第18話 ダンス部設立に向けて

 数日後、昼休みになるといつものように美少女が2人、優樹のクラスにやってきた。


 明るく社交性の高い帆乃香は何人かの女子とも気軽に会話を交わし、表情の乏しい瑠李も1学年上でありながらもマスコットのように女子に可愛がられる。

 相変わらず男子からは羨むような視線が刺さるが、義姉妹とともに過ごすと思えば、さして気にならなくなった。


 その昼休みの喧騒の中で、ブワッと女子の歓声が一段と大きく上がる。


 『カッコいいー』

 『弟の和也くんは少しやんちゃな感じのイケメンだけど、お兄さんは落ち着いた良さがあるよね』

 『今日は校門の挨拶がなかったから会えて幸せ』


 女子たちの声が上がると瑠李がぼそりと「伊達が来た」と呟く。

 何の用事があるかわからないが、和也の兄である生徒会副会長の橘花聖(ひじり)が来たようだ。


「兄貴、うちのクラスに何か用か?」


「やぁ和也じゃないか。今このクラスに広瀬帆乃香さんがいると聞いたものでね」


 聖は顔に爽やかな笑顔を湛えながら弟の和也への挨拶もそこそこに優樹たちの方へ向かってくる。



「やぁ、広瀬さん。ん?これはリュティさんもいたんですね。お二人ともこんにちは。ところで広瀬さん、来月のゴールデンウィーク明けの全校集会でダンスをしていただく件、如何ですか?」


「……こんにちは」

「や。伊達男」


「リュティさんは相変わらず表情があまり読めないですが、一応褒められたと捉えておきます」


 聖は2人を見て、更に笑顔を深めて挨拶を交わす。そこに優樹は見えていないようだった。


 帆乃香は優樹に目配せして、軽く頷くと聖の方に向き直し答える。その視線を追っていた聖が初めて優樹を視界に捉えた際に僅かに眼に力がこもる。それも一瞬の出来事であり、すぐに笑顔を貼り付ける。


「アタシだけ部活を作るのに全校集会で募集をしても良いんですか?」


「他の部活はすでに4月に部活動紹介をしていますからね。年度途中で部活動が作られること自体があまり例がないのですが、生徒のやりたいことを応援することが生徒会の役目ですから」


 聖は周りに聞こえる程度、声を大きくして言う。どこか芝居がかった演説のような口調だ。当然、話を聞いていた周囲のクラスメイトは一個人に寄り添う生徒会の姿に好感を抱いている様子である。


 実はこの提案、全校集会にてダンスを披露して部活動の参加者を募る、という企画自体は以前に優樹宅にてご飯を食べた日に帆乃香から聞かされていた。



———…………———…………



『アタシとしては有難いんだけどさ。部活にしたいって思いながらも、ゆうのおかげで雪ちゃんのサロンでダンスさせてもらえる場所は出来たし……特別扱いが申し訳ないって言うか……いきなり容姿だけを褒めてきた人の提案は受けにくいって言うか……』


『いや、それは乗っかるべきだよ。サロンでダンスするのは大歓迎だし、ほのちゃんの身体のメンテナンスはさせてもらうけど、ダンス自体の切磋琢磨はしてあげられないし。それに容姿だけを褒めるのは信用出来なくても、やってることは生徒会として生徒の希望を叶えるって真っ当なことだよ』


『……うーん、そうかなぁ』


『それに容姿を褒めるのは仕方ないよ。実際キレイだしさ』


『なっ!…………ゆうから見てもキレイ?』


『それはもちろん……踊ってるときの足関節の動きとか股関節の伸展角度とか、とにかくキレイだよ』


 途中で恥ずかしくなり単純な容姿ではなく変な箇所を褒める方にシフトチェンジしてしまった優樹であった。しかし、帆乃香自身も赤くなってしまい、そこにツッコミを入れることが出来なかった。



『ユウ。私が書いてるラノベみたい』


 ぽそりと瑠李はつぶやくのだった。



———…………———…………



「どうですか?広瀬さん」


 と言う声で現実に戻った帆乃香は再度優樹へ目配せを送ると今度は迷わずに頷くのだった。



「ぜひ、来月の全校集会で踊らせてください!」

 





———————————————

あとがき


体調不良が断続的に続き、お休みが多くて申し訳ありません。

極力、毎日投稿を心がけてゆきます。




 

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