第19話 新たな出会い
帆乃香が全校集会にてダンス部員募集の告知をすることとなり、部活動に関しては落ち着いたように見えた。が、
「ゆーーーぅ!」
淡金色の髪の毛を靡かせながら一人の美少女が駆け寄ってくる。
「副会長さんに許可もらってチラシを校内の掲示板に貼ってきたー!」
あまりにも整った顔、細身ながら年齢以上に女性らしさもあるスタイル、淡金色の髪の毛。これらから一見するとギャルのように見える帆乃香だが、優樹に駆け寄る姿はまるで尻尾を振る犬のようだ。
「全校集会までにメンバーが集まると良いね」
「うん!やっぱり折角みんなの時間を貰うなら、“これから作りたいですー”より“作ったからよろしくねー”の方が良いよね!ダンス部に入るハードルもその方が低いし」
帆乃香は全校集会での部員勧誘の話を聞き“そこで集まめよう”ではなく“そこまでに形にしよう”と決意を新たにしたようだ。
確かに、自分の決断で部活が設立されるかどうかがかかっていると言われるより、出来たから少しでも興味あったらどうぞ、の方が与えるプレッシャーも違い、優しいなと優樹は改めて帆乃香の気配りに感心する。
「確かゆうは今日、バイトの面接だっけ?」
「そうだよ。人と接することに慣れておきたくて。緊張でどうかなりそうだよ」
「あはは。ゆうは大人数だと遠慮しちゃうだけだから全然大丈夫だよー!口調も柔らかいし落ち着いてるから絶対受かるよ!」
優樹は「ありがとう」と答え、その場を後にする。こんなに自身の手足が意識しないと動かないことはなかったという程に緊張していた。
その中でも、“緊張が身体のパフォーマンスを下げる”、“意識下で行なっている動作を無意識で行えるようにする難しさ”を実感し、トレーナー業に活かそうとする辺りは流石である。
————…………————…………————
さて、優樹は一軒の純喫茶の前にいる。緊張をほぐすように大きく深呼吸をし、内関と呼ばれるツボを押してみる。
ようやく建物を見る余裕が出てきた。駅前の繁華街とは少し離れた一世代前のメインストリート。新たに出来た大きな道路沿いのチェーン店の影響か、飲食店は軒並みシャッターが閉まっている。
その中で古さを“敢えての味”としているキレイに掃除の行き届いた外観、ノスタルジックな雰囲気もある喫茶店『文』
30分も前に行ってはかえって失礼だと、喫茶店が見える位置で時間を潰す際も数人の客の出入りがあり人気店であることが伺える。
チェーン店でのアルバイトよりも、こうした個人経営店の方が求めている“人との関わり”の経験が詰めると考えて応募した。
しかし、もっと学生の多い所へ応募した方が良かったのかと直前になり迷いも生じる。
(って、同年代がいたところで僕はぼっちだったじゃないか。和也くんやほのちゃん、るり姉が最近はいてくれるからずっと一人だったこと忘れてたな)
3人を思い出して更に落ち着いてきたところで“よしっ”と何度目かの気合を入れて喫茶店の扉を引き開ける。
「わっ、自動ドアだー」
扉を引いた優樹のすぐそばで、ほんわかとした声が聞こえる。
扉の取っ手を店内側から握る少女と目が合う。どうやら同じタイミングで扉を開けようとしていたようだ。
「えへへ、相性バッチリのタイミングでしたね。いらっしゃいませ」
気恥ずかしそうに言う少女は、ピンク色の髪の毛は頭の上でゆるくお団子になっており、お団子を入れると174cmある優樹と同程度の背丈があり、女性としては高い身長と言える。また、服の上からも凹凸がはっきりと分かり少女と言うよりも女性と言った方が良いだろう。
「あ、いえ、僕はお客ではなく、バイトの面接で……」
唐突に現れた美しい女性に目を奪われていた優樹は一拍遅れて答える。
「あー!お父さんの言ってた!来てくれてありがとう!これからよろしくねー!」
「まだ面接も受けてないので……無事受かった時はよろしくお願いします」
「君なら大丈夫な気がするよ!ちょっと待っててね!」
言うが早いか「お父さーん」と店内へ引き返していく。店外に行こうとしていた理由は大丈夫だったのかと心配しつつも、優先してくれた優しさに頬が緩む優樹だった。
(でも……あの女性って、うちの生徒会長だよな?)
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