12 冷気箱を作るぞ
私が島に来てから一週間後。
その日の朝、私はショッキングな光景を目にした。
「あ~、それなら捨てるから食卓には出ないよ」
「えーっ! 捨てちゃうんですか!?」
クレールおばさんが捨てると言いだしたのは、昨晩食べきれずに残した料理だった。
リグルドおじさんが昨日弓矢で仕留めた鳥が入っている。
てっきり朝食にも出ると思って、その料理の口になっていたのに。
「そいつはね、足が早いんだ。捨てたほうがいい。腹壊させちゃいけないからね」
「私の感覚だと、翌日ならまだセーフという感じなんですが」
「そりゃ、北にある王都の感覚ってやつだ。青翡翠島は南のほうだから、傷みやすいんだ。まっ、その時に捨てずに朝まで置いてた時点で、あわよくば食べられるんじゃねえかって貧乏根性なんだけどな!」
オグルドおじさんが豪快に笑う。
鳥を捕まえた本人が言うならそうなんだろう。
現地の人の経験は信じたほうがいい。
私が食品の保存期間の専門家でもない限り、口を挟むべきではない。
「保存できるならそうしたいんだけどね。料理だってまとめて作るほうが楽だしさ」
「俺も射止めた鳥に申し訳ねえとは思うけど、食中毒は怖いからな。それこそ、薬をもらいにいく工房も長らくなかったしな!」
おっと、カノン村ジョーク!
「工房はまだ営業してませんけど、おなかを壊したらご用命ください」
「ああ、その時は頼むな!」
よし、ジョークに適切に対応した。それはそれとして――
二人とも廃棄処分自体は残念なのだ。どうせなら料理も置いておきたいだろう。
何か手を考えるか。
私は食後、物置に入った。
食後に物置に行くとか伝承上の妖精みたいだが、物置に私の私物が全部入っているのだ。
私が取り出したのは『魔道具大全』という本だ。
名前の通り、魔道具の作成方法などがいろいろ書いてある。
「ありました、ありました。【冷気箱】というやつですね」
本の絵には、小型の金庫みたいなものが描かれている。この内部が低温に保たれているので食品が保存しやすいという、シンプルな仕掛けの魔道具だ。
だったら、みんな所有したがるんじゃないかという話だが、維持費用がかかる。
「装置としては単純で、熱を吸い取る力を持たせた石を中に入れておくわけですね。ただ、その効力が十日ほどでなくなると……。十日ごとに錬金術師に高額を払うなら、料理を新規で作ったほうが安いな。普及してない理由がよくわかります」
だが、私の場合は、維持費用はかからない。だって、本人だから。
「それと、効力が十日でなくなるというのも、もっとどうにかできそうなんだよな……」
石に魔力を送り込んでるんだろうけど、そのやり方次第でもっと冷やせる期間を延ばせると思う。
まだできてないから決めつけるべきではないが……挑戦するのはタダだ。
それとクレールおばさんの料理の負担は極力減らしたい。
こう言うと、人のためを想ってるみたいだが、クレールおばさんがいなければ私は料理を食べられないわけで、これは自分の食生活の問題なのだ。
おばさんが料理をまとめて作れるようになれば調理をまとめてできる。
私も日持ちしないからと、無理に胃袋に詰め込む必要もなくなる。
一挙両得である。
「材料の
けど、そういえば、サーキャおばあちゃんが守り神の話をしてたな……。
タックルしてくるイエティが出てきたら嫌だな……。
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