第2話 別世界へ 

普通は、あの透明部屋の中で意識を保つことは想定していなかったようだ。だから、洋子さんのような状況は正しいのだが、僕が意識を保っていたことが、特別で不思議で面白いことらしく、更に僕への遊び心が高まったってブツブツ漏らしてたのを聞いてしまった・・・

もう、なんとでもなれや! 

どこか知らないけど、行けば分かる。そこで自分なりに楽しめれば良いんだろ!?


そう、思った途端に、透明空間の境界が消えて、真っ白い煙? 否、冷たい霧の中に放り出されて・・・自然落下している。重力がかかっているのがわかるが、なんかゆっくり落下してないか? ま、景色はずっと真っ白だから感覚がおかしくなってる。でも意識を手放すことはしない! 見届けなければ! あははは~~不思議な感覚で面白くなってきた。


どのくらい経っただろう・・・まだ地上には着きそうもない。

暇なので、くれたという<回復>スキルとやらは?って思ったら、一瞬で内容と使い方が分かった。けど、これ・・・僕が本当に使えるの?

そういえば、洋子さんにも<回復>スキルを与えて人間の街へ、とか言っていたけど・・

彼女なら、ソウだろうな、他人を癒すことが自然に現れていたし。でも、僕は?

ちゃんと出来てたプログラムをまともに使えない人間に使いやすくするだけのためにパッチを当てまくっていただけだろ! そういPC音痴な人はどこにでもいるからな。

・・・まあ、そういうことはいろいろ考えても分からん! 誰か知らないが、見えない手がそうしているんだろうから・・・気にしないほうが『気が楽』というものだ。


そうこうしているうちに周りの空気が暖かくなってきた。透明度も良くなってきて、真下は・・・やはり森で、地面だ! これ、このまま落ち続けて僕は生きていられるのか?


せめて、頭からの落下はしたくないな・・・両足から落下ということですか! 体制を整えようとしたら、自然に足が下になった。でもこのままじゃ、脚は砕けるんだろうな・・・


不思議と衝撃は来なかったが・・・脚が<ズズズズ・・・>って地面にめり込んでいる。

どうやら、腿まで80cmくらいは埋まってしまったようで、抜け出すのは簡単そうではない。

それより、改めて今の僕の格好に気が付いたが・・・神様!~~、じゃ無かったっけ? ま、誰でも良いが、なんとかならなかったのかよ~ 僕は上半身裸、下半身には半ズボンだけ、もちろん裸足。感覚的に土の感触が直接伝わってくる。

そんな裸足でよく地面に突き刺さったものだよ・・・しかも足先の感覚もあるから砕けてはいないようだ。丈夫に出来てるのか?・・・


まあ良い。


そして目の前では、豚顔の魔物?背丈は1mくらいのまだ子供みたいなのが、大きな犬ではないな、あの顔は狼、3mくらいの大きな狼に襲われている。

その周りには、子豚たちが4人で、松明に火をともして狼を遠ざけようと頑張ってる・・・光景。


でも、真ん中で狼に対峙していた子豚が腕に噛みつかれて、そのまま空中を振り回されている。あれでは腕をもぎ取られてしまうだろ!~


とっさにその大きな狼に手をかざして<催眠!>って叫んでいた。

これ、<回復スキル>の中にあったもので、眠らせたりする鎮静剤のようなものだが、使い方次第では相手を無力化することもできる、ってことだった。

効いたのか? 効いてないのか・・・・

狼が噛んでいた子豚を落として、目をトロンとさせて、足を引きずりながら森の中に逃げ帰るようだ。


「※X〇!!!」


周りの子豚たちから何かわからないが、きっと歓声が上がってる?

それで、こんどは動けずに困っている僕のほうへ松明の火を向けてきた。

止めろ! いま、助けてやったのが裏目に出るのか~~

違った。

僕の近くまで来て、松明を地面に置いたままで、地面に頭をつけている。うん? お辞儀?みたいだが・・・

「※X〇・・・・」


まあ、それよりも、地面に落ちてきて動かずに、腕から血を流してるあの子豚をなんとかしなければ!

<回復!><治癒!>

離れたところからだったけど、手を向けて<回復>をかけてあげた。

みるみる間に傷口がふさがってきた。そして血で汚れた腕もきれいになってきた、腕もちゃんと繋がってるよな・・・・


あれ?駄目だ、眩暈? 僕もクラクラ、フラフラしてきた・・・・



「※X〇・・・※X〇・・・」


うん? なんだ? 

あれ? 僕は・・・今、どこかの小屋の中で筵のようなものに寝かされている?

周りには、ああ! さきほどの子豚たちか! なにやら心配そうな顔で僕を覗き込んでいる。


「ああ、ごめん、気を失ってしまったようだ」

「※X〇???」


そうか!どうやら言葉が通じないらしい、どうしたものか・・・

そうだ、両手を合わせて、なんとか首を縦に振ってみよう。

「ありがとう、僕を助けてくれて・・・感謝するよ!」


「※X〇!!」

うん、なんとか気持ちは伝わったのか、一人の子豚ちゃんが僕の合わせた両手を自分の手で包み込んできた。あれ? 豚ちゃんなのに肉球が付いてる? ああ~~生暖かい体温を感じる、僕は生きているんだ!


「ありがとう」

「わぁ!私たちの言葉が分かるの?」


あれ? なんか普通に聞き取れるし、なんか彼らと同じように話せる・・・


「いや、先ほどまでは全くわからなかったんだけど、今は、分かる・・・

ありがとう、僕を地面から掘り出してくれたんだね、助かった」

「ぶひゃひゃひゃひゃ・・・だって、助けてくれたのはお兄さんだよね、狼を遠ざけてくれて、私の腕まできれいに治してくれたでしょ!」

「ああ、そうだったか・・・君はあの時の?」

「はい! もうほとんど腕がちぎれてしまうところでしたの・・・それが、きれいに繋がって・・・お兄さんは魔法使い?」

「いや、そうかもしれないが、まだほとんど使えていないんだ・・・」

「そうか~ だから、魔法を使ったあとに気を失ってしまったの?」

「うん? どういうこと?」

「あのね、私たちもそうだけど、初めのうちはね・・・」


どうやら、初心者や、まだ魔法を使い続けるレベルに達していない場合には、魔力切れを起こして気を失ってしまうことがよくあるそうだ。要は経験不足!ってやつだな。

確かに! 天?から落ちてきて、いきなり身体損傷部の<回復>なんていうものを使ったものだから、それだけで僕の魔力が尽きたってことか・・・

それを改善する方法は、毎日ちゃんと魔法を使い続けて魔力切れ寸前まで使い続けていれば、魔力の器が大きくなってくるから、魔力切れを起こしにくくなるんだって・・

それ以上に、体を鍛えたり、強い魔物を倒したりして強くなることでもレベルは上がるものらしい。つまり、魔力量を増やして、そのというものを上げていけばいい・・・と。


・・・そうか~なんだな。


それにしても、言葉がよくわかるようになった。

これは? 何故だろう・・・

「お兄さん? 自分のレベルっていくつ? 言わなくてもいいけど知ってる?」

「うん? それって?」

「もう~~ 誰からも教えてもらってないの? 自分に、『自分のレベルは?』って問いかけるの!」


えっ? それだけ?


僕の今のレベルは?


・レベル200

・スキル:回復、※、※、※、※・・・

・獲得スキル:火炎魔法、瞬歩、


見えた・・・

「レベル200だって・・・」

「もう~・・・言わなくても良いって言ったでしょ? そういうのは秘密にしておかなきゃ、敵にばれたらまずいでしょ?」

「ああ、そういうことか~ そうだね・・・」

「でもさぁ~ 200って、そうか~納得だね、それなら大きな魔狼も逃げだすよね~」

「そうなんだ~」

「そうそう、ふつうの魔狼ならレベル150くらいだから・・・それに・・・お兄さんって人間?」

「ああ、そうだよ」

「人間が私たちオークの言葉を理解して話せるのなんて初めて! でも、オークの村には怖い村長とかいるから、早くここを立ち去ったほうが良いよ?」

「でも、僕は敵対はしないけど?」

「駄目! この世界では種族が違えば争いになるんだから~」

「そうか~ わかった。それにいろいろありがとう、いろんなことが分かったよ」

「うん、別に?」

・・・・


「ははは、客人というのはあんたか? 話は聞かせてもらった」

「あっ! おとうさん!」

「ああ、・・・大丈夫だ、娘の命の恩人なのだろ? 争いは控えよう・・・」

「あっ! はい、この子のお父さんですか? いえ、・・・たまたま現れたら大きな魔狼に襲われていたのを発見して・・・自分のできることをしただけです。他意はありません。」

「ほう? 大したものだ・・・どこで我らの言葉を?」

「はい、つい先ほど、お嬢さんの手に触れたときからです。」

「そうか・・・それにあんた、天から落ちてきたそうじゃないか、しかもつぶれないで、そのまま地面に刺さっていたと?」

「ええ・・・」

「あんた・・・ただの人間ではないな!?」


「僕も自分でも分からないのです・・・

ところで、僕以外にもこの世界には人間はいるのでしょうか?」

「ああ、いるよ。ここからだと、はるか北の方。高山地帯を3つか4つ越したあたりに小さな町を作っているらしい。

「そうですか・・・遠いですね・・・」

「ああ、はるか向こうの世界だよ!」


「ところで、お嬢さんはスキルとして、火炎魔法とか瞬歩というものを持っていませんか?」

「うぬぬぬぬ・・・何だと! 何故?それを知っとるのだ?」

「いえ、先ほど、お嬢さんに僕の手を握ってもらったときに・・・何かそういう感じがしたもので・・・」

「ほう? それがあんたのスキルだというのか? 人間は不思議な生き物だな。

よし、では今度は俺の手に触れてみるがいい。大丈夫だ、危害は加えない」

「はい、では失礼して・・・」

親父さんのごつい手に触れたとたんに、ド~ンと何かが僕の体の中に入ってきたような・・・頭もくらくらする・・・


「お兄さん! 大丈夫? 」

「おい、あんた! どうした! 俺は何もしていないぞ」


落ち着いた。

その前よりも頭が冴えている感じ・・・まさか? これって・・・


自分のレベルを確認してみた。


*藤田道長 ミチナガ 26歳

・異世界人

・加護:魔神の加護、転生神の加護(身体強化、全言語理解、状態異常無効、・・・・)

・レベル300

・スキル:回復、複製(スキル・魔法、※)、※、※、※・・・

・獲得スキル:火炎魔法、瞬歩、

・獲得スキル:威圧、剛腕、剛力、


<複製>かぁ~、どうやら当たりスキルだったようだ。

僕が手を触れた相手のスキルや魔法を複製し、それにつれてレベルの上昇までできてる!


「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

親父さんの耳元で小声で、

「親父さんの剛腕、剛力のスキルを得られたようです」


「何だって!? あはははは~~~ すごいな人間! 人間なら名前があるのだろ?」

「はい、僕は、ミチナガです」

「ほう? ミチナガかぁ~ 最初は発音がむずかしいが、まあ、慣れるだろう。

ミチナガ、あんた気に入ったよ、しばらく我らの村に招待しよう。どうせ行くところなど決まっていないのだろ? ああ、心配するな・・・ミチナガに喧嘩を売る奴はいないよ。俺が守ってやるし、ミチナガももう既に強者だろ?」


オークには個別の名前はないそうだ。

でも、僕が呼びやすいように勝手につけさせてもらった。もちろん了承してくれた。


*親父さんはツヨシ、娘さんはカレン。




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2024年11月30日 07:00
2024年12月1日 07:00
2024年12月2日 07:00

魔物の世界にある人間の街 たかみつ @itmto648

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