第8話 義姉と買い物
優樹たちはファストフード店に移動し、窓際のカウンター席に横並びに座っている。ハンバーガーをリスのように食べる瑠李からは「もきゅもきゅ」と効果音が聞こえてくるようで優樹は頬を緩める。
「ほら、慌てないでね」
「ん。」ズズーッ
優樹から受け取ったコーラを飲むと人心地が付いたのか瑠李は続ける。
「ありがと。ジャンクで至福」
「逃げないからゆっくり食べなって」
そう言われた瑠李は今度はポテトを手に取る。だが、それを自分の口ではなく優樹の口へと持っていく。
「ん。」
「ん?ポテトなら僕もあるよ」
「ん。」
「や、自分の食べるから良いよ。“あーん”は恥ずかしい」
「いち甘えした。だから甘えを返す」
瑠李は横に座る優樹の方をしっかり見て、口元にポテトを押し当てる。
「分かったよ。あむっ」
根負けした優樹がポテトを口に入れるとドヤ顔になる。
「姉には甘えるべき」
満足そうに視線を前方に戻し、ハンバーガーをもきゅもきゅと咀嚼し始める。
ファストフード店内は混んでおり、優樹たちの周囲は一様に瑠李に視線を向けていた。人目を集めるほど瑠李は整っていた。
(カウンター席で良かった!視線は痛いけど背中だからセーフ。明日の広瀬さんとの“遊び”でもこうしよ!)
「む。他の女のこと考えた」
「なんで分かるのさ」
「姉に分からないことはない」
ふんす、と音がしそうなドヤ顔をする瑠李に優樹は笑いながら、そうですね、と返事をして食事に戻る。
「そういえば、2コ聞きたいことがある」
「ん?何?」
「さっきユウの筋肉触った男が焦ってた。何で?」
さっそく姉にも分からないことあるじゃん!と心の中でツッコミを入れてから優樹は答える。
「あれはこっちも焦ってたよ。トレーナー見習いみたいなことしてるから、自分も鍛えておこうと思って。筋肉だけは付いてるんだ」
「でもパパみたいにムキムキで太くない」
「あはは。あそこまではなれないよ」
「じゃユウつよい?」
「全然。ケンカしたことないし。さっきの人達がもっと悪い人なら多分ボコボコになってたからラッキーだったよ」
笑いながら、お恥ずかしい、と続ける優樹だが、瑠李はボコボコになる可能性がありながら間に入ってくれたことが嬉しくなる。
「ユウ弱いのに助けてくれた。ありがと」
「あはは、弟なら当たり前だよ」
「あともう一コ聞きたい」
「何?」
「なんで髪の毛もじゃもじゃ?目が見えない」
そう言いながら、瑠李は丁寧にウェットティッシュで手指を拭いてから優樹のおでこに手を当てて髪の毛をかき上げる。
隠れていた優樹の切れ長の目を見て、初恋の人の好きだったパーツを見て、瑠李は息をのむ。
「目つきが悪いのと、人の動作分析をしちゃう癖があって、気味が悪がられるから隠してるんだよ」
「動作分析はユウが悪いかも。でも気味悪くない。目つきもとてもカッコいい」
「ありがとう。サロンの手伝いの時は髪の毛を上げてるんだけど、学校もその方が良いかな?」
「いや、やめた方がいい。もじゃもじゃも愛せる」
「そしたら手間もあるし、もじゃもじゃのままで行こうかな」
「それに、女が寄ってくる。避けたい」
と小声で付け加えるが、優樹には届かなかった。
「食べ終わった。ユウの買い物に行こ」
ハンバーガーを食べながら、なぜ繁華街にいたのかを聞かれたから服と本を買いに来たと伝えていた。
トレイを片付けて店内を出て服を買いに今度はファストファッションの店舗へと歩いていく。
ふわりと甘い匂いがしたと思うと瑠李が優樹の腕を抱くようにくっついていた。
凹凸が少ないスレンダーな体型とは言え、抱きつかれるとやはり柔らかい。
優樹は目を白黒させながら瑠李に聞く。
「るり姉、これは恥ずかしいし、ドキドキするよ」
「さっき、いちドキッしたから、いちドキッ返す」
ニヤリと笑いながらも瑠李は目的が達成した後も腕を離すことはなく、買い物の間中、優樹の腕にくっついていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます