第12話 魔導書と、その所有者2




魔導書はその力を餌に、人々を惹き付けていると言われている。魔導書に惹かれた者の行く末は、隆盛か破滅の二択だけ。


数々の隆盛と破滅を繰り返してきた魔導書。そしてその魔導書にはキング、ジェネラル、ナイトという3つのランクが存在する。



キングは『ネクロノミコン』や『死霊組成』の様に、それ一冊で森羅万象の全ての事柄に精通し、全ての事柄を完璧にカバー出来うる、万能な性能を持つ魔導書の事を云う。


キングのランクの魔導書はそれ一冊で、世界を滅ぼす事も、新たに世界を作り出す事も自由自在な究極の魔導書と言われている。


そしてこの地球と平行して存在する全ての世界を合わせても、キングのランクの魔導書はたったの3冊しかこの世に存在しない。


そのためキングランクの魔導書を持つ所有者を巡っての争いは絶える事がないのだ。



ジェネラルは魔導書自体を触媒とし、何らかの生贄や対価を捧げる事で所有者の力となり願いを叶える事が出来る魔導書だ。


所有者が触れた者の魂を対価に願いを叶える『ソウルイーター』や、所有者の寿命を対価に魔法を創造出来る『マジック.フェイタリティ』がそれに該当する。


キングランクの魔導書の様に万能では無いが、ジェネラルの魔導書も強力な魔導書である事に変わりはない。



ナイトは魂や所有者の骨や血液、身体の一部分を対価に、異空間から魔物や悪魔、魔人を召喚する魔導書だ。


魔導書の力が召喚だけに偏っているため、他の魔導書よりは格下の扱いを受けている。


格下とは云われているが、万の軍に匹敵する力を持つ魔導書も存在しており、その性能は千差万別だ。


肉親の魂を対価に深淵の魔物を召喚し、持つ者とその関係者に破滅を齎すと云われる魔導書『ンンブ.ブブライ(破滅の書)』


自身の骨や体の一部を対価に、絶対服従の巨人を召喚する『テタマキアン.ロード(巨兵麗王)』などがそれに該当する。



魔導書の所有者はそれだけでこの世の栄華を約束される。それ故に誰しもがその力を欲しがり、そしてその先にある破滅さえ厭わずに奔走する。


それはこの組織に属する者達も同様、自分達が破滅へと向かっている事にも気付かず、安易な策を弄するのだ。



ーーーーー



「ぐっ……ぐぬぬ………」


悔しいが女の言う事は間違いではない。


異世界へゲートを開くために呼んだこの女は、嘘か真か2000年の長きを生きるという。彼女の魔導についての知識は間違いなく本物だ。


だが、自分達の組織"灰色の魔手''の幹部の1人としてそれに頷く訳にはいかない。組織を率いる者としての意地が有る、プライドが有るのだ。



「ミレニア殿、其方は門を開く術式のためだけにここに呼んだのだ。組織の指揮に関しては其方の窺い知れぬ事、余分な口出しは遠慮していただこうか」


遠回しの拒絶、外部の女の意見を聞いたとあっては部下に示しが付かない。


それ以前に見た目は綺麗だが、この異世界人にはどうも信用が置けない。彼の長年の経験が告げるのだ、この者は危険だと、信用してはならないと。



「あらそう、ならそろそろ潮時かしら。じゃあ生きて居たらまた会いましょう、無能な隊長さん」


そうとだけ言い残こすとミレニアと呼ばれた女は、組織の者が苦虫を噛み潰したような顔で見送る中で作戦室を後にした。



ミレニアがこの組織に力を貸していたのは一カ月程だが、その後ろ姿からはこの組織を離れる事への未練は少しも感じられない。


彼女とて所詮は金で雇われたフリーランサー、仕事が終われば例えこの組織が滅びようともどうでもいいのだ。



そんなミレニアの腕からどこへとも無く伸びている透明な紐の様な魔道具。そしてその透明な紐からある反応が伝わってくる。



「あら最後の最後で見つかるなんて、付いていない様で付いているわね……」


この透明な紐は彼女がこの組織に入ると同時に、施設内に解き放っておいた物で、その名を"万能螺系(マジックワース)"といい、ある物の探索に突出した能力を持つ。


それは魔導に関する品々だ。この"マジックワース"は魔導に関する品々が放つ魔力を捉えそれに反応する。


彼女が今回探していたのは『イグジステンス.オーヒ(幽体隔離)』と呼ばれる魔導書だ。生き物の魂を糧に幾多の死霊を召喚すると言われる禁断の魔導書。


彼女は半年も前から、近々この警備の厳重な施設に魔導書が運び込まれる事を掴んでいた。


そして密かにその保管場所を探りながらタイミングを伺っていたのだ。


彼女は組織の者に自分が監視されている事は気付いていた。協力者の振りをして近づいては見たが、自分が信用されていない事で大胆な行動ができなかった。


だが最後の最後に彼女の待つ魔道具がその反応を捉えたのだ。



そこで彼女は一旦外に出た後に、監視の者を巻き自身に透明化の魔法を掛けると、再び施設に戻り紐の導き通りに施設内を進みだした。


施設の地下を1時間程降っただろうか、紐に導かれて辿り着いた場所は地下15階。この施設内で最も厳重な守りの部屋がある場所だ。


透明化の魔法のおかげでここまでバレる事は無かった。


その部屋の付近には必要が無いためか警備員の姿は皆無だ。そして彼女は部屋の手間10メートルの所で立ち止まった。


"探索''の魔法で辺りの状況を伺って居たため、これ以上近くのは危険と判断したのだ。



(赤外線探知に熱源探知、それにレーザーメスのおまけまで…… 魔導書の保管場所はここで間違い無さそうね)


ミレニアはこの地球に来て50年、この世界の警備システムは大体把握している。そしてこの場所の警備体制がどれ程厳重なのかも分かる。


だがこの程度の守りなら魔道を極めた彼女には大して意味を成さない。


今度は"フォーカス.アイ''の魔法を使い部屋の中を透視して伺う。予想通り、部屋の外とは違い中には大した警備では無さそうだ。



「テレポーテーション」


"フォーカス.アイ"の魔法で室内の状況は丸わかりだ。魔導書は部屋の中央に有り、その周りにはレーザートラップが張り巡らされている。


だが部屋の周りに対魔法の結界などは一切ないため、彼女は直接部屋の中央のレーザートラップが無い、中央の魔導書が置かれた場所に短距離転移を行ったのだ。



「フフフフッ、対魔法の結界すら張ってないなんて、本当にこの世界は生きやすい世界だわ」


コチラの世界では百式のミレニアと呼ばれている彼女だが、元居た世界では別の異名を持っている。


その名は''ソーサリーアイ''。魔導に関する魔導書や魔道具を盗み出す事に生き甲斐を覚えるコソ泥だ。


始めこの世界に強制転移された時は絶望感で満たされていた彼女の心。だが科学力は1番でも、魔導には疎いこの世界での楽な仕事で、逆に彼女の心は満たされていった。



「この世界に来たばかりの頃は異空間転移なんて無理、例え出来たとしても狙った世界にゲートを繋ぐなんて不可能だった……」


本来は異空間にゲートを繋げるには、何百人かの生贄と、数日に及ぶ術式の構築が必要だった。そんな事は彼女1人では不可能ではないが、時間がかかり過ぎてしまう。



だが『死霊組成』の前所有者の黒幽斎が、安全で簡易なゲートの術式を作り上げた。その結果彼女も簡単な準備と儀式だけで、元の世界との行き来が容易になった。


それでも異空間転移が単独で出来るのは、彼女の様に魔導に精通した者か、マスター.メナス(魔導書の所有者)以外には不可能なのだが。


因みにその事は組織の者には話していない。まさかこんな身近に異世界への手掛かりが有るとは夢にも思わないだろう。



「まったく、黒幽斎様々ね」



彼女は台座の上に大切そうに置かれた魔導書をその手に取った。だがミレニアが魔導書を手にした瞬間に彼女の腕に血管が浮き上がる。


魔導書が彼女に拒否反応を起こして彼女の精気を吸い出し始めたのだ。





魔導書はその力を餌に、人々を惹き付けていると言われている。魔導書に惹かれた者の行く末は、隆盛か破滅の二択だけ。


数々の隆盛と破滅を繰り返してきた魔導書。そしてその魔導書にはキング、ジェネラル、ナイトという3つのランクが存在する。



キングは『ネクロノミコン』や『死霊組成』の様に、それ一冊で森羅万象の全ての事柄に精通し、全ての事柄を完璧にカバー出来うる、万能な性能を持つ魔導書の事を云う。


キングのランクの魔導書はそれ一冊で、世界を滅ぼす事も、新たに世界を作り出す事も自由自在な究極の魔導書と言われている。


そしてこの地球と平行して存在する全ての世界を合わせても、キングのランクの魔導書はたったの3冊しかこの世に存在しない。


そのためキングランクの魔導書を持つ所有者を巡っての争いは絶える事がないのだ。



ジェネラルは魔導書自体を触媒とし、何らかの生贄や対価を捧げる事で所有者の力となり願いを叶える事が出来る魔導書だ。


所有者が触れた者の魂を対価に願いを叶える『ソウルイーター』や、所有者の寿命を対価に魔法を創造出来る『マジック.フェイタリティ』がそれに該当する。


キングランクの魔導書の様に万能では無いが、ジェネラルの魔導書も強力な魔導書である事に変わりはない。



ナイトは魂や所有者の骨や血液、身体の一部分を対価に、異空間から魔物や悪魔、魔人を召喚する魔導書だ。


魔導書の力が召喚だけに偏っているため、他の魔導書よりは格下の扱いを受けている。


格下とは云われているが、万の軍に匹敵する力を持つ魔導書も存在しており、その性能は千差万別だ。


肉親の魂を対価に深淵の魔物を召喚し、持つ者とその関係者に破滅を齎すと云われる魔導書『ンンブ.ブブライ(破滅の書)』


自身の骨や体の一部を対価に、絶対服従の巨人を召喚する『テタマキアン.ロード(巨兵幽閉』などがそれに該当する。



魔導書の所有者はそれだけでこの世の栄華を約束される。それ故に誰しもがその力を欲しがり、

そしてその先にある破滅さえ厭わずに奔走する。


それはこの組織に属する者達も同様、自分達が破滅へと向かっている事にも気付かず、安易な策を弄するのだ。



ーーーーー



「ぐっ……ぐぬぬ………」


悔しいが女の言う事は間違いではない。


異世界へゲートを開くために呼んだこの女は、嘘か真か2000年の長きを生きるという。彼女の魔導についての知識は間違いなく本物だ。


だが、自分達の組織"灰色の魔手''の幹部の1人としてそれに頷く訳にはいかない。組織を率いる者としての意地が有る、プライドが有るのだ。



「ミレニア殿、其方は門を開くためだけにここに呼んだのだ。組織の指揮に関しては其方の窺い知れぬ事、余分な口出しは遠慮していただこうか」


遠回しの拒絶、外部の女の意見を聞いたとあっては部下に示しが付かない。


それ以前に見た目は綺麗だが、この異世界人にはどうも信用が置けない。彼の長年の経験が告げるのだ、この者は危険だと、信用してはならないと。



「あらそう、ならそろそろ潮時かしら。じゃあ生きて居たらまた会いましょう、無能な隊長さん」


そうとだけ言い残こすとミレニアと呼ばれた女は、組織の者が苦虫を噛み潰したような顔で見送る中、作戦室を後にした。



ミレニアがこの組織に力を貸していたのは半年程だが、その後ろ姿からはこの組織を離れる事への未練は少しも感じられない。


彼女とて所詮は金で雇われたフリーランサー、仕事が終われば例えこの組織が滅びようともどうでもいいのだ。



そんなミレニアの腕からどこへとも無く伸びている透明な紐の様な魔道具。そしてその透明な紐からある反応が伝わってくる。



「あら、最後の最後で見つかるなんて、付いていない様で付いているわね……」


この透明な紐は彼女がこの組織に入ると同時に、施設内に解き放っておいた物で、その名を"万能螺系"といい、ある物の探索に突出した能力を持つ。


それは魔導に関する品々だ。この"万能螺系"は魔導に関する品々が放つ魔力を捉えそれに反応する。


彼女が今回探していたのは『イグジステンス.オーヒ(幽体隔離)』と呼ばれる魔導書だ。生き物の魂を糧に幾多の死霊を召喚すると言われる禁断の魔導書。


彼女は半年も前から、近々この警備の厳重な施設に魔導書が運び込まれる事を掴んでいた。


そして密かにその保管場所を探りながらタイミングを伺っていたのだ。


彼女は組織の者に自分が監視されている事には気付いていた。協力者の振りをして近づいては見たが、自分が信用されていない事で大胆な行動ができなかった。


だが最後の最後に彼女の待つ魔道具がその反応を捉えたのだ。


そこで彼女は一旦外に出た後に、監視の者を巻き自身に透明化の魔法を掛けると、再び施設に戻り紐の導き通りに施設内を進みだした。


施設の地下を1時間程降っただろうか、紐に導かれて辿り着いた場所は地下15階。この施設内で最も厳重な守りの部屋がある場所だ。


透明化の魔法のおかげでここまでバレる事は無かった。


その部屋の付近には必要が無いためか警備員の姿は皆無だ。そして彼女は部屋の手間10メートルの所で立ち止まった。


"探索''の魔法で辺りの状況を伺って居たため、これ以上近くのは危険と判断したのだ。



(赤外線探知に熱源探知、それにレーザーメスのおまけまで…… 魔導書の保管場所はここで間違い無さそうね)


ミレニアはこの地球に来て50年、この世界の警備システムは大体把握している。そしてこの場所の警備体制がどれ程厳重なのかも分かる。


だがこの程度の守りなら魔道を極めた彼女には大して意味を成さない。


今度は"フォーカス.アイ''の魔法を使い部屋の中を透視して伺う。予想通り、部屋の外とは違い中には大した警備は無さそうだ。



「…… テレポーテーション」


"フォーカス.アイ"の魔法で室内の状況は丸わかりだ。魔導書は部屋の中央に有り、その周りにはレーザートラップが張り巡らされている。


だが部屋の周りに対魔法の結界などは一切ないため、彼女は直接部屋の中央のレーザートラップが無い、中央の魔導書が置かれた場所に短距離転移を行ったのだ。



「フフフフッ、対魔法の結界すら張ってないなんて、本当にこの世界は生きやすい世界だわ」


コチラの世界では百式のミレニアと呼ばれている彼女だが、元居た世界では別の異名を持っている。


その名は''ソーサリーアイ''。魔導に関する魔導書や魔道具を盗み出す事に生き甲斐を覚えるコソ泥だ。


始めこの世界に強制転移された時は絶望感で満たされていた彼女の心。だが科学力は1番でも、魔導には疎いこの世界での楽な仕事で、逆に彼女の心は満たされていった。



「この世界に来たばかりの頃は異空間転移なんて無理、例え出来たとしても狙った世界にゲートを繋ぐなんて不可能だった……」


本来は異空間にゲートを繋げるには、何百人かの生贄と、数日に及ぶ術式の構築が必要だった。


だが『死霊組成』の前所有者の黒幽斎が、安全で簡易なゲートの術式を作り上げた。その結果彼女も簡単な準備と儀式だけで、元の世界との行き来が容易になった。


それでも異空間転移が単独で出来るのは、彼女の様に魔導に精通した者か、マスター.メナス(魔導書の所有者)以外には不可能なのだが。


因みにその事は組織の者には話していない。まさかこんな身近に異世界への手掛かりが有るとは夢にも思わないだろう。



「まったく、黒幽斎様々ね」



彼女は台座の上に大切そうに置かれた魔導書をその手に取った。だがミレニアが魔導書を手にした瞬間に彼女の腕に血管が浮き上がる。


魔導書が彼女に拒否反応を起こして彼女の精気を吸い出し始めたのだ。



「あら、私じゃお気に召さないと…… (もう新たな主を定めているのね。残念、とても残念だわ……)


彼女は一瞬だけ憎悪に満ちた視線で魔導書を睨んだが次の瞬間には切り替え、慌てる事なく用意していたアイテムバックに魔導書を入れると、中ば干からびミイラ化した自身の手を切り落とした。



「あ〜あ、お気に入りのアイテムバックだったのに、これじゃあ汚染されて2度と使えないわ……」


瘴気の強い魔導書や魔道具にはよくある事で、アイテムバック内の亜空間が汚染されてしまうのだ。


用心にもう一つ用意しておいたアイテムバックに、魔導書の入ったアイテムバックを入れる。


彼女にはよくある事なのだろう。腕を無くしたというのに、その仕草には全く気にした様子は伺えない。



「魔導書一冊で腕一本と、マジックバック一つの犠牲ならギリギリ許容範囲てとこかしら(魔導書は食えなかったけど、一先ずは良しとしておきましょう)


そしてミレニアは、魔導書に精気を吸われ干からびた自身の腕だけを残して、その場か消え去った。




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