俺の恋愛黙示録

コオロギひかる

プロローグ

 俺は中学生だ。どこにでもいる中学三年生だ。名前を杉崎蓮すぎさきれんという。


 そして、俺には兄がいる。兄というやつは本当に碌でもない。だが、兄は、なんというかモテる。いや、モテるというより、いつも女の子をとっかえひっかえしている人だ。ムカつく。


 兄の名前は竜二。ムカつく名前だ。クソ大学生め。


 そんな兄は、狩猟をしている。狩猟をしているので、有名な登山家よりも体力がある。夜に山で獲った肉を焼いてくれる。


 結構ワイルドなやつで、

「夕飯はいらん」

 そう言って、ライフルを持って朝外に出る。



対して俺はというと……かわいいと女の子に言われるタイプだよ。うらやましいでしょ。


 ぶっちゃけ俺は、兄よりもかっこいい。


 テストでいい点をとってるしね、授業とか簡単過ぎてさあ。島崎藤村の文学全集を授業中に広げているよ。しかも俺ってば、円周率を求められている桁以上を知っているしね。そこそこ運動もできるし。


  ――俺の武勇伝は、まだ、これからなのさ――


 波に乗っている俺

 どこまでもいける俺

 かっこいい。


 どうやら、自分に酔いすぎて、のぼせてしまったらしい。


 気を取り直してと。

 「また、風呂に入るの、蓮?」

「少し、考えたい!」


 そう、俺は、考える人の物まねをしていた。


そんな、俺には、気になっている人がいる。そう、彼女だ。俺の将来の。なんてね。ともかく、俺には幼馴染の高校生のお姉さんがいる。そう、そのお姉さんの名前は高峰凛たかみね りん。ものすごく美人だ。


 ロング髪で、THE大人といった雰囲気を醸し出している。どこぞの高級ホテルでしかお目にかかれない美女である。きっと、カッコいいやつと一緒に歩いているだろう。

 なんで、あいつが浮かぶんだ。竜二兄さんが。


 ともかく、俺は凛さんが好きだ。大好きだ。


「蓮、大丈夫?」


 また、のぼせてしまったらしい。


 寝るか。家族は、もうとっくに寝ている。


 俺は寝る前に英単語を覚えるのが日課だ。口で何度も反復をする。覚えられますようにと願いを込めて。そして、俺は思った。

 「英単語を覚えられる俺、かっけーー」

 英語が話せたら、トム・クルーズとか、レディー・ガガとか、テイラー・スウィフトとか、シュワちゃんとか、いろいろな人と話せるかもしれない。英語が話せれば、基本、なんとかなりそうだし。

 そして、俺は単語を覚えたあと、本を読んで寝ることにした。最近、本を読んでなかったし、誰にしようかな。そう本棚を漁る。これだ。星の王子さまを広げていると、いつの間にか朝になっていた。



 朝は、良い。朝に鳴く鳥。朝独特の気温。そして、コーヒーを淹れる。そして、俺は散歩をするのだ。散歩って、いい。人は歩ければ健康だよ。決まった。かっこいいぜ。


 「あら、蓮君!」

 あ、高峰さんのお母さんではないか。仲良くしておかなくては。

「お、おはようございます」

「今日もランニング! 偉いね」

 そう、俺は偉いのだ。

「あ、ありがとうございます」

 最近、ランニングも習慣に取り入れるようになった。


 走って疲れてしまったので歩いていると、俺は見た。美少女を。高峰凛を。凛々しくてかっこよくて、そんな彼女を。この世界はキラキラしている。それは、凛さんがいるからだ。黒いセーラ服を着ている。でも、そこは、明るかった。

 朝起きは三文の徳とはうまくいったものだ。


 高峰凛。17歳。高校二年生。この学区で行ける最高の進学校に在籍している。ちなみに、兄さんも同じところだった。

 凜さんは、すごい。自分の行きたい進路をもう見つけたんだそうだ。進路は俺には教えてくれなかったけど。


「れーん君!」

「お、おはようございます、凜さん!」

「お兄さん、もう出かけちゃった?」

「はっはい、もう出かけていきましたよ。」


 凛さんは、そう言うと、ニコっとした顔で、「頑張っているんだね」と、俺に話しかけてくれた。俺が頑張っている! マジで。嬉しいぜ。

「そ、そうですよね。嬉しいです。」

 凜さんは、なんて優しいんだ。俺は幸せな気持ちになった。どこまでも突き抜けていけそうだ。地球の果てまでなら、いくらでもいけると思う。それほどまでに嬉しかった。

 凛さんは、俺には輝いて見えた。

 

 俺は、そのあと、家に帰って、母親の作った飯を食らった。生きていると感じるのはご飯を食べているときなのかもしれない。


 そう、このお話は、大好きな凛さんと俺とのお話だ。

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