9 薬草がたくさんある!
翌日もよく晴れていた。
なんでも青翡翠島は晴れの日が多いが雨の日も多いという。
どっちなんだよという話だが、晴れてるなと思ってもいきなり雲が出てきて豪雨になるということがよくあるのだそうだ。
なので晴れも雨も多いという矛盾しているような天候ということになるらしい。
朝、私が向かったのは工房――になるはずの建物だ。
「建物に入るのは……当分無理ですね……」
私は邪魔な草(で、なおかつ薬効もたいしたことなかったり、どこにでも生えてたりするもの)を引っこ抜いていく。
「学院一年目の実習ってこんな感じでしたね。十二歳ぐらいのあの時と比べると十七歳の私はずいぶん賢くなったと思います」
独り言は気持ちが萎えないようにわざと言っている。
錬金術は孤独との戦いなのだ。
これは錬金術じゃなくて、ただの草の引き抜き作業だけど……。
学院のカリキュラムは六年ですべての内容を修了することになっている。十一歳から入学可能なので、最速で十七歳で錬金術師になれる。
たった六年で覚えられるようなことでプロになれるのかと言われそうだが、覚える内容は多い。留年を繰り返して八年や九年在籍する生徒も少なくない。
草を扱う時の、あの青臭いにおいが鼻につく。
「なんとか、なんとか……工房の裏手にまではたどり着きますよ……。そこまでは諦めませんからね……」
途中、疲れてきたので、自家製ポーションをぐびりと飲んだ。
この適度な甘さが私に活力を与えてくれる。
「工房を前にしてポーションを消費するって皮肉な話ですよね」
この工房が完全に動き出す頃までに、どれだけのポーションのビンを空にすることになるだろう。
工房はカノン村からさらに奥に行った場所で、周囲に畑地もない。工房が開いていなければ、ここに用事がある人は存在しない。
なので、人の気配も何もない。
黙々と一人で草を抜いていく。
年をとった錬金術師は引き抜く時に腰を痛めたりするらしい。私は十代だから大丈夫と思うけど、それでも気をつける。
私の作業したところだけ道ができていた。
その道がついに工房を回り込んで、その裏手にまでつながった。
そこには一見、荒れた畑のような土地が広がっている。
「ようやくこの目で拝むことができましたね。工房の薬草園!」
薬草園は工房の付属物だ。といっても、こっちこそ錬金術師の工房の心臓部と言っても過言ではない。売り物の薬草を育てないと、継続的な経営ができないからな。
例外は地価が高すぎて薬草園がない大都会の工房ぐらいのものだろう。こういうところは薬草をすべて郊外から取り寄せても、売り値も高いからやっていける。
地方の工房なら九割九分薬草を栽培している。事実、この工房も薬草園付属とパンフレットに書いてあった。薬草園の有無は必ず記入しないといけない事項なのだ。
けれど、パンフレットがルールを守っているといっても、落とし穴は存在する。
「これ、薬草園ですよね……? ただの雑木林じゃないですよね……? そのへんの草に侵食されまくってますけど……」
十五年放置された薬草園は、周囲のただの土地と限りなく見分けがつかなくなっていた。
自然の力はすごい。腹が立つほどすごいと思う。
「でも、私の目は誤魔化せませんよ。本来、首席卒業だったはずの人間なんですからね!」
私は慎重にその薬草園に生えている草木を確認する。
本来、青翡翠島には生えていないような植物がいくつも発見できた。
「よし、さすがにすべての薬草が生き延びてるってことはないでしょうけど、いい薬草がいくつもあるじゃないですか」
私はその薬草の中から使えそうなものを採取していく。
そのために小さな木のカゴも持ってきた。
作るものは単純明快だ。
「農作業に特化した特製ポーションを作ります!」
これが私なりのクレールおばさんへの一宿一飯の恩義の返し方だ。
いや、厳密にはこれからもお世話になるので三宿や十宿の恩義の返し方かも。
「クレールおばさんたちの疲労、絶対にとってやります!」
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