第3話 オーク村で 

オークたちの村で、ツヨシさんの家に寝る場所を得て、早一か月。

ここでの暮らしにもだいぶ慣れた。 


まず、ツヨシさんはこの村の村長の息子ということだった。おかげで僕の存在もそれほどの違和感もなく受け入れてもらえた。なにより、僕が彼らの言葉を自由に話せることが良かった。これは、加護のセイだろうし、神様に感謝というところ。

この村には総勢36名のオークたちが暮らしている。


食べ物は主に、森の中で採ってくる植物の実、根っこ、葉っぱ・・・で、味付けなんてほとんど無し。少し味のある葉っぱは貴重。

これ僕に食べられるのか? なんて最初は思ったが、難なく食べられた。これも加護のお陰か?

でも、根っこや葉っぱよりはやはり木の実や草の実の方がありがたい。とくに果実が良い!


ここは地理的にはどうだろう、熱帯地方かな? ときおりスコールが降る。

その時には、村人全員で腰巻を取ってのシャワーの時間になる。

そうそう、オークの女性たちも腰巻だけだった。

全体がふくよかで、人間のようにおっぱいだけが大きすぎる女性もいないし、揺れて邪魔になるようなこともないみたいだ。

そういえば、最初に子供たちに会ったときも、女子も混ざっていたんだが、腰巻だけだったな。


自主的に村の中を回って、具合の良くない者が居れば、彼らに魔法を使っている。まあ、出張回復士ってところ。お陰でいろいろスキルを得られたし、既に持っているスキルが上書きされて強化されていることもあった。


時々、狩りに出かけていた男たちが戻ってくるときなど、結構けがをしてるのが多い。

主に他種族との争いでそうなるのだと・・・主に、ゴブリンや魔狼が好戦的なんだって・・・

だから、僕も忙しくなるのだが、最近は、けが人みんなをまとめて回復するということができるようになった。一発で全員に回復魔法をかけられるので楽ちんだ。

僕のレベルは確認してないが・・・見てもよく分からないので放置! きっと、数字は上がってきてるんだろうな。大きな魔法を使い続けても、魔力切れを起こすことは無くなった。


時々、僕もごつい体の男たちに付いて森に入るのだが、<剛力>、<剛腕>のスキルが素晴らしい。このスキルはかなり上書きされている。他のオークたちにも一歩も引けを取らない。僕が先頭で進むこともある。


他種族で我々にちょっかいを出してくるのは、やはりゴブリンや魔狼が多い。

更に山の奥にはオーガなんてのがいるようだが、幸い、彼らは自分たちの縄張りを出てまでこちらに山を降りてくる種族ではないらしい。彼らはオークよりさらに力が強いという。


僕の秘密のスキルのことはツヨシさんしか知らないが、それでもツヨシさんが他のメンバーをいちいち紹介してくれるので、手を握ったりする機会が多く、かなりな種類のスキルを得られている。


剛腕、剛力、索敵、気配察知、隠密、棒術、投擲、跳躍、穴掘り、掘削、鍛冶・・・


鍛冶は、鍋を作ったり、森を切り開いたり薪の燃料を作るのに役立つ斧や鉞などを作れるスキル。

素材となる鉄鉱石を掘り出して製鉄することも可能で、<索敵>を駆使して森の中で鉄鉱石をみつければそれこそ、全員で掘削して鉱石を掘り出す。これがまた楽しい。

非力な人間とは違うオークの力で鉄鉱石を掘り出したり、運んだりするのが・・・こんなに面白くて楽しいことだったんだ!と少し感激している。

山に近いところまで行けば、金鉱石やミスリル銀なども得られるようだが、オーガの縄張りにも近くなるので、めったには行かないらしい。

基本は、争わないということか・・・


そうそう、ゴブリンは食べないらしいが、魔狼は食べる。それに毛皮を利用する。

でも、僕は・・・魔狼は硬くて駄目だった。味は、まあ生臭い肉の味。やっぱり果物が良い。

でも、ヤマドリみたいな、僕の知ってる日本の山鳥の2倍くらいの大きさの雉みたいなやつはおいしかった。魔鳥って言ってた。

カエル、蛇は気分的に駄目だし、せせらぎで獲れる川エビやカニなども僕は遠慮しておいた。

「なんだよミチナガ、エビ、カニは良い味が出るんだぜ?」

「ああ、知ってる、でも僕の体に合わないんだよ・・・きっと」

でも、今は神の加護ももらってるし、昔のアレルギー体質はもう関係ないのかもしれないな・・・いつか少し挑戦してみるか。


ツヨシさんの親父さんの村長が魔法鞄を持っているというので、頼み込んで見せてもらった。もちろん、手で触らせてもらったよ。複雑な魔法構造で出来ているようだが、全体の魔法の仕組みは複製できた、と思う。


*魔法鞄の魔法を複製 


この鞄は、以前、ゴブリンたちに攻め込まれてきたときに、反撃して退けて、ゴブリンたちの村まで攻め込んでゴブリンボスの小屋から奪い盗ってきたものらしい。

奴らも、きっと大昔に人間から奪ったものだよ、って言ってた。

人間も襲われる対象なんだな。


それで、このところ、魔法鞄から複製した魔法をいろいろ組み合わせたり試している。


なんとなく・・・それとなく収納空間を作ることに成功した。

収納空間はどこにでも作れるけど、違和感が無いように、魔狼の革で作った革袋の中に仕込んだ。

革袋の口元まで対象物を持っていけば、革袋に吸い込まれるように入っていく。

あとで、革袋に手を触れてみれば中身の具合がわかる。


*魔法袋(革袋)容量・中、時間停止


この前も、森へ果物狩りに出かけて、片っ端から収穫しては革袋に詰め込んで帰ってきた。

かなりな量だ。すべて袋に収まっている、しかも袋の重さは変わっていない。

そうだよ! 袋自体ではなく袋の中に仕組んだ収納空間に入っているのだから。

手を触れて中身を確認してみる。


バナナ 大きい房が6房、マンゴー30個、パイン20個、スイカウリ30個、ヤマドリ4羽という収穫だった。


毎日少しずつ出しては食べているのだが、あれから1か月、まだ袋の中には在庫があるし、なんといっても驚いたことは、中に入っている果物などが腐っていない!ということ。

これは良い。生物<ナマモノ>を入れておいても腐らない。冷蔵庫より優れモノだよ! 


使っている魔法は、<空間魔法>で異空間を作って、その空間に<時間魔法>で時間停止を設定しただけ。空間魔法で異空間を作るときには空間の大きさを設定できるが、これは最初ということもあって、大きさを「中」にしておいた。かなりな量まで収容可能で、まだまだたっぷり詰め込めるみたいだ。

設定は、「大、中、小」から選べる、ただし大きな空間を作るにはそれなりに大きな魔力とレベルの高さが必要らしい。



しばらく経った朝のこと、村中が大騒ぎしている。

「良いか! 女、子供は家の中に潜んでいろ、絶対に外に出るな!それは村長命令だ・・・」

一体、どうしたんだろう。


「ツヨシさん、何かあったのか?」

「ああ、ミチナガ、実はな・・・」


昨夜、村の見張りをしていた者が、上空にワイバーンの気配を見たらしい。

そろそろ奴らが来るころだとは思っていた・・・という。

つまりは、年に2回ほどワイバーンの襲撃があるらしいのだ。

昔、ツヨシさんの母も連れ去られたらしい。カレンの友達だった子供も。

因縁の相手だね。オークたちの捕食者ってことか。


昨日の今日だからな、今朝から厳戒態勢だよ。

「僕も手伝いますよ! いいですね!」

「ああ、助かるが・・・ミチナガは・・・無理しないでくれよ?」

「ははは、僕だって、こちらで随分お世話になっていますよ、そんなの手伝うに決まってるでしょ!?」

「すまん・・・」


それから1時間くらいして、空から大きな気配が2つ近づいてくる。

来たな・・・

「ツヨシさん、2頭来ますよ!」

「ああ、ミチナガ、あんたもうすごく強くなったな・・・もう?分かるのか?」

「そんなぁ~ すべてツヨシさんやこの村のみんなのお陰ですよ、ここは僕に任せてください・・・僕が合図をしたら応援をお願いします」

「良いのか?」

「大丈夫、策があります。2頭くらいならなんとかできるでしょう!」


村の外から少し離れたところで、魔狼の肉の塊を火にかけている。

こんなものでおびき寄せようという考えだけど・・・ははは、来たよ! おびき寄せ成功! こっちに向かって高度を下げてきてる! 単純! よほど飢えているのか。


魔法の革袋には予め多めに投擲用の石ころを用意してある。牽制くらいはできるだろ?

でも、僕の前の世界での物語知識ではワイバーン肉は旨いし革も上質、という情報もあるから、できるだけ傷はつけたくない・・・

なんて思いを巡らせていたら、ワイバーンたちが、ある程度高度を下げたあたりで僕と焼ける魔狼の肉をにらみつけている。ときどき羽をばたつかせてこちらに風の攻撃を仕掛けてくる。

なかなかにうっとうしい相手だ。とにかくあの距離では石ころの投擲も届かないし・・・


一つやってみるかな? まだやったことないけど。

身体強化をかけて、思いっ切りジャンプ! 

はははは~~奴らの顔の真ん前まで上がれた! <剛力><剛腕>をまとわせて顔面パンチを一発。

一頭目に攻撃を加えることができた。


でも・・・落ちる・・・・


落ちる僕をめがけてもう一頭が近づいてきた。やったね!

おかしな体勢からだけど問題無し、<投擲>で石ころを投げる、2発続けて。

奴の目を狙ったが一発はかわされた。しかしダメージはあるよな。すごい勢いで落下してくる。

僕の隣に来たあたりで、試しに<瞬歩>!してみたら、寄れた! 奴の首に腕を回して<剛腕・剛力>で締め上げ曲げる。<ボキッ> 折れたようだな、よし、一丁上がり!

でもこれどうするよ、またこのまま地面に刺さるのか?

そうだ! <重力魔法>だ! 魔法鞄の魔法を複製したときに確かそんなのがあった。

僕とワイバーンもろとも、<重力軽減>!


間に合った! <ドスン>とはなったが、僕はほぼ衝撃なく地面に落ちることが出来た。

それを見ていたもう一頭、さっきパンチを浴びせた奴が急降下して僕に向かってくる・・・

今度はそいつを狙って<重力加重!>

ははは、更に勢いを増して急降下してくる。もう目をまわしてるんじゃないか? それ・・お前では飛行制御ができてないだろ?


<ドスン! ボキボキ!>


ははは、終わりだ! ふぅ~~~ 

ワイバーン2頭、仕留めました!~



<ドドドド~~~>


「ミチナガ! 無事か?」

「ああ、なんとか仕留めた」

「あんた本当に人間なのか? 凄いな!見てたよ、何だよアレ、人間の技じゃあないだろ? 」

「いや、僕は人間だよ、でもみんなのスキルが僕を強くしてくれてるんだ! ありがとう」


とりあえず、これを村まで運ばなきゃ・・・

「ツヨシさん、僕が運びますよ」

「ああ、頼む、・・・がどうやって?」

「ええ、大丈夫です」

まあ、ワイバーンの死体に触れて、革袋の口に寄せる。

スーっと吸い込まれるように収納できた。


「ははは・・・何だソレ、魔法の袋かぁ~、それ、どうしたんだ?」

「ええ、この前、村長に鞄を見せてもらいましたよね。魔法鞄の魔法を使って試しに作ってみたものですよ」

「はへ~~ もう何も言うこともないぜ! さあ、帰ろう!ミチナガよ!」

「おう!」

「「おお・・おおう!~~」」

「みんなにも心配かけたな、ごめん。でも、やってみたいことがあったんだよ・・・」



そう、ワイバーンに手を触れることが出来た・・・

ワイバーンとちゃんと戦ったセイかレベルが一気にあがって、480にまで、そして獲得スキルは・・・


・レベル480

・獲得スキル:飛行、風、重力、威圧 


<飛行>スキルを手に入れた。


検証は後にしよう。



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