1-3
「なあ文楽、中央に寄っていかねぇか?」
部活終わりの歓談にいそしむ女子部員たちは置き去りにして男2人での帰り道の最中、蒼矢がそう言った。
ちなみに「中央」というは、今蒼矢たちが今いる
そこの繁華街に行けばゲームやアニメグッズから衣料品まで大抵のものは揃えられる。
「いいけど、なんだ? 買い物か?」
「ああ。そろそろ新しい小説を買いたくてな」
蒼矢はたいそうな読書家というわけではないけれど、彼の娯楽と言えば小説が主だった。
家が非常に厳しく、同世代が遊ぶようなゲームといったものに触れさせてもらえなかったのだ。
「はぁ……そういうことなら女子も誘えばよかったのに」
文楽はやれやれといった感じで言った。
部活で女子と一線を引くような態度をとる蒼矢のことを文楽はずっと気にかけていた。
だからこうして事あるごとに蒼矢と女子部員を近づけようとしてくる。
「無茶言うな。俺にそんな真似はできねぇよ」
「男子校出身だから、か?」
言われて蒼矢が肩をすくめる。
蒼矢は実家を出て一人暮らしするため、中高一貫だった男子校のエスカレーターを蹴って鹿星高校を受験していた。
「3年間もまともに話さないとマジで女子って存在が分からなくなるんだよなぁ」
多感な時期に異性が身近にいなかったという弊害を蒼矢はこれ見よがしに噛みしめてみせた。
「だからこそ今のうちに慣れておいたほうがいいんじゃないか? 彼女でも作ってみろよ」
「余計なお世話だ。お前だって言えたことじゃないだろ」
蒼矢がぶっきらぼうに返す。
女っけがないのは隣にいる文楽も同じだ。
「ま、うちの高校には俺が愛せるような幼女がいないからな」
「お前素直にキモいぞ」
そんな会話をしながら2人は「北灘駅」に到着する。
中央区へ向かうための電車の中でも他愛ない話を繰り広げるのだった。
◆◆◆
文楽との買い物を終えて蒼矢は北灘駅へ戻ってきていた。
「なかなかいい本が買えたな」
今日の買い物の成果にご満悦の様子だ。
そうして彼は鹿星高校のある方とは逆方向の出口から駅を出る。
蒼矢が一人暮らしをしているマンションは駅を挟んで高校と反対側にある。
(ん……? 今……)
マンションの入り口まできて、すぐそこの植え込みに何かがチラついたのが見えた。
近づいて正体を確認する。
「ただのネコか? いや……」
葉っぱに隠れていたのは1匹のネコだった。
だが蒼矢にはそれが本当はネコでないことが見えていた。
「……悪魔か」
ネコの輪郭に添うようにうっすらと青い炎が揺らめいている。
それが悪魔である証拠だ。
「おとなしくしてろよー……」
静かに手を伸ばしてネコを捕まえる。
悪魔は霊体であり、生き物としての本能が備わっていないためなのか、警戒の色は全くない。
ネコはあっという間に蒼矢に抱きかかえられた。
(ちゃんとカバンに入っているよな?)
片手でネコを抱える蒼矢がカバンの中にもう片方の手を入れる。
探していたものはすぐに手にとれた。
刃渡り15センチメートルほどの短剣を、周りに人がいないことを確認して取り出す。
「悪く思うな…………」
蒼矢は短剣の引きつぶされている刃をネコ悪魔の背中に突き立てる。
肉を貫いた感触はなかった。
ネコ悪魔の体は青い炎に飲まれ、そして消え去った。
「これでいいんだろ、これで……」
誰にともなく蒼矢はつぶやいた。
短剣を再びしまったカバンを肩にかけ、そのままマンションの中へ入っていった。
◆◆◆
これは蒼矢が家業である悪魔祓いを辞めて実家を出るための、父親から出された条件だった。
彼の実家は父母ともに悪魔祓いを生業としており、蒼矢もそれを継ぐように育てられていた。
――悪魔。それは人間に悪い影響をもたらす霊体の総称だ
その多くは人に憑くことで、宿主の肉体または精神に様々な悪影響を与える。
人に憑いた悪魔を宿主から切り離し、浄化する。それが悪魔祓いの仕事だ。
一方で、今しがた蒼矢が浄化したのは、まだ人に憑くことのできない下級悪魔であった。
――こういう下級悪魔でも、時間をかけて力をつけることがある。だからちゃんと浄化しなければならない
それは蒼矢が小さいころに教わったことだ。
教えられたことに従い、こうした下級悪魔も、人に憑いた悪魔も、彼はたくさんの悪魔を浄化してきた。
しかし蒼矢はいつからかそのやり方に対して嫌悪感を抱くようになる。
――高校3年間、身の回りにいる下級悪魔だけは浄化しろ。そうすれば学費と一人暮らしの生活費は出してやる
家を出る際、父親はそう言って蒼矢に悪魔を浄化するための道具、「
いいように使われていると思わないわけではない。
それでも、あの時代錯誤で野蛮な連中から距離を置きたいと蒼矢は強く望んだのだ。
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