1-6
「それでどうしろっていうんだよ」
本校舎の階段を降り切ったところで蒼矢が愚痴をこぼした。
記憶を振り返って分かったことといえば、魔神に憑かれた彩歌に今まで全く気づかなかった自分の無能ぶりくらいだ。
だが今はそれを嘆いている暇はない。
(今使えるのは小さな
蒼矢が浄化剣を握りしめる。
実家にあった
(それでも何とかしてみせるか、あるいは……)
ふとある考えがよぎった蒼矢はカバンの中から覗くスマホを見た。
今実家に連絡すれば魔神を祓える人をすぐにでも寄こしてくれるだろう。
「いや、それはダメだ」
冷静になって無責任な考えを振り払った。
実家の連中に任せてしまえば、彩歌の身の安全が保障されることは間違いなく、ない。
それは蒼矢にとって望まないことだ。
「俺がやってみせる」
しかし、方法は未だ思いつかない。
それでも必死に考えを巡らせていく。
(一瞬だけでも動きを止められればいけるか……?)
死に物狂いで考えれば、ほんのわずかな光明が見えてきた。
けれどそれを手に掴むにはまだまだ遠すぎる。
――コツ……コツ……コツ……
気がつけば魔神の足音が階段の上にまで迫ってきていた。
光を手繰り寄せるための時間はもう残されていない。
(一か八か、これに賭けるしかないか)
蒼矢が覚悟を決めてカバンを床に置く。
そして1階に降りてくる彩歌と距離を開けて向かい合える位置へと移動した。
――コツ……コツ…………
ゆっくりと足音が大きくなっていく。
蒼矢は短剣を握る両手にグッと力を込める。
やがて魔神と、それに立ち向かおうとする者が相見えた。
「あ……蒼矢君いたぁ」
階段から離れた先にいる蒼矢を見つけた彩歌は妖しげに言う。
相変わらず背後に立つ魔神を一瞥してから蒼矢がわざとらしい大声を出す。
「な、なあコームズ! 俺を追ってくるってことは、何か俺にしてほしいことがあるんじゃないのか?! 教えてくれ!」
「ん~……とりあえず……彩歌って呼んでほしいかなぁ」
その言葉は蒼矢に希望を与えた。
魔神に憑かれた彩歌の中にまだ「彩歌」が残っている証拠だ。
それなら蒼矢の賭けも分の悪いものではない。
「そうか、なら、コ……彩歌、聞いてくれ!」
蒼矢はできる限り彩歌を刺激しないことを意識して声を張り上げた。
魔神を見据え、一歩、足を踏み込む。
「俺はぁ……彩歌のことが…………好きだああぁぁぁーーっ!!!」
そう叫ぶとともに彩歌に向かってまっすぐ突っ込んでいく。
なんとかして彩歌の虚を突くために、蒼矢がとっさに考えた言葉だ。
「……え……そうや、君?! え、なにを……えええぇぇーーっ!?」
魔神に憑かれた少女の表情が一瞬だけ「彩歌」のものに戻る。
顔が真っ赤になったその隙を見逃すまいと蒼矢は力強く床を蹴って跳び上がった。
そして
「オラアァァッ!!」
突き刺した!
「あぐぅ…………」
彩歌が胸を押さえてうずくまる。
蒼矢は見えない力で後方へと弾き飛ばされた。
「どうだ……!?」
受け身を取った蒼矢が魔神の様子をうかがう。
苦しむ彩歌を炎の揺らめきが激しくなり、時間をかけて魔神の身体を侵食していく。
やがてその肉体は蒼炎に焼き尽くされるようにして消え去った。
「…………」
魔神が消えたことで彩歌の苦しげな呼吸も収まった。
蒼矢は駆け寄って無事を確かめる。
膝をつきながらも彩歌はかろうじて意識を保っていた。
「調子はどうだ?」
蒼矢が尋ねた。
彩歌は酔っぱらいのように身体をふらつかせる。
「うぅ……頭がクラクラする~……」
そう言う彩歌の背中に手を添えながら蒼矢が周囲に目を配る。
あれだけ騒いでいたのに周りには人の気配が全くない。
おそらく魔神の霊障による認識阻害が起きていたものと考えられる。
「立てるか? とにかく移動したほうがいい」
霊障の影響がなくなった今、ここに留まれば校内に残っている先生と鉢合わせになるリスクがある。
説明の手間なども考えるとそれは絶対に避けるべきだ。
だが彩歌はとても動けるような状態ではなかった。
「ゴメン、今は歩けそうにないかも……」
「あーもう、しゃーねぇなあ」
泣き言を言う彩歌の手を取り引っ張り起こす。
右肩に2人分のカバンをかけ、左肩で彩歌を支えるようにして、蒼矢は学校を抜け出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます