第3話憂鬱な学園生活
僕は学生だ。高校生なため学校にも通わなくてはならない。
学校での僕はなるべく人と関わり合わない様にしている。そのため友達と呼べる人物は居ない。
小さい頃からお祖父ちゃんのお友達とばかり接して来たため、同年代の人達とは付き合いがなかった。
まあ、小学生の頃から魔導書尽くめだった僕の生活に、友達なぞ作る暇は無かったというのが事実だ。
他の者達が昨日は何を観た、何の漫画を読んだという話題で盛り上がるのに対して、僕の場合は何々の魔道具を作った、何々の召喚に成功したである。
死期を悟ったお祖父ちゃんが僕の為に、色々な道標を残してくれた。彼等とはまるで住む世界が違うのだ……
魔導書に選ばれてしまった僕は、これからも魔導書と共にあり続けなければならない。
そんな僕に友達何ぞ出来る訳がないのだ。
それに家ではお祖父ちゃんやその知り合いとばかり接していたため、喋り方も古臭く古風な物になってしまっている。
まあ家以外では殆ど口を開かないので良かろうなのだが。
学校での時間はもっぱら魔導書を見る事に費やしている。先日から8巻を読み始めたところだ。
一見すると古い漫画にしか見えないため、まさか僕が禁断の魔導書を読んでいるとは誰も思わないだろう。
もっぱらクラスメイト達には古漫画愛好家と思われている様だ。
それに魔導書に選ばれた者以外は、本の内容を理解できない。あり得ない事だが、たとえ内容が理解出来たとしても、一巻から順番に読まなくては魔導書が機能してくれないのだ。
そのため例え見られたとしても問題はない。
僕も学校では関わるなオーラを出している気は無いのだが、この高校に入学してからの3ヶ月、話しかけてくる者は皆無だ。
それは身を守るためにいつも身に付けている魔道具『気配遮断』(自身の気配を半分にする)の影響なのだが、これ程に効果が有るとは思わなかった。
だがある日の放課後、いつもの様に帰り支度をしていると、僕に話しかけてくる強者が現れた。
「ね、ねえ薬師寺君、この後ちょっといいかな?」
僕に声を掛けて来たのは、クラスで1番可愛いといわれている相澤聖理奈。肩までの黒髪と擦れてなさそうな雰囲気、一見清廉清楚に見える美少女だ。
もちろんカーストの頂点に君臨する彼女とは、何の接点も無い事は言わずもがなだ。
「……やあ相澤さん、僕に何の用だい?」
一瞬心臓がドキッとしたが、僕は冷静に魔導書に載っていた秘術の一つ『ワイド(思慮分別)』を使う。
この『ワイド(思慮分別)』は対象とその周りの状況を広く冷静に、注意深く探る事が出来る秘術だ。
早く言えば周りを見る視野を広げて情報を探る探知の術だ。この秘術の名を頭の中で唱えるだけで発動する。
秘術全般には、それぞれ本来別の呼び方があるのだが、人間には難しい発音なためこの『ワイド』の様に、人間の言葉で発動出来るようにプログラミングし直してある。
そして一度使った術式はその名を唱えるだけで使える。全くもってお祖父ちゃん様々である。
とにかく何故この様な力を彼女やその周辺に対して使ったのか、それは僕の人差し指の指輪が反応したからだ。
この『ジャッジ(悪意感知)』という名の指輪は、僕に対しての悪意に敏感に反応し、指輪を締める事で教えてくれるという便利な魔導具だ。
そのため彼女か、それに関わる何者かが、僕に何らかの悪意を持って居るという事が分かったのだ。
僕は小さい頃からお祖父ちゃんに言われた通り、身を守るための魔道具を幾つも身に付けている。それがこうゆう形で役立つとは、とんだ皮肉である。
「う、うん、ここでは話せないから体育館の裏に来てもらえるかなぁ」
「……体育館の裏……」
大体の経緯は予想出来た。
大方、何らかの罰ゲームで僕に告白して、その反応を皆で笑おうというよくある類いの茶番だろう。
ここから5メートル程離れた場所にいる、カースト上位勢の反応を伺うに、僕の予想で間違いは無さそうだ。
そう、今彼等の間で流行っているのがこの嘘告白。ジャンケンで負けた者が、クラスのモブの中から無造作に1人を選んで告白する。
告白が成功した場合はカラオケや飲食なとで奢ってもらえて、失敗した場合は逆に皆に奢る。告られて真実を知らされた後のモブの反応を見て笑う事も、このゲームの楽しみの一つだ。
いつもこんなくだらない事をして楽しんでいるのか、全くもってカースト上位勢の考える事は分からない。
(さて、どうしたものか……)
僕が思考の迷宮に入り込んでいると、返事が無い事に焦ったのか、相澤聖理奈が追い討ちをかけてくる。
「ね、ねえ薬師寺君、ダメかなぁ……」
上目遣いで懇願する様に彼女が聞いて来た。やり慣れた仕草なのだろう、とても様になって居る。
普通ならコロっと騙されるのであろう彼女の仕草だが、僕は彼女達の悪意を知って居るため警戒心以外は何も感じない。
「…… いいよ。じゃあ行こうか」
このまま突っぱねるのも手だが、逆にどんな事態に陥るのか楽しみでもあるのだ。それに悪意には悪意で返すのもまた一興かも知れない。
僕は彼女の後に付いて行く。体育館裏には誰もおらず、僕と彼女の2人だけでシーンと静まり返っていた。
まあ僕等の背後から、5〜6人の集団が付いて来ているのが丸分かりなため、興醒め感は拭えないが。
「…… 実は私、薬師寺君の事が好きだったの。よ、良かったら私と付き合って下さい!」
溜め気味に嘘の告白を始めた彼女。普通なら緊張と喜びで心臓がバックンバックンな状況なのだろうが、彼女の真意は分かっている。
「…… 罰ゲームか何かの賭けだとは思うけど、こうゆうのはあまり感心はしないよね」
そう言うや否や、僕は人差し指を彼女の額にトンと当てるとある秘術を使う。
「えっ?」
彼女に使ったのは『夢魔』という秘術で、3日3晩悪夢に魘されるという嫌がらせの為の秘術だ。
「僕からの応えはNOだ。じゃあ良き眠りを」
「へっ?……」
彼女もまさか速攻で断られるとは思って居なかった様で、キョトンとした顔をしている。
そんな彼女をそのままに、僕はカースト上位勢の居ない反対側からその場を後にした。
「フゥ…… やっぱり人との付き合いは苦手だな…… (今度は人が寄り付かない様な効果の魔導具でも作ろうか)
何度でも言うが、小さい頃から付き合いが合ったのはお祖父ちゃんかその知り合いばかりだった。
お祖父ちゃんの知り合い=年寄りで有る。そのため同年代との付き合いは苦手だ。
今回はあからさまに、僕に対して悪意を持って近づいて来た連中だから、対応も上手く遇らえた。
だがもし、今回の件が本当の告白だったなら、僕はしどろもどろに混乱して取り乱していただろう。
『何事も経験だ。如何なる事でも経験しておいて損はない』とはお祖父ちゃんの言だ。
良い気分ではないが僕もそう思う事にした。
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家に帰ってからは地下室に篭り、今日の鬱憤を晴らすかの様に魔導書の実験に没頭した。
今回行ったのは中型魔法陣の作成と起動、そろそろ小型の生物では魔導書が満足しなくなって来たのだ。
「--水銀の補充は完了、起動の術式は…… ああ、いざという時の為の退陣式の起動も忘れずにと……」
本番前の練習で手順は間違いない。後は呪文を間違えさえしなければ完璧だろう。
「ガルダ、エセタモント、アジ、ナグゥラ、メーン………」
僕が呪文を唱え出すと共に魔法陣が怪しく輝きだす。そして呪文が終わると共に魔法陣が起動しだした。
「うん、成功だね。後はどんな生き物が送られて来るかだな」
あと何度か召喚を繰り返せば呪文無しでも召喚魔法陣が使え様になるだろう。
最終的には魔導具も魔法陣も無しで召喚できる様になる、とお祖父ちゃんは言っていたが、いつになる事やら。
魔法陣の放つ眩い光が晴れるのを待つ……
場合によっては危険な生物が召喚されて来るかも知れない。そのため退陣の魔法陣をいつでも起動出来る様に準備をする。
お祖父ちゃん曰く、『この部屋からなら比較的安全な異界にゲートを繋げる術式にしてあるから、気楽に召喚しなさい』との事。
一体、僕のお祖父ちゃんは何者だったのだろう……
魔法陣と僕のいる場所の間には厚さ5センチの強化ガラスがある。それ以前に召喚された生物は、余程の強者、神格クラスの猛者でない限り速攻で魔導書に食われてしまう。
お祖父ちゃんは僕に魔導書を譲った後のことも考えていてくれた。備えあれば憂いなしという事だ。
そして徐々に魔法陣の光が収まって行き、召喚された生物の姿が明らかになって行く。
だが何がおかしい、いつもは召喚されて来る生物は一体だけのはず。
それなのに何故か今回は2匹もいたのだ。1匹は緑色をした人形の小鬼、いわゆるゴブリンという奴だと思う。
コイツは以前にも召喚した事が有るので知っている。
そしてもう1匹は猫、見た目は猫だが二足歩行の猫なのだ。その2匹がもつれ合う様に召喚陣の中に現れた。
2体は突然の状況に始めキョトンとしていたが、我を取り戻したゴブリンの方が、手にしている棍棒を強化ガラスに向けて振り上げた。
流石は野性の魔物、今の状況は判断出来ずとも閉じ込められている現状に気付き、本能でこの現状から逃れようとしているのだろう。
だがそれと同時に哀れゴブリンは、魔導書に吸い込まれて生贄となってしまった。
この魔導書に意識が有るとは思えないが、召喚された2体の内で力が有るゴブリンの方を生贄に選んだ様だ。
この一連の流れに言葉を失っていた僕だったが、強化ガラスの中の二足歩行猫が話しかけて来た事で我に戻った。
『そこの人間さん助かりましたニャ。ここから出してほしいですニャン』
「…… ね、猫が喋った……」
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