用な真似をすると思う。
ボクは折り鶴を作り、ネプリア先輩の前で漂わせた。
「お上手ですわね」
「ネプリア先輩の未来を占いました。あけてみてください」
ボクが微笑むと、ネプリア先輩は瞳孔をわずかに動かした。その赤い瞳から魔力を注ぐんだよね。
まあ、その魔力干渉をボクが支配して、
先輩はいっこうに折り鶴を操作できず、笑顔がどんどん消えていく。
「あけられませんか? でしたらボクが代わりにあけてあげますねー」
「…………どうも」
折り鶴が綺麗にひらかれる。
紙には『あどけなくて可憐な容姿は未来でもそのまま』と書かれていた。
合法ロリな容姿にコンプレックスを抱いている先輩は、冷たい笑顔をボクに向けてくる。
「たしかに、わかりやすいでわすわ」
「でしょー」
ボクたちは、ふふふーと笑いあった。
これでボクが都合のいい駒にはならず、利益にはならないとわかっただろう。なにかあれば逆らいますよな意思がバリバリだ。
「編入の件、改めますわね」
「よろしくお願いしますね、ネプリア先輩」
もう失礼をかましちゃったけど、ボクは失礼がないよう丁寧に頭を下げて、応接間を出て行った。
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