第4話 旅立ち
朝から・・・僕は鳥のように空を飛んでいる。
ワイバーンから得られた<飛行>のスキル、これに<重力魔法>を加減して使うことによって、飛行、浮上、上空停止、急降下、急浮上など様々な飛行テクニックを自在に使えることがわかった。飛行スキルには、飛行中の呼吸支援のようなものが組み込まれていて、つまり飛行中でも普通に息ができる。高速飛行の場合にはさすがに風当りが強いが、まあこんなもんだろ?
<飛行>だけでもとても良いものだが、ワイバーンの飛行はそれだけではなかったようだ。
前の世界での物語に書いてあったドラゴンの飛び方が混ざっているのかな?
ドラゴンの場合は、あれは魔力で体を浮かせて飛んでいる、つまり重力の使いこなしで飛んでいるのだろう、というのが実感できた。
そろそろ僕も他所へ行ってみたくなってきた。そのためにこの飛行スキルが手に入ったのは嬉しい事実だ。
世話になりっぱなしのオークたちにはやはり何かをプレゼントしてあげようと思って、魔法の袋に決めた。3個もあれば、ツヨシさんに一つ、そして村用に2個。
内部空間の収納容量は『大』まで広げておいた。時間は停止空間だ。
*魔法の袋:容量(大)時間停止空間
ツヨシさんの袋にはワイバーンを一頭まるまる入れてある。
「あれは、ミチナガが一人で狩ったんだから、俺たちにもらう権利はない・・・」
などと、言い張っていたからな、こういう機会でないと渡せそうもないから。
丸一日、このあたりの上空を飛び回った。
高いところまで上がれば遠くまで見えると信じて高度を上げて見渡したが、ここの北に広がる高山地帯の広大さに驚いただけ。その向こうにあるという人間の町など全く見えなかった。まさか・・・この星?の裏側とか? それほどに遠いのだろう。
まあ、でもそのおかげで、このあたりに魔物の世界が存在できているのかもしれない。
いくら少数派といっても、あの、僕の知っている人間という種族ならな・・・関わるものを破壊し搾取しつくしてどんどん拡張していくことだろうよ・・・
できればここのオークたちも、そういう人間には関わらないで過ごして欲しいよ、全く。
夕食時に村長とツヨシさんご一家には話を聞いてもらった。
「そうか~ ミチナガ、出ていくんだな・・・生きていたらまた会えるさ! 簡単にくたばるなよ!」
「ミチナガ、いろいろありがとう。楽しかったよ」
「お兄ちゃん? 出ていくのね・・・でも平気、また会えるよね?」
ああ、また会えるさ・・・そうか!
『生きてりゃまた会える』 そりゃそうだけど、これがこの世界の常識なんだよな・・・
例の魔法の袋を渡した。
ツヨシさんに一つ。
それと、少し色違いにしておいたが二つを村長に渡した。
「村長、これは魔法の袋です。村長に見せてもらった魔法鞄を参考にして僕が作ったものです。二つは村長に差し上げます、村の皆さんで使ってくれれば・・・」
「ほう? ミチナガはそういうことまでできるのだな・・・ありがとう、村の宝にするさ」
「あれ? ミチナガ、俺の袋に・・・」
「ああ、わかりましたね、それ差し上げます。いままでのお礼です。受け取ってください、拒否は出来ませんので・・・」
「ぶははは、分かった、ありがとうよ!」
「・・・お兄ちゃん、私を助けてくれてありがとう・・・」
翌朝早く、まだ薄暗いうちに村を出ることにした。
「ありがとうみんな~ 僕はなんとかこの世界で生きていけそうです」
「ははは、ミチナガよ、そうだ! 生きてりゃまた会える!」
「あれ? ツヨシさん・・・早いですね」
「まあな、だいたいわかるさ、お前は誰にも言わずに一人で出ていくつもりだろう?」
「ですね・・・」
「だから、俺が見送ってやる。さあ、旅立っていけよ! それと・・・いつでもいい! 戻ってこいよ!?」
「ええ、・・・じゃあ!」
歩いて出ていくつもりだったが・・・その場から<飛行>で浮上していった・・・
下を見れば、何だよ! 村長も、ツヨシさんも、カレンも、それに村の男たちも・・・みんな出てきてるじゃないか!~ みんなが手を振ってくれてる。
僕も上空からだけど、手を振って答えてみた・・・・
上昇しすぎて、みんなが点にしか見えなくなった。
調子狂うなぁ~ 静かに去りたかったのに~
オーク村の近くを流れる川に沿って上流を目指す。
これからの水を確保しておかなくちゃ。
上流を目指して進んでいたら山の中腹を超えて、ほとんど山の頂上付近にまで来ていた。
水源は滝になっているようだ。
この山は頂上付近は岩山で、中腹あたりから土砂や土で木が生えて森林地帯になっている。
頂上は標高どれくらい?なんだろう?
下界には、森林地帯そして起伏のある山並みなどが見渡せる景色の良い場所だ。
どうせならと、滝つぼに下りた。
水も、<収納>に回収できることは分かっている。どういう仕組みかは知らないが、やってみたら出来たので、大丈夫なんだろう。
手ですくって少し飲んでみたが、普通の水だ。気分が悪くなることもなし、飲める水だね。
革袋の口を水面に近づけると、どんどん水が袋に吸い込まれている。
適当なところで止めておいた。
水場は分かったから、また取りにくれば良いし。
革袋に手をあてて中身を確認。収納空間の1/5くらいが水となっていた。このくらいあれば、体を洗うのにも使えそうだよ!
良いかな? 良いよな!?
滝つぼの淵から静かに水に浸かって、半ズボンと体を洗ってみた。
良いよね? 誰も見てないし・・・
水から上がって、あとは自然乾燥だな。ここは少し肌寒い感じだけど、どうってことはない。風魔法で風を体にまとわりつかせてみた、寒さが増したが何もしないよりは早く乾くだろ?
そうだ、一応お礼を言っておこう。
「滝つぼで水を使いました。ありがとうございました、助かりました」
誰にということはないが、こういう神聖?な場所には神が宿ってるかもしれないよな・・・
そうそう、さきほど水の確認をした時に、革袋の中身に知らない空間が出来ていたんだよな、あれは?
再確認してみれば・・・驚いた!
*革袋の中の特別な空間
生前、じゃない、前の世界で僕が身に着けていた服装、靴、鞄、スマホが入ってる。それに僕のアパートにあった着替えの服やスニーカーやサンダルまで入ってるよ!?
これは? まさか?誰か様がこんなことまでしてくれたの? でも、そんなことできるってあの方しかしないだろうし・・・透明部屋の仕掛けをした方だよね。
きっと、すべての記憶などを消すときに邪魔になったものを消すなんて簡単だろうに、処分するかわりにとっておいてくれたのかな? なら、ありがたい!
とりあえず、Tシャツを着てみた。なんとなくね・・・上着も欲しかったから。
裸足だけど、これは慣れたし痛くも痒くもない。足元はこれで良いや!
なんとなくだけど、僕の素足って・・・こんなにごつくて逞しかったかな?~
ここは、水もあるし、空気もなんとなく清々しくて気持ちがいい場所。
食料はとりあえず革袋に入ってる。
しばらくここを拠点にしよう!
ここの滝つぼから上、頂上まで岩山で岩がむき出し状態だ。登ってみるか! 頂上まで飛んでいくのは簡単だけど、ここは・・・自力で! どうせ他にすることないし。登山気分で。
それにもし上に誰かいたら? いきなり上空から行ったら空襲だ!~攻撃される!って思われるのもいやだし・・・
自力でって言ったものの、ほぼ30mくらいの高さの岸壁。二足歩行で足だけで登れるような地形ではなかったよ、両手両足をまんべんなく動かしていないと・・・ズズズ・・・ってずり落ちる。急斜面だった。
<身体強化>、<剛腕、剛力>をかけて少しずつ岩の角を掴んでずり上がっている。
あと、2回くらい手を延ばせば頂上にたどりつける。終点を目の前にして休憩だ。足を踏ん張って体を固定させて・・・一息ついて水を飲んだ。
なぜか、力が湧いてきたぞ!~
見えた! 頂上。
平らな場所になってる、8畳間くらいか? そして真ん中に窪み?
あれ?これって、火山のカルデラっぽい?
でも、暑くないし溶岩の気配もガスも感じない。
*
ふふふ、予想通り面白いわね、あの人間、ミチナガ君。
ゴミも捨ててしまわなくて良かったわ・・・忘れてただけだけどね。あんなに喜んでくれるんだし。ゴミも使いよう!ってことね。
それにしても、オーク村では頑張ったわね、良い経験になったでしょう!
あの山の頂上には、確か・・・ああ、あの子の気配があるわね。
ミチナガは、もうあの子に会うのね。まあ、出会いを生かすのも上手いから大丈夫よね、きっと・・・
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