第7話 再会
土曜日、優樹は駅前の繁華街を歩いていた。理由は明日に予定される帆乃香との“遊び”に着ていく服がないのだ。
平日は学校の制服、サロンでの手伝いはベージュのチノパンに紺色のポロシャツ、休みの日は家から出ないため、それしか服がない。
もちろんチノパンもポロシャツも気に入っている。サロンに来た患者に不快感を与えないためにしっかりと考えた結果の服だ。
(でも、せっかく“遊び”も都市伝説じゃないって分かったし良いタイミングだな)
と思いながらも足は駅前の大型書店へと向かっていく。
(まずはファッション誌を見てみよう!そんでせっかく角善書店に行くからトレーニング関連も見ちゃおう♪母さんが持ってない良い本に出会えるかも)
明らかに後者の予定の方が大きくなっている自分を戒めて歩を進める。
「〜〜〜!〜〜〜!」
「〜〜〜!〜〜!!」
大きな声が聞こえて見渡すと通りを挟んだ向かいの歩道に大声をあげる男2人を引き連れた少女が歩いている。仲良しの雰囲気ではなく、男たちは少女に詰め寄っている。
「だから約束が違ぇじゃん!」
「…………」
「無視すんなって!」
「コイツ、やっぱ日本語しゃべれないんじゃない?」
男たちがそう言うのも無理はない。少女は艶のあるホワイトブロンドの髪をし、顔は物語から飛び出てきたのかと思うほど整っており、日本人離れしていた。
「……私……話せる」
少女は鈴の鳴るような美しい声でぽそりと答える。
「やっぱ話せるじゃねぇか!」
「無視すんなって、おい!」
「…………」
「聞こえてんのも話せんのも分かってんだよ!」
しまった、と言うように少女は眉をひそめる。
「ちょっと何してんですか?」
優樹はようやく道路を渡れて騒がしい男たちに声をかける。
「あ?何だよテメェ!」
「僕はその人の……か……」
「か?」
「家族のものです」
「彼氏違うんかい!」
「とにかく母や父も待ってるんで姉さんを返してもらっていいです?」
「ずいぶん小さい姉さんだな。嘘の設定ならもっとマシな嘘つけよ」
「……私、小さくない」
「こんな時ばっか話すのやめてもらっていい?るり姉」
優樹の言葉にハッと目を見開いて、コクコクと頷く少女。
「嘘じゃないんですよ。あと、うちの父は気性も荒いのでお兄さん方にとっても良くないと思いますよ」
そう言いながら優樹は片方の男の手を取り、自分の二の腕や腹筋を触らせる。
「硬っ!」
「父はこんなもんじゃないんで、早く姉から離れた方がいいですよ」
そう言うと男たちは顔を見合わせて、その場を去っていく。
「こんな空気じゃ楽しめねぇから今日は引いたるわ!」
「次会ったら約束通りおれらと遊べよ!」
騒がしいけど、どことなく憎めない男たちが離れると優樹は少女に声をかける。
「どうしてこんなことになってるの、るり姉?」
るり姉と呼ばれた少女、Ryti瑠李(リュティるり)は優樹の義姉になるはずだったフィンランドと日本のハーフの少女だ。親同士が結婚を前提にお付き合いをし、1年間一緒に暮らしたこともあった。
艶のあるホワイトブロンドの髪の毛とその体と名が表すように未熟なすもものような黄緑色の瞳が特徴だ。
「ユウ、大きくなった」
「るり姉はイメージ通りだったからすぐ分かったよ!」
「3年ぶり。私も変わってる」
自分の胸に手を当てて、眉間に皺を寄せる。
「これから。ボンてなる」
「イメージ通りってそこのことじゃないから。変わらず綺麗で目立ってたからすぐ分かったよ」
「ユウ、お世辞言うようになった」
「お世話じゃないよ!ところでどうしてああなったの?」
瑠李は目を伏せながら話す。
「次会ったら遊ぶ、今日は諦めろって前断るとき言った」
「何でそんなこと言っちゃうの」
「いっぱい声かけられる。めんどくさくなった」
「そんな出来ない約束しちゃダメだよ」
「ユウは出来ない約束、しない?」
「うーん、なるべくはしないようにしてる」
そう優樹が答えると表情の乏しい瑠李の顔が輝く。
「じゃ、ユウは私と結婚する」
「は?何でそうなるのさ」
「一緒に住んでる時、約束した」
「あれは誰も貰ってくれる人いなかったらって話だったよね」
「誰も私を貰わないって今地球のみんなに聞いた」
「そんなすぐバレる嘘つかないでよ」
「嘘じゃない。テレパシーで聞いた」
「ついさっき、るり姉のこと欲してた男が2人ばかりいたよ!?」
「むー」
再び眉をひそめる瑠李。
「まぁいい。とにかく今日は一緒に遊びに行こう」
諦めた瑠李は今度は優樹が断らないと確信を持ちながら誘うのだった。
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