クラスのギャルの好きな人

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第1話

田中翔太(たなかしょうた)は、特に目立つこともないごく普通の高校生だった。クラスの中で何か特別な才能を持っているわけでもなく、成績も中の上。部活は帰宅部。家に帰っては宿題をこなして、たまにスマホでゲームをするか、YouTubeの動画を見るくらい。友達も数人いるが、深く付き合うわけでもなく、いつも軽い話題でその場をしのいでいる。翔太にとって、高校生活はただの日常の延長であり、特に何かを求めているわけでもなかった。


そんな平凡な日々を送っていた翔太のクラスには、一人の目立つ存在がいた。桜井美咲(さくらいみさき)。彼女はギャルと呼ばれるタイプの女子で、明るくて元気、いつも笑顔を絶やさず、クラスメイトたちの中心的存在だった。髪は茶色に染め、少し巻いている。制服のスカートは少し短めで、ピアスをいくつか付けているが、どこか清潔感があり、派手すぎるわけでもない。誰にでもフレンドリーで、男子も女子も彼女の周りに集まり、常に教室の中で笑い声が絶えない。


翔太にとって、美咲はまるで別世界の人間のように感じていた。彼女とは話したことがほとんどなく、席も離れているため、特に接点はなかった。翔太は人との距離をあまり積極的に詰めるタイプではなかったし、美咲のような存在に自分が関わることなど想像もしていなかった。そんな彼女を、ただ遠巻きに見ているだけだった。


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ある日の昼休み、教室はいつものように賑やかだった。翔太は昼ご飯を食べ終え、机の上に突っ伏してスマホをいじりながら、他愛もない動画を見ていた。教室の中では、美咲が友達と話している声が響いていたが、翔太は特に気にも留めていなかった。だが、その時だった。


「ねえ、実はこのクラスに好きな人がいるんだ!」


その言葉が耳に飛び込んできた瞬間、翔太は思わずスマホを持っていた手を止め、顔を上げた。美咲が大きめの声で言ったその一言が、教室中に響き渡り、一瞬で静けさが訪れた。男子も女子も、全員が美咲の方を向き、ざわざわとした空気が漂い始める。


「え、マジで?」「誰、誰?」「このクラスに好きな人がいるとかヤバくない?」


クラスメイトたちが一斉に騒ぎ出し、周りの空気が一気に盛り上がり始めた。美咲はいたずらっぽい笑みを浮かべ、友達に「まだ内緒だよ!」と言いながら、軽く笑っている。その様子に教室中が沸き、誰もがその「好きな人」が誰なのか気になって仕方がない様子だった。


翔太は、心の中で静かにその場をやり過ごそうとしていた。「どうせ、俺じゃないよな」と自分に言い聞かせながら、できるだけ目立たないようにスマホの画面に再び視線を戻そうとする。けれども、なぜか胸がざわついていた。心臓が少しだけ速くなり、手が微かに汗ばんでいるのを感じる。翔太はそんな自分に戸惑いながらも、何とか平静を装った。


美咲がそんなことを言うなんて、当然あり得ない。彼女はクラスの中心人物で、皆から好かれている。翔太のようなごく普通の男子には、何の興味も持たれるはずがない。それは分かっている。だけど、どうしてだろうか。その瞬間、美咲の視線が一瞬だけ自分に向いたような気がしたのだ。


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「どうした、翔太?」


隣の席に座っていたクラスメイトの山田が、不意に話しかけてきた。翔太がびくっとして顔を上げると、山田はニヤニヤしながら「お前、もしかして美咲が言ってた『好きな人』ってお前なんじゃねえの?」とからかってきた。


「は? いや、そんなわけないだろ」


翔太はすぐさま否定したが、内心ではその冗談が少し気になっていた。「美咲の好きな人が自分であるはずがない」と思いながらも、その可能性を完全に否定できない自分がいたのだ。翔太は顔を赤らめながら、できるだけ冷静に見せようと努めた。


「だよな。お前みたいな地味な奴が美咲に好かれるわけないしな。ハハハ!」


山田の言葉に翔太は苦笑いを浮かべた。確かに、彼の言う通りだった。自分は地味で目立たない。美咲のような明るくて人気者の女子が、そんな自分に興味を持つなんてことは、まずあり得ないことだ。


「まあ、あの発言でクラスはしばらく騒がしくなるだろうな。誰が美咲の好きな人なのか、皆が探り合うことになるさ」


山田の言葉を聞きながら、翔太はその通りだと心の中で思った。美咲が「好きな人がいる」と言った瞬間から、クラスの空気は完全に変わってしまった。それまでの平穏な日常が、あの一言で一気にかき乱されてしまったような感覚だ。そして、その「好きな人」が誰なのかという疑問が、翔太の心にも影を落とし始めていた。


その日、翔太は美咲の発言がずっと頭から離れなかった。授業中も昼休みも、彼女が誰を好きなのかという考えが頭をぐるぐると回っていた。彼女の「好きな人」が自分ではないことは分かっている。だが、なぜかその考えが、翔太を不安にさせるのだった。


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翌日、翔太は少し重い気分で学校に向かった。美咲の発言があまりに大きな影響を与えすぎて、クラスの雰囲気がどうなっているのか不安だったからだ。学校に着いて教室に入ると、案の定、クラスメイトたちはまだ昨日の話題で持ちきりだった。誰が美咲の好きな人なのか、皆があれこれと推測を繰り返している。


「やっぱり、サッカー部の鈴木じゃないか? あいつ、イケメンだし」


「いや、もしかしたらバスケ部の田村かもしれない。美咲と仲がいいし」


クラスメイトたちの噂話が絶えず、誰もが興味津々な様子だ。翔太はその輪の中に入ることなく、自分の席に座り、静かにノートを開いた。しかし、その時だった。


「おはよう、翔太!」


突然、明るい声が聞こえてきた。驚いて顔を上げると、そこには美咲が立っていた。彼女はニコニコと笑顔を浮かべ、翔太の机の前に立っていた。


「お、おはよう、桜井さん…」


翔太は驚きながらも、何とか挨拶を返した。美咲が自分に話しかけてくるなんて、今までなかったことだ。何か用事でもあるのだろうか。翔太は緊張しながら彼女を見つめた。


「今日は何か用事でも…?」と翔太が尋ねると、美咲は首をかしげて笑った。


「いや


、特に用事ってわけじゃないんだけどさ、翔太っていつも大人しいよね。もっと話したいなって思ってたんだ」


その言葉に、翔太は一瞬言葉を失った。美咲が自分に興味を持っているなんて、想像もしていなかったからだ。しかし、彼女の明るい笑顔に、自然と緊張がほぐれていくのを感じた。


「そ、そうなの? あんまり人と話すの得意じゃなくて…」


翔太が正直に答えると、美咲は笑いながら「全然大丈夫だよ! 私もあんまり真面目な話とか得意じゃないし」と言った。その言葉に、翔太は少しだけ安心した。


「じゃあ、また今度ゆっくり話そうね! 今日は授業あるから、またね!」


美咲はそう言って、手を振りながら自分の席に戻っていった。翔太は彼女の背中を見送りながら、心の中で驚きと戸惑いが交錯していた。


なぜ美咲が自分に話しかけてきたのだろうか?




翔太は、美咲との短いやり取りを反芻しながら、授業が始まってもなかなか集中できなかった。彼女が自分に話しかけてくるなんて想像もしていなかったし、その言葉がどこか自然すぎて、裏があるとも思えなかった。それでも、翔太の心の中では疑問が大きくなっていく。美咲が言った「このクラスに好きな人がいる」という言葉と、自分に対しての急な接近がどうしても結びついてしまう。


「でも、そんなわけないよな…」


自分にそう言い聞かせながらも、翔太の胸の中には妙な不安と期待が渦巻いていた。もしかして、彼女が話していた「好きな人」が本当に自分なのではないか、という疑念が拭えない。授業中、黒板に書かれた内容は目に入ってこず、ずっと頭の中は美咲のことばかり考えていた。


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昼休みが訪れた。いつもなら友達の山田と一緒に昼ごはんを食べ、他愛のない会話を交わすのが日常だが、今日の翔太は落ち着かない気分だった。何かが変わりつつある。そんな予感が、彼を不安にさせていた。


「なあ、翔太。お前、今日なんか様子が変じゃね?」


山田がご飯を食べながら、翔太を見て声をかけた。


「え? いや、別に…なんもないよ」


翔太はなるべく自然に振る舞おうとしたが、その態度はどこかぎこちなかった。山田もそれに気づいたのか、じっと翔太を見つめていたが、ふと悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「さてはお前、美咲に話しかけられたから緊張してんだろ?」


「なっ…! そ、そんなわけ…」


「図星だな。だってさ、あんな美人で人気者の美咲が、お前みたいな地味な奴に話しかけるなんて珍しいもんな」


山田の言葉に、翔太は返す言葉がなかった。確かに、普段はほとんど接点がない美咲が、突然自分に話しかけてきたこと自体が、非日常的な出来事だったのだ。翔太自身、それがどういう意味なのか理解できていない。ただ、心の中で美咲の言葉が何度も繰り返されていた。


「まあ、お前が何考えてるか知らないけど、あんまり期待しすぎんなよ。美咲みたいな子は、きっとイケメンの誰かを好きなんだろうさ」


そう言いながら、山田は笑ったが、翔太の胸にはその言葉が冷たく響いた。確かにその通りだ。美咲のような存在が、自分のような平凡な男子に本気で興味を持つはずがない。それは分かっている。だが、どうしても心のどこかで、期待をしてしまう自分がいるのだ。


その後も、昼休みの時間が過ぎていく中で、翔太は落ち着かない気分のままだった。


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午後の授業が終わり、帰りの時間が近づいてきた。教室が解放され、クラスメイトたちは友達と談笑しながら帰り支度をしていた。翔太も鞄に教科書を詰めながら、いつも通り家に帰るつもりでいた。


だが、その時だった。


「翔太、ちょっと一緒に帰らない?」


突然、背後から声がかかる。振り返ると、そこには美咲が立っていた。翔太は驚きのあまり、返事ができなかったが、美咲は笑顔のまま話を続けた。


「たまたま方向同じだしさ、一緒に帰ろうよ」


翔太は心臓がドキドキと高鳴るのを感じながらも、なんとか返事をする。


「え、ああ…うん、別にいいけど…」


美咲の提案に、なぜか断ることができなかった。普段なら誰かと一緒に帰ることはほとんどない翔太にとって、これは異例のことだった。だが、彼女の明るい笑顔と、無邪気な提案に抗うことはできなかった。


美咲と翔太は並んで校門を出た。夕暮れの光が差し込む中、二人は歩き始める。最初はぎこちない沈黙が続いたが、美咲が軽い口調で話し始めた。


「翔太って、家どこだっけ? 私、駅の方に住んでるんだけど、同じ方向だよね?」


「えっと…俺も駅の方だよ。あんまり遠くないかも」


「そうなんだ! じゃあ、これからも一緒に帰れるね」


美咲の明るい声が響くが、翔太はその言葉に戸惑いを隠せなかった。これからも一緒に帰る? そんなに自然に言われても、どう反応していいのか分からない。翔太は少し考え込みながらも、とりあえず無難に答えることにした。


「そ、そうだね…まあ、タイミングが合えば…」


美咲はその返事に満足したのか、にこっと笑って「うん、楽しみにしてる」と言った。その笑顔は、いつも教室で見せているものと同じで、誰にでもフレンドリーで親しみやすい。それでも、翔太はどこか彼女の態度に特別なものを感じてしまう。


やがて、二人は駅に到着した。美咲が電車を待つ間、翔太は少しの間立ち話をしていたが、彼女はふと何か思い出したように言った。


「そういえば、中学の時の話、聞いていい?」


突然の質問に、翔太は少し戸惑ったが、「中学? うん、別にいいけど…」と返事をした。


「翔太って、昔どんな感じだったの? 今と同じで静かだった?」


美咲は興味津々な表情で、翔太の過去について質問を続けた。翔太はその質問に少し困りながらも、自分の中学時代を思い出そうとした。


「んー…まあ、今とそんなに変わらないかな。特に目立つこともなかったし、普通だったよ」


「そうなんだ。でも、何か特別なこととか、覚えてる出来事ってない?」


美咲の質問に、翔太はしばらく考え込んだが、すぐには思い出せるようなことはなかった。中学時代も、高校と同じように特に目立つこともなく、ただ淡々と過ぎていった日々だった。特別な出来事なんて、なかったはずだ。


「いや、特に思い出すことはないかな…なんでそんなこと聞くの?」


「うーん、なんか気になってさ。翔太って、昔からどんな人だったのかなって思ったの」


美咲は曖昧な笑みを浮かべながら答えたが、その表情にはどこか探るような雰囲気があった。翔太はその意図を汲み取れず、ただ曖昧な返事をするしかなかった。


「そうか…」


その後、電車が到着し、美咲は「また明日ね」と言って笑顔で別れを告げた。翔太はその場に立ち尽くしながら、彼女の言葉の意味を考えていた。彼女が自分に話しかけてきた理由、そして中学時代の自分について尋ねてきたこと。全てが繋がっているようで、まだその答えは見つからない。


翔太はその日、帰り道を歩きながら、美咲との会話を何度も思い出していた。



翔太は帰り道、まだ頭の中が混乱していた。美咲が自分に突然話しかけてきたことや、中学時代のことを尋ねてきた意味がわからず、ただぼんやりと考え込んでいた。彼女の言葉一つ一つを思い返しては、何か見落としているような気がしてならない。


「なんで、急に俺の中学時代のことを…?」


思い出そうとしても、中学時代は特に目立った出来事がなかったと自分で思っていた。だが、次第にある光景が頭をよぎる。それは、ずっと昔に不良に絡まれていた一人の少女を助けた時のことだ。


あの出来事は一度きりのことだったが、翔太の中では鮮明に覚えていた。不良に囲まれていた少女を咄嗟に助けたが、その後すぐに彼女はどこかへ行ってしまい、何も言葉を交わすことなく終わった出来事だ。その時の少女の顔も、はっきりとは覚えていない。ただ、怖がっていた瞳と、少し震えた手の感触だけが記憶に残っている。


「まさか…」


翔太の胸に、ある疑念が浮かんだ。


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翌日、翔太は学校に向かう途中でも、昨日のことが頭から離れなかった。美咲が自分に話しかけてきた理由はまだ分からないが、もしかしたら、あの中学時代の出来事と関係があるのではないかという気持ちが強くなっていた。


教室に入ると、美咲はすでに自分の席に座っていて、いつも通りの明るい笑顔で友達と談笑していた。その光景を見た翔太は、再び疑問が胸に湧き上がる。あの時の少女が美咲だったのか? それとも、ただの偶然なのか?


しかし、翔太はそんな思いを抱えつつも、普段通りに過ごすしかなかった。授業が始まり、クラスは静かになったが、翔太は美咲の背中を見つめながら、どうしてもその答えを知りたくなっていた。


昼休みが訪れた。クラスメイトたちはいつも通り、昼食を取りながら友達同士で盛り上がっている。翔太もまた、友達の山田と昼食を取ろうとしていたが、今日は何かが違った。


「ねえ、翔太。また一緒にご飯食べよ?」


そう言って、再び美咲が翔太の隣にやってきた。昨日と同じように、彼女は明るい笑顔を見せているが、その笑顔の裏には何かを隠しているような気がした。


「いいよ」と、翔太はぎこちなく答える。隣に座る美咲の存在に緊張しながら、心の中では昨日の疑問がさらに膨らんでいく。


二人が一緒に昼食を取り始めたとき、美咲はふと口を開いた。


「ねえ、翔太。前に話したこと、覚えてる?」


翔太は一瞬戸惑ったが、すぐに昨日の会話のことだと気づく。


「中学の頃のこと?」


「そう、それ。翔太って、本当に何も思い出さないの?」


その問いかけに、翔太は一瞬言葉を詰まらせた。どう答えるべきか迷ったが、ここで嘘をつく必要はないと思い、正直に話すことにした。


「実は…ひとつだけ思い出すことがある。中学の時、ある日、不良に絡まれてた女の子を助けたことがあってさ。でも、その後何も話せずに終わっちゃったんだ。その時のことが、今でも忘れられなくて…」


その言葉を聞いた瞬間、美咲の表情が一瞬だけ固まった。そして、少し頬を赤らめながら、小さく笑った。


「やっぱり、覚えてたんだ…」


翔太は驚いた。まさか美咲が、その少女だということを暗に認めているような口ぶりだったからだ。翔太は思わず聞き返す。


「もしかして、あの時の…?」


美咲は少し恥ずかしそうにうつむき、静かに頷いた。


「うん、そうだよ。あの時、翔太に助けてもらったのが私だったんだ」


翔太は、その言葉に衝撃を受けた。中学時代の出来事が、まさかこうして再び繋がるとは思いもしていなかった。ずっと記憶の片隅にあった一瞬の出来事が、今ここで現実となり、美咲と自分を結びつけるきっかけとなっていた。


「そうだったんだ…全然気づかなかった」


翔太がそう呟くと、美咲は少し笑みを浮かべた。


「まあ、私も言い出せなかったからね。でも、あの時のこと、本当に感謝してる。あのままじゃ、私どうなってたかわからなかったし…」


美咲の声は、いつもの明るさとは違い、どこか控えめで感謝の気持ちが込められていた。翔太は、その言葉にどう返せばいいか分からず、ただ「そうだったんだ…」と繰り返すだけだった。


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その後、二人は少しの間無言で昼食を続けていたが、やがて美咲がふと口を開いた。


「実はね、あの時のことがあってから、ずっと翔太のことを忘れられなかったんだ」


翔太は、突然の告白に心臓が跳ね上がるのを感じた。彼女が何を言おうとしているのか、分かっていながらも信じられない気持ちだった。


「翔太に助けられたことで、私、本当に嬉しかったし、安心したの。だから、ずっとお礼が言いたかった。でも、それだけじゃなくて…」


美咲は、少し顔を赤くしながら言葉を続けた。


「私、翔太のことがずっと好きだったんだ」


その言葉を聞いた瞬間、翔太は完全に固まってしまった。頭の中で状況を整理しようとするが、全く追いつかない。まさか、美咲が自分を好きだったなんて、そんなことは夢にも思わなかった。


「えっ…?」


「信じられないかもしれないけど、本当なんだよ。あの時から、ずっと…」


美咲は照れくさそうに笑っていたが、その笑顔には嘘がないことが分かる。翔太は、何も言えずにただ彼女の言葉を受け止めるしかなかった。


「だから、あの時、教室で『好きな人がいる』って言ったのも…実は、翔太のことだったんだ」


美咲がそう付け加えると、翔太の心の中にあったすべての疑問が一瞬で解消された。そして、それと同時に、自分自身が彼女に対して抱いていた感情にも気づき始めた。


「美咲…俺、今まで気づかなかったけど…たぶん、俺も君のことが好きだったんだと思う」


翔太は、少し恥ずかしそうに言葉を口にした。その言葉に、美咲は驚いたように目を見開いたが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。


「本当に…?」


「うん。本当に」


その瞬間、二人の間にあった長い時間が一気に縮まり、今までの距離感が嘘のように感じられた。翔太と美咲は、自然とお互いの顔を見つめ合い、照れ笑いを浮かべながらも、その場で何かが変わったことを確信した。


こうして、翔太と美咲は再び繋がり合い、二人の新しい関係が始まろうとしていた。


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その後、クラス中で騒がれることになった「美咲の好きな人は誰なのか?」という話題は、いつの間にか自然と収束していった。






美咲が「このクラスに好きな人がいる」と大声で宣言してからの数週間、クラスの雰囲気は少し落ち着いてきた。しかし、翔太と美咲の関係は大きく変わっていた。


放課後、一緒に帰ることが当たり前になり、時折クラスメイトの目を気にしながらも、二人は笑い合っていた。最初は不安と緊張ばかりだった翔太も、美咲と過ごす時間が楽しくなってきていた。彼女の明るさと優しさに触れるたび、心が穏やかになっていくのを感じていた。


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ある日の昼休み、美咲と一緒に昼食をとっていた翔太は、ふと疑問が浮かんできた。これまで二人でたくさん話してきたが、どうして美咲が自分を「好き」と言ってくれたのか、その理由を深く聞いたことがなかったからだ。


「美咲、ちょっと聞いてもいい?」


「うん、どうしたの?」


美咲はご飯を食べながら、にこやかに翔太の方を見た。その笑顔に少しドキッとしながらも、翔太は勇気を振り絞って尋ねた。


「どうして、俺のことが好きだって思ったんだろう? 俺、そんなに特別じゃないし…」


美咲はしばらく考え込むように視線を泳がせ、やがて優しい笑顔で答えた。


「うーん、なんて言ったらいいかな…。まず、あの中学の時に助けてくれたことが本当に大きかったんだよね。あの時、翔太がいなかったら、私はどうなっていたか分からないし、何より翔太が怖がらずに助けに入ってくれたことがすごく嬉しかったの」


美咲はその時のことを思い出しながら、真剣な表情になった。


「でも、それだけじゃなくて、高校に入ってからも、ずっと翔太を見てて思ったんだ。翔太は他の男子みたいに派手じゃないし、目立たないけど、いつも落ち着いてて、優しい。そんなところが、私にはすごく魅力的だったの」


翔太はその言葉に驚いた。自分では気づいていなかったが、ずっと美咲は自分を見ていてくれたのだ。


「それにね、翔太は他の人を気にしないで、自分のペースでやってるでしょ? 私、そういうところが好き。なんか、安心できるんだよね」


美咲の言葉に、翔太は思わず顔を赤らめた。自分にそんな一面があるとは思っていなかったし、美咲がそれを好んでくれるとは夢にも思わなかった。


「そっか…ありがとう」


翔太は照れくさそうに笑いながら、ただ一言そう答えることしかできなかった。美咲も少し恥ずかしそうに微笑んで、再びお弁当を食べ始めた。


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その日の放課後、翔太は美咲と一緒に帰り道を歩いていた。秋の風が心地よく、夕暮れの空が美しく染まっていた。二人は何も言わず、ただ隣を歩いているだけで、お互いの存在を感じていた。翔太は美咲とこうして一緒にいられることが、日々の中でかけがえのない時間になっていると感じていた。


「ねえ、翔太。これからも、ずっと一緒にいようね」


突然、美咲が静かに呟いた。その言葉に翔太は少し驚いたが、すぐに微笑んで答えた。


「もちろん。これからもずっと一緒だよ」


二人は手を繋ぎ、ゆっくりと歩いていく。未来のことはまだ何も分からないけれど、今この瞬間だけは、二人にとって最高の時間だった。


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季節は流れ、冬が近づいてきた。翔太と美咲の関係は順調そのもので、クラスの皆も「付き合ってるんだね」と噂するようになっていたが、二人はそれを気にせず、自分たちのペースで過ごしていた。


そんなある日、学校の文化祭が近づいてきた。翔太のクラスでは出し物としてカフェをやることになり、美咲はその企画の中心となって準備を進めていた。


「翔太も手伝ってよ! 一緒に準備しよう」


美咲にそう誘われ、翔太も文化祭の準備に参加することになった。最初は少し面倒に感じていたが、美咲と一緒に何かを作り上げる楽しさに次第に夢中になっていった。翔太は、彼女の明るさや積極的な姿勢に影響され、自分も少しずつ積極的にクラスメイトたちと関わるようになっていった。


そして迎えた文化祭当日。クラスのカフェは大成功で、翔太と美咲は協力してお客さんを迎え入れ、楽しそうに笑い合っていた。二人で一緒に働く時間は特別で、翔太はその瞬間が永遠に続けばいいのにとさえ思った。


文化祭の最後に、打ち上げのためにクラス全員で集まった時、誰かが美咲に声をかけた。


「美咲、翔太と付き合ってるんだよね?」


その質問に、クラス中の視線が二人に向けられた。翔太は突然のことに緊張したが、美咲は堂々と笑って答えた。


「うん! 私はこの人が好きなんだよ!」


その一言で、クラス全体が大歓声に包まれた。クラスメイトたちは祝福の言葉をかけ、二人をからかうように盛り上がったが、翔太は美咲が自分に対してこんなにも真っ直ぐな気持ちを持ってくれていることに感動していた。


「これからも、ずっと一緒にいような」


その夜、帰り道で翔太が不器用にそう言うと、美咲は微笑みながら頷いた。


「もちろん、ずっと一緒だよ」


二人は手を繋ぎながら、未来に向かって歩き出した。その先には、まだ見ぬ景色と新しい日常が待っていることを感じながら、二人は静かに笑い合った。


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物語は、文化祭を通じてさらに強くなった二人の絆と、これからも続いていくであろう彼らの青春の一歩を描いて終わりを迎える…

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