第5話 広瀬帆乃香は気付く
「「ごちそうさまでした」」
声がそろう、それだけで優樹は照れてしまいそうになる。
今まではたまに和也と一緒に食べるくらいだったから仕方ない。人付き合いのレベルは低い。
チラリと前方を見ると、広瀬は丁寧に弁当箱をしまっていた。
ただの普通の動作だが、その同じ高校生とは思えない美しさに思わず息をのむ。クラスメイトの視線も変わらずに感じる。
「ただいま、優樹」
ふいにかけられた声にようやく自分も見つめてしまっていたことに気づく。
「おかえりなさい、和也くん。部活はどうだった?」
「これから試合が増えていくんだって。ここの監督は1年でも試合に試してくれるからチャンスあるかも」
「そっか!良かったね!怪我の再発は気をつけてね!」
「おう!あんがと!優樹と雪子さんがメンテナンスしてくれたんだ、怪我前より好調よ!」
「あはは、それは和也くんがしっかりトレーニングしてるからだよ」
会話が一区切りしたタイミングで和也は広瀬へと目を向ける。広瀬は宙を見つめており、何やらぶつぶつと言っている。
「……ゆうき?……すずき…………ゆうにぃ……?」
「珍しく優樹にお客さんかと思ったけど……大丈夫か?なんか気になることでもあった?」
「ん?あぁごめんなさい」
広瀬は顔を上げて、声をかけた和也ではなく優樹を見つめて続ける。
「ねぇ。前に塚本先生に鈴木って呼ばれてたよね?下の名前はゆうき?」
「……う、うん。鈴木だよ。鈴木優樹……です。……?」
「そうなんだね!アタシはほのか、広瀬帆乃香だよ。改めてよろしくね、鈴木優樹くん♪」
それから帆乃香は「ごめんね、気になることがあって」と無視をする形になった和也に謝り、互いに自己紹介をする。
コミュニケーション能力の高いもの同士、笑顔で会話が続く。
(やっぱ和也くんもかっこいいし、2人が話してると絵になるな)
自分よりも会話上手がいると自然と話す役割から降りて、聞く立場になる優樹はそんなことを思いながら2人を笑顔で眺める。
しばらくすると帆乃香は自分のクラスに戻っていく。
「そしたら、またね……ゆうに……ゆうき君!」
➖➖……➖➖……➖➖……➖➖……
「ヤバイヤバイ!ゆうにぃだ!ゆうにぃ同じ学校だったんだ!」
帆乃香は廊下を走り出そうになる気持ちをグッと堪えて自分の教室へ向かう。
「変わらずに優しかった!何か髪の毛もじゃもじゃで目は隠れてるし見た目は変わってるけど、変わらずに優しかった!」
帆乃香はそこで思い出す。
『や、あんなに幸せそうにダンスをしてるのを見ると楽しそうですが、自分は部活出来ませんよ』
『女子力……の定義は分かんないけど、相手を思って作ってるなら人間力?の高いお弁当だね』
「まって。アタシ、初恋の相手に内面とか姿勢を褒められたの?ヤバイ、恥ずい」
帆乃香は赤面してくる顔を手で仰ぐ。
「ゆうにぃがトレーナーやってくれるとかホント運命だ。最高」
はたと思い出す。
「……あれ?ゆうにぃ、アタシも名前言ったのに全然リアクションなかった?もしかして忘れてる?」
そして、決心したような笑顔になる。
「アタシだけテンション上がって悔しいから、思い出すように昔みたいな距離感でアピールしてこ♪」
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