第12話 合法ロリ生徒会長、あらわる!

 時計塔地下にある大講堂。


 壇上を中心として、長机がだんだん畑のように並べられている。新入生が緊張した面持ちで、けれど、これからはじまる学園生活に瞳を輝かせていた。


 数百名は集まっているっぽい?

 たくさん学科があるから生徒も多いみたいだ。仲の良いグループ同士で座っているようで、楽しそうにコソコソと話している。


 ボクたち三人は、真ん中ぐらいの席で入学式を待っていた。

 新鮮でぴりっとしたこの空気、前世では味わえなかったなー。


「あ、あたし……友だちと入学式を迎えるなんて思っていなかったな……」


 右隣のルルミが信じられなさそうに言った。


「ボクも友だちと一緒の入学式は初めてだよー」

「い、一緒……ふへへ……」


 ルルミがニヨニヨしたので、ボクもニコニコする。

 ほんわかしていると、左隣のスズランが目を細めた。


「仲がよろしいことで」

「もちろん、スズランと一緒に入学できてうれしいよ。ずっとこの日を待っていたんだ」

「……まあ、オリンが楽しいのならそれでいいんですけどー」


 スズランはちょっぴり恥ずかしそうに唇をとがらせた。照れたのかも。


 と、壇上に生徒が何名か集まって整列した。

 上級生みたいだ。先生は……壇上の脇でひかえているな。学生主体の学園だけあって、入学式も生徒が中心でやるみたいだ。


 あれ? 真っ白い制服を着た、小さな女の子……。

 小学生みたいな子だけど、あそこにいるってことは上級生だよね。顔はよく見えないけれど……見覚えが……。


 ボクがううんと考えこんでいると、壇上で声がした。進行係の男子が拡声術を使ったようで新入生に呼びかけてくる。


 どうやら学園長から挨拶があるらしい。

 ブオンッ、と壇上に大きな画面みたいなものがあらわれた。


 近くにいた子たちが「あれって最新の投影魔術だよね?」「初めてみたー」「将来はあれで能力を管理するんでしょ?」「ステータスだっけ? 私たちの代で完成するのかなー」「楽しみだね」と話していた。


 残念。ステータス画面はボクたちが卒業するぐらいに完成だと思う。

 ゲームのチュートリアルでそんなエピソードがあったしね。


 ボクが大画面を見つめていると、アークノ魔導学園のエンブレムが表示された。


『若き芽よ、まばゆい可能性よ。魔術の深奥は第三の目にあり、観測しつづけるのだ』


 老人のようなしゃがれた声がして、エンブレムが消えた。

 新入生たちは『今ので終わり?』みたいな顔で戸惑っている。


 ゲームのオープニングストーリーと一緒だなあ。


 正体不明の学園長。

 学生と積極的に関わることはないけれど、静かに見守ってはいるらしい。姿を変えて、生徒に扮しているという噂もある。在学中に学園長を見つけた人は、高度の魔術をじきじきに授かるとかなんとか。


 次はきっと在校生の挨拶……もといデモンストレーションだな。


 案の定、進行係の男子が「在校生から挨拶」と拡声術で伝えてきた。壇上の上級生たちがそれに合わせて手早く準備している。


 ルルミが首を伸ばして不思議そうに眺めていた。


「なにをしているのかな……?」

「在校生の挨拶がてら、新入生歓迎のために魔術を見せてくれるんだよ。毎年趣向が違っているんだよねー」

「そ、そうなの……? オリンさん、詳しいね……」

「学園生活マニアだから」


 ボクが得意げに言ったら、ルルミはきょとんとしていた。


 ちなみに、上級生の実力を新入生にわからせる意図もあったりする。

 魔導学園で魔術を磨こうってことはやっぱり自信がある子ばかりで、なんだかんだ生意気な生徒が多い。だから鼻っ柱を折るためにやるらしい。


 ゲームでは上級生との模擬戦だったな。

 いろいろあって主人公が選ばれて、そこでチュートリアル戦がはじまるわけだ。


 今年はなんだろと期待しつつ待つと、真っ白い少女が壇上の中央に歩いてくる。

 そして、大画面に少女の顔が映った。


「新入生のみなさま、この度はご入学おめでとうございます。魔導を極めんと親元を離れ、アークノ魔導学園の門を叩いたその覚悟と心意気、決して後悔はさせませんわ」


 雪のように白い髪、病的なほどに白い肌。

 赤い瞳はウサギのようで、幼い顔立ちからは聡明さが見てとれる。真白い学生服は汚れが一切なくて、少女の清廉潔白っぷりをこれでもかと伝えてきた。


 周りで「わー、可愛いー」「上級生?」「妹より幼く見えるわー」とささやく声が聞こえた。


 ボクは笑顔をひきつらせないようにするので必死だった。


 うえぁ…………………。

 ネプリア先生だ…………………。


「わたくし、生徒会長を務めております、ネプリア=ファ=デクスモスと申します。みなさまとは公私で関わることになるかと思いますわ。以後お見知りおきを」


 少女みたいな生徒会長に微笑まれて、大講堂がほんわかしていた。


 そっかあ……時期的に生徒やっていてもおかしくないかあ………。

 でも生徒会長かあ……生徒会には絶対に関わらないでおこう……。


「みさなまは学園に来て、さぞ驚かれたことでしょう。なにせ、学園の敷地は地下を合わせれば国のような広さですわ。広大な敷地には、たくさんの生徒、学科、未知の魔術が存在しています。可能性の枝がいくえにも分かれている感じたことでしょうね」


 上級生たちが木箱をネプリア先生の隣に置いた……あ、今は先輩か。

 ネプリア先輩は木箱を撫でつつ、新入生に優しく語りかけてくる。


「これから魔術の深さを知るたびに悩むでしょう。自分が進む道を見失うかもしれません。わたくし、みなさまのご助力になれるよう、少しだけ道を示したいと思いますわ」


 バカンッと、木箱が勢いよくひらかれる。


 紙の束がいっせいに舞いあがり、群れをなす渡り鳥のように大講堂を飛ぶ。

 紙はそれぞれで変化していき、花や、蝶や、リボンや、可愛らしい折り紙となって新入生の元にひらひらと向かっていった。


「みなさまの手にわたる折り紙には、本年度の学科とクラスが書かれております。なにかとお忙しい先生たちのお手伝いですわ。わたくし、徹夜作業ですの」


 それで新入生の緊張がほぐれたのか、みんな笑った。

 ただ何十名かの生徒の鼻っ柱が折れたみたいで、折り紙を手にふるえていた。


「い、今の、全部一人で操ったわけ?」「数百個の紙を操りながら折るって……どれだけ高度の操作術よ……」「わたし、ぬいぐるみ一つで限界なのに……」


 知らない人もあとでビックリするんだろうなー。


 ネプリア先輩は魔術操作がとんでもなくうまい。

 今の『操作術』だって十数名がかりでやっとの技だ。

 誰が一番この学園で優れているのかわからせるには十分な技量。彼女は優しい笑顔でそれを見せつけてきたわけだ。


 うん、ゲームと性格は同じみたいだね……。

 ボクがなるべく視線を合わせないようにしていると、背後で声があがる。


「オレの紙に文字が書いてある!」


 次々に、僕も、私も、自分もだ、と声があがった。


 ネプリア先輩はなんでもないように告げる。


「みなさまの魔力に反応して、紙には進むべき未来が浮かぶようになっておりますの。わたくしは内容は存じあげません。まあ、ちょっとした占いですわ」


 新入生は折り紙をひらいていき、文字を真剣に読む。

 それぞれで納得していたり、不満そうにしていた。


「さて。みなさまには一つお知らせがあります」


 ネプリア先輩は全員が静かになるのを待ってから口をひらいた。


「時計塔教室に一つ空きができまして。……みなさまの中から一人、迎え入れようと思っていますの」


 大講堂でざわめきが起きた。


 時計塔教室。

 アークノ魔導学園で優れた生徒を集める教室だ。


 先輩後輩の間柄はあるものの、年齢に関係なく同じ教室で魔導を探求する。

 区分としては特進科でSクラスと分けられているが、完全に独立している(おそらくグンターはAぐらいだと思う。時計塔教室なら自慢してきたと思うし)。


 生徒会長がじきじきに選ぶなんて、よっぽど目をかけた人物がいるみたいだ。次期生徒会メンバー、生徒会長候補なのかもしれないな。


 すげーすごーと周りで声があがる。


「わたくし、その方を一目お見かけしてから、ぜひにと思いまして。この場をお借りしてでも直接勧誘したくなりましたの」


 つまり断りにくい空気を作ったわけかあ。こわー。

 ネプリア先輩に目をつけられた人、誰だろ。かわいそー。


 と、ボクの前にバラの折り紙がぽてんと落ちる。


 ボクのだ。普通科なのは知っているけれど、なん組かな。占いにはなんて書いてあるんだろーと丁寧にひらいていく。


【オリン=エスキュナー。特進科Sクラス。時計塔教室にようこそですわ】


 占いには【闇が輝くのは深淵。どうして光を歩むのか】と書かれていた。


 ボクは、はわわーと顔をあげる。

 ネプリア先輩がしてやったりと微笑んでいた。


「オリン=エスキュナー、貴方ですわ」

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