第12話 義兄妹は昔を懐かしむ
「帆乃香さんが妹だとは思わなかったなぁ」
「妹なんだから“さん”じゃなくて良いよー。むかしは“ほのちゃんとおれはずっと一緒だ”って言ってたよ♪」
「え!そんなこと僕言ったの!僕って僕のこと僕って言ってなかったっけ」
にんまりと笑いながら小声で“ぼくぼくぼく”と僕の回数を数えている帆乃香をジト目で見つめる。
「えへへ、それはアタシがゆうに言われたかったセリフ」
「じゃあ言ってないじゃん」
「“ほのちゃん”はホントだよ」
優樹たちは場所をカフェに変えて昔話に花を咲かせる。と言っても優樹はそこまで覚えているわけではないので、度々こうして帆乃香にからかわれる。
映画も選択肢にあがったが優樹の「これ以上の情報は入ってこない」というのが決め手となりカフェでのおしゃべりとなった。
「アイドルになるためのダンスがバリバリのハウスだとは思わなかったよ」
「やってたら一番ハマったのがハウスだったんだよー。でも他のジャンルも色々やってるよー」
「おぉすごいね。本当に頑張ったんだねぇ」
「こうして会えたから始めたときの目標は達成しちゃったけどね」
「絶対その目標のために頑張ったわけじゃないでしょー。単純にダンスが好きだから努力したって感じだったよ」
「!」
ダンスに対する姿勢を認められて帆乃香は顔が赤くなるのを感じる。恥ずかしさを誤魔化すため、にまにまとした笑顔を作る。
「せいかーい!実はダンスは続けたけど、アイドルはなれなーいってもう諦めてた」
「好きだから続けてるって方が僕としては嬉しいよ。ほのちゃんの好きが見つかって良かった」
「!」
「……ほのちゃん……へへへ、ゆうにぃはホントに嬉しい言葉をいっぱいくれるね」
「さて、少し歩こうか」
「どこ行くの?」
「うーん、良いとこ……と思ってくれると良いな」
優樹たちはゆっくりと街を歩いていく。義理とはいえ兄妹と分かり、お互いに心理的な壁がなくなったように感じる。
帆乃香は何も意識せず、昔のように優樹の手を握る。優樹はびっくりして、思わず手を引っ込めてしまう。
「あ、ごめん。つい……」
「むむ、したらこうしてやる」
悪い笑顔になった帆乃香は優樹の腕に抱きつき、“むかしは良くこうしてたもんねー”と笑う。
(や、昔と全然違うって!いい匂いだし!とにかく柔らかいし!)
「ほっ帆乃香さん、ちょっと離れてくれません?」
「“さん”だと距離感じるなぁー。ゆうにぃの腕にもたれないとショックで歩けない」
「じゃじゃあ、ほのちゃん、ちょっと離れてくれません?」
「ゆうにぃとほのちゃんはこれがデフォだったっしょ」
結局離れることなく歩いていくと目的の場所についた。
「鍼灸サロンとまり木?」
「うん。ここは母さんがやってるサロンだよ」
慣れた手つきでロックを外して店内に入る。元々は小さな美容室だった場所を改装したサロンは一面に鏡をはったトレーニングエリアと奥には半個室になった施術エリアがある。
「ここなら思いきり踊れるよ」
「いいの?」
「さっき母さんには許可とってあるよ」
帆乃香は優樹に思いきり抱きつく。“ぐぇ”と優樹の口から漏れるほどの勢いだ。
「ありがとう、ゆうにぃ!」
「ただし、昨日の疲労もありそうだから今日は軽くお願いね」
「うん!」
その日はワンピースと言うこともあり、ゆったりと踊り、また次回サロンを使用する約束をして解散となった。
優樹は気づいていなかった。土曜日には瑠李と、日曜日には帆乃香と、2人の美少女と腕を組んで繁華街を歩くことが、どれだけ注目を浴びることなのかを。
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