第2話
「ふぅー、あっついなー今日も」
「お兄ちゃん、扇風機こっちにも向けて。コッチに当たんないんだけど!!」
「……さっきお前、扇風機の風でアイスすぐ溶けるから向けんなって言ってたろ」
「見て分かんないの? アイス食べ終わったから向けろって言ってんの!! それぐらい分かるでしょ」
ピクッ
表情筋が仕事した。
全く、コイツは本当に……アレだな。
「はいはい、分かりましたー、ジョウオウサマー」
「は? ムカつく、何その態度」
「よろしければアイスの空を捨てて来てあげましょう」
「え……いや、あたし食べてたの棒アイスだし自分で捨て……えっ、これでナニするの!?」
「はははは、ぶっ飛ばすぞ」
「いやー、お兄ちゃん、義理だってわかった途端アクセル全開だね。流石の私も身の危険を感じるよ」
「ねぇ君、話聞いてる? あと、今更そんな感情沸かねーって俺昨日言ったよね」
「でも、お兄ちゃんの部屋のゴミ箱、ティッシュで一杯じゃん。ナニしてたの?」
「………………」
「ぷははは、図星っ!! 説得力ゼロじゃん!! オカズは何? やっぱアタシ~?」
「…………いや」
「まあ、そんなわけないよねー…………ねぇ、なに今の間」
「………………」
「……ウッソ、マジのガチ? ……え、キモいキモいキモいキモい、マジ無理なんだけど」
「……アサミ」
「ガチで止めて、今名前で呼ぶの……いやホント幻滅っていうかさー、ホントキモいね」
「……お前、やっぱこの台本内容酷すぎだろ。どんだけ俺を性犯罪者に仕立て上げたいんだって話だ」
「え~、だってガチっぽくていいじゃん、練習になるし。お兄ちゃんも、もしもの時のいいセリフ練習になるよ?」
「来ねーよ、そんな場面!! ……つーかこの台本に、俺がアサミに襲い掛からない場面ねーだろ。製作者の悪意を感じる。なあ、これ本当にオーディションの台本?」
「当然じゃん!! 最近はそういうのが流行るんだって……あ、ちょっと休憩ね。お茶飲んでくる」
「……そもそも俺じゃなくて、彼氏と練習すればいいだろうに」
「は? お兄ちゃん、馬鹿? こんな内容で彼氏となんてできるわけないじゃん」
「……俺、台本見るたびにうんざりするんだけど」
「お兄ちゃん、分かってないなー。私みたいな美少女JKと一緒に何かやれるのは特権なんだよ? JKとのお喋りは万札掛かるんだよ?」
「……何処情報だそれ」
「え、ミカチャン。この前オジサンと話しただけで十万貰ったって言ってた」
「どいつもこいつもビッチだらけ……嫌になるな」
「まあ、セッ〇ス無しでそれは貰い過ぎだよね~実際」
「……まて、お前もしかして経験済みだったり?」
「そりゃあ、そうですよ。彼氏いるし……あ、何か言いたいことがあるのかなぁ? 童貞君クン」
「ダウト。お前嘘つくとき、一瞬だけ左下に目を向けるだろ。自分じゃ気付けねーはな」
「えっ!! 嘘!?」
「まあ嘘だけどな」
「……ハッ、お兄ちゃんのくせに、カマかけたわけ?」
「いや、別に。意図せずそうなっただけだ……あと、話し方素に戻ってるぞ」
「おっと、ごめんねー、可愛い妹っていう幻想を粉々にしちゃうところだった」
「……もう既に欠片も残ってねーけどな」
「何か言った?」
「いや何も?」
「……はぁ、今日はもう止め。霧矢、これ明日の台本だから読んどいて」
ドサッ
乱暴にリビングのテーブルに冊子が置かれる。おいおい、お兄ちゃん呼びも無くなってんぞ。
どうやら演技はここまでらしいので、リビングを出ようとしている黒茶の長髪に向かって俺は声を掛けた。
「アサミ」
「……何?」
「お前、やっぱ素の方が可愛いわ」
「……は? 暑さでおかしくなった? こんな性格のどこが可愛いって言ってんの? 詰られて喜ぶとかマジ変態……ガチキモい」
「そんな性癖ねーよ、自覚無いようだから教えてやる。何かを頑張る女の子ってのは魅力的に見えるんだよ」
「……霧矢さ、今めっちゃ恥ずかしいこと言った自覚ある?」
「ああ。言って後悔はしてねーけど、かなり恥ずい」
「ふーん…………気分乗ったから、続きしよ? お兄ちゃん!!」
「……はいはい、今度はまともな台本なんだろーな」
「当然じゃん、まともな台本以外は持ってきてないよ!!」
アサミは、ガサゴソと分厚い付箋だらけの本やらバインダーやらの入ったカバンの中を楽しそうに漁っている。
今度はどんな役をやらされるのだろう……しかしまあ。
(努力してんだと分かるところを見せつけられちゃあな……もうちょっと付き合ってやるかと思うんだよな)
アサミは台本を決めたようで、俺にそれを渡してくる。
目を走らせてなんとなく読み進めていると、ある一文が目に留まった。
『お、お兄ちゃん……私のパンツで何してたの……』
「おい、こら。これ本当にオーディションの台本だよな?」
「そう言ってんじゃん、さっきから。何? 疑ってんの?」
「これがガチなら、世間一般に対する妹への執着心に闇を感じるレベルだ」
「お生憎様。それが真実。…………お兄ちゃん!! セッ〇スしよう?」
「ヤメロ。俺をそこに引きずり込むんじゃない」
「あ、こっちがいい? …………こっちにおいで~? お〇ンチンを~シコシ〇、ちまちょ~ね~?」
「闇が深すぎる…………こんなの売れるとかやばい」
「疑問を抱いたらダメなのよ。はい、役入って」
「役者ってすげーな」
それから何度か練習し、親が帰ってきたタイミングでお開きとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます