第7話 いざ! 魔導学園へ
14歳の春。
エスキュナー家の自室で【ふわふわ銀髪☆超☆美少女】化したボクがいた。
「これがボク……?」
あどけなく可憐なボクが鏡の中で戸惑っている。
ボクは男だ。
でもどう見ても女の子で、それも美少女だ。
ふっわふわの長い銀髪。まつ毛は長くておメメがぱっちり。華奢な手足はお人形のよう。魔導学園の男もの制服を着ているしズボンも履いているが、ケープを羽織っているせいか魔法少女に見えてしまう。
右手の甲には【
「これが理想のボク?」
錆びたロボのように首をギギギと動かし、隣にひかえていたスズランに視線をやる。
メイド姿のスズランはとても美しく成長していたけど、そんな情緒は吹っ飛んでいた。
「ええ、これがオリンの理想の姿です」
「こんなの望んでいないよ⁉⁉⁉」
ムキムキマッスルとはほど遠い、ゆるふわ銀髪美少女。
しかしボクだ。
どうしてこんなことになったのかと思い出す。
スズランと仲良くなってからも、お友だちの輪を広げるために領民の子供たちと仲良くなろうとしたんだよな。
しかしボクはエスキュナー家の一人息子。
子供からは遠慮されまくり、その親からはエスキュナー当主の息子への礼節をわきまえられたりで、とても友だちができる環境じゃなかった。
だからスズランに相談したんだ。
『そうですねー。鍛えるついでに、みなに愛される恰好をしてはいかがですー?』
というわけでスズランに従い、愛される容姿をも目指した。
そしてだんだんと、ゆるふわ女子の容姿にスライドしていった気がする……。
スズランの顔には『なにか不都合でも?』と書いてあった。
「スズラン、ボクの姿を見てごらん」
「とてもお可愛いですー」
「そうだよ! 可愛いよ! ゆるふわ美少女じゃん⁉」
「領民から慕われるようにはなったでしょう」
「慕われるようになったけど、なんか妙な熱があるんだよ‼」
「オリンの美しい容姿に隠れファンがいるそうですね」
「友だちとはちがうジャンル!」
ボクはノーマルな性癖だし、女装趣味なんてないのに。
母上も止めたらいいのに、一人娘が欲しかったとかで途中ノリノリになったしなあ。父上は息子が幸せならそれでいいと多様性を勝手に尊重してくれたし……。
使用人は……今ではスズランがトップの立場だ。
父上母上の護衛をするぐらいにぶっちぎりで強いし、口出す人はいないか。
ボクが頭を抱えていると、スズランがぼそりとつぶやく。
「……これで異性にはそうモテてませんね」
「? スズランなにか言った?」
「いいえー、なにもー」
スズランはぶるんぶるんと頭を横にふった。
ううむ?
「それではオリン、馬車を待たせていますのでそろそろ学園に向かいましょうか」
「……この恰好で?」
「いまさら慣れたものじゃありませんか」
ゆるふわな外見にはもう慣れているけれども。
悪目立ちしそうかなーと、ボクは右手の甲にある
両親に頼みこみ、わざわざ彫師に刻んでもらったものだ。魔術をうまく扱えない人向けの痕。天然の痕とはちがい、術の威力は各段に落ちるが。
「行こっか、スズラン」
※※※
屋敷の玄関で、ボクとスズランは両親と使用人たちからお見送りをうけた。
「オリンー! スズランー! 健康を大事にだぞー」と父上。
「二人ともー、長期休暇は必ず戻ってきなさーい!」と母上。
スズランは家族の一員となっていたので二人とも寂しそうだ。
スズランはそっけない表情で、でも嬉しそうに耳をピコピコと動かしながら、しずしずと頭を下げていた。
そんなわけでアークノ魔導学園まで馬車で向かう。
学園まではわりと離れている。国境を何度も越えていき、途中で馬車を乗りかえて、宿屋に泊まったりした。
旅行気分を楽しみながら、大草原の道をゴトゴトとゆられる。
学園までの道のりはどこまでもまっすぐに伸びていた。
雲一つない空はどこまでも澄みわたり、優しい風が草花をゆらしている。良い天気。ボクたちの門出を祝福しているなーと、馬車の窓から景色を眺めていた。
対面のスズランが少し眠そうに言う。
「空を飛べば早かったんですけどねー」
「国境沿いには結界が張られているし、さすがに目立つわけにいかないよ」
ボクは苦笑した。
どうやら空を飛べる魔術師は少ないらしい。空を飛んでいって入学早々大騒ぎになっては困る。
「だけどスズラン、本当に良かったの?」
「なにがでしょう?」
「ボクと同じ普通科で。武具科の推薦がきてたんだよね?」
アークノ魔導学園にはいろんな学科がある。
魔術の可能性を知るため、そしていろんな受け皿を用意するためでもあるらしい。
その中で武具科は魔法武具を探究する学科だ。戦闘能力に秀でたスズランがそこから推薦をもらったわけだ。
武具科の卒業生は王族の近衛兵にもなったりする。
全学科基本は六年制だが、武具科は実力主義で早めに卒業することもあった。
「かまいません、わたしはこれからもこの先もオリンのメイドです」
スズランは普通科の生徒として入学することになった。
王族貴族の子弟はお世話付きと入学することができるのだけど、その枠を使い入学したわけだ。もちろんスズランは死霊術の適性があるからなのもあるが。
「うーん……でもなー……」
「オリンのメイドだと、みなに知らしめることができますし」
「それ大事なこと?」
「なにか問題でも? オリン様」
スズランが笑顔で様付けしたのでボクは首をふった。
余計なことを言うと叱られてしまいそうだ。
「オリンこそ、本当に普通科でよかったのですか?」
「言っただろう。ボクは平凡で素敵な学園生活をおくりにきたって」
「ええ、わざわざ右手に【偽痕】まで刻みこんでまでね」
スズランは呆れたように言った。
偽痕。文字どおり偽の
魔術の素質はあるが、なかなか術が発現できない人が刻む痕。自転車の補助輪みたいなものだ。これで魔術の方向性を定めたりする。
ボクは聖痕の存在を隠すため、右手に偽痕を刻みこんだ。
表向きには、周りの人たちには魔術の素養はあるけれど、なかなか出力が安定しないから【基本属性の偽痕】を刻んだ。ということになっている。
「スズラン、聖痕のことは……」
「わかっています。誰にも……ベーコン様にもライラ様にも打ちあけません」
スズランは心苦しそうにした。
ボクの聖痕のことはスズランにだけ正直に打ちあけた。
彼女は驚いていたがすぐに納得してくれて、ボクの共犯者になってくれた。
共犯者とはちがうか。これも不笑王オリン=エスキュナーにならないため、世界が破滅に導かないようにするために大事なこと。
……でも、ゲームのオリンも同じ偽痕を刻んでいたんだよね。
右手の甲に偽痕を刻みこむアイディアはゲームを真似したものだ。原作オリンの初登場回は力のない弱者としてあらわれ、それで主人公(プレイヤー)を欺いた。
原作オリンが学園に入学していたって話はなかったな。
ちょうどボクぐらいの年齢で空白期間がある。
そのあいだに偽痕を刻んだと思うけれど……。
女の子みたいな容姿になったのも好都合かな。不笑王とはちがう人生を送っている証明にもなるし。
ボクがそう考えていると、スズランが口をひらく。
「オリン、アークノ魔導学園が見えてきましたよ」
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