8 料理はできん!
――三時間後。
「おいしいです! おばさん、料理お上手すぎますよ! これは王都に店を出せるレベルです!」
「はっはっは! フレイアちゃんはおだてるのが上手いねえ! こんなのでよければいくらでも食べていきな! 工房が使えないんじゃ調理も不可能だろうし、ここで健康バランスも考えた料理を作ってあげるよ」
私はクレールおばさんの家でごはんをごちそうになっていた。
タマネギが甘い。キャベツも甘い。
本当にいくらでもいける!
「王都では脇役みたいな野菜が主役級の活躍をしてます。そりゃ、どの料理もおいしいはずです」
ロールキャベツって外側のキャベツが主役だったのか。これなら真ん中の肉の部分はいらないのでは? いや、それだとキャベツに味がしみ込まないな。
クレールおばさんの夫のオグルドおじさんは「ずいぶんおおげさだな」とあきれながら苦笑していた。
やはりもみあげにつながるひげが目立つ。それと、シカを狩りに森に入ることもあるそうだから、本当に猟師でもあるそうだ。
いっそ漁師のほうも経験あるのではと思ったが、そちらはないとのこと。カノン村からまっすぐ海に向かうと、高い崖になっていて、港を作ることもできない。漁師は港の周辺で暮らしてるそうだけど、数は知れているとか。
「王都ならいくらでも美味いもんがあるだろ? 田舎料理で感動するのは極端じゃないか?」
「おじさんの質問にお答えしましょう。王都には美食の数々があります。が、そういうものは値が張るんです。学院の生徒は食べられません。安いものは値段相応の味です。以上」
ただし、金持ちの生徒はこの限りではない。まっ、その人たちが浮かれてる間に私は勉強していい成績を出してたのだ。油断してくれてありがとうと言いたい。いや、油断して処分されたのは私か……。あまり人を呪うような考えはよくないな。
「そうか、王都は産地からも離れてるしなあ……。庶民用には古いものが出回ったりするかもな……」
「そういうことです。一方、採れたてのここの野菜は本当においしいです」
産地で地のものを食べることの意義を私は噛み締めていた。おばさんの料理の腕も高いと思うが、それだけでなく野菜が驚くほど甘い。
これは贅沢ではない。
なにせ、クレールおばさんに作ってもらう以外に選択肢がないのだから。
ちなみに私はほぼ料理はできない。
「ほぼ」をつけて、さも少しだけならできるみたいにアピールするのはよくないな。
料理はできない。
寮生活だったら毎食のごはんは出たし、料理の練習をする機会がなかった。
これで料理が得意だったらかえって変だ。
なので私は料理はできないけど、それを負い目に感じたりはしない。できない生徒のほうが普通だ。料理を授業のカリキュラムにでも入れてくれないかぎり、学院の生徒が料理をできない事態は変わらないだろう。
巨大な釜や鍋を使う職業で、料理ができないというのも変かもしれないが……。
「あの、やたらと品数が出てますが、これは遠慮したほうがよいのでしょうか? それとも、むしろどんどん食べるほうが礼にかなっているのでしょうか? 失礼でなければ教えてください」
「じゃあ、おなかいっぱいになるまで食べるのをノルマにしようかね。それでいいかい?」
「わかりました。まだいけますから、どんどん食べますね」
私は料理をたいらげながら、とあることを決めた。
何か、お返しをしないといけないな。
そんなの気にするなとおばさんは言うだろうが、もらってばかりでは悪い。【
明日、動くことにしよう。
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