4 同窓会に来ないタイプの人間だから
「しょうがない。無許可での取り扱い禁止の薬品を使ったことは事実だからな」
「幻獣が暴れてたんですよ! あれはいわば人助けで――」
「幻獣、暴れてたか? なんでこんなところ呼び出されたんだという態度できょとんとしてなかったか? 緊急時でやむをえず使ったという言い訳も無理だ」
「そ、そのとおりです……」
しまった。幻獣が何の被害ももたらしてないから、私が暴走したことが目立ってしまっている……。
「心配しなくても命にかかわるような危険な立地じゃない。意地悪な先輩錬金術師もいない。王都からは遠いが、お前、同窓会に来ないタイプの人間だから問題ないだろ」
「事実だからといって、言っていいことと悪いことがありますよ」
親が錬金術師というわけでも何でもない叩き上げなので、私を敵視している人はけっこう多かった。こういうのって、親の七光りみたいな生徒のほうが憎まれそうだけど、将来権力者になりそうな生徒をあからさまに恨むのはリスクだ。よって、身寄りのない好成績者の私が憎まれたりする。ひどい話だ。
ただ、友達がいない⇒休日も遊ばないので、錬金術の勉強に時間を使える⇒成績が上がる、というプラスのスパイラルもあるので、そんなに苦にはならなかったのだが。
いわば、友達がいないことが成績トップの私を作ったわけだ。
暗いんじゃなくて、孤高なのだ。その点、わかってほしい。
クラスに一人はいる、近寄りがたい美少女みたいなタイプを想像してね。
「ちなみに、生徒が集まって『フレイアさんの罰則が重すぎます』などと言ってきたら減刑も考慮されたと思うが、誰一人言ってこなかったので、今回の処置になった」
「友達作っておけばよかったです」
まさかこんなところで実害が生じるとは……。
がっくりと頭を落としている私の視線に工房の紹介パンフレットが入った。教授が差し出してきたのだ。
「本当に悪い話じゃないと思うぞ。ちょっと読んでみろ」
「
添付されている島を見ると、青翡翠島は南海に浮かぶ離島だった。
「翡翠とはまったく別の鉱物らしいが、大昔、きれいな緑色の石が見つかったのは歴史的事実だ。それが国王に献上されて、翡翠と似て非なるものということで青翡翠島の名前を賜った。そんな石は以降見つかってないから、本当に偶然なんだろう」
「まあ、まだ世界で一例しか見つかってない鉱物なんてのは普通にあるようですから、緑の石が偶然出てもおかしくはないですね」
その石を発見できれば、一生遊んで暮らせるお金になるのでは。そんなことを私は思った。言ったら、ひんしゅくを買いそうだ。
「その青翡翠島は長らく錬金術師が誰もいないらしい。集落が島に三つあるだけだが、農業も漁業もやっていて、家畜も飼っている。お前の理想の安定した生活も、食生活面では守られそうだ」
「まあ、食事のバリエーションが広いのはプラスの材料ですね」
たしかに交通が不便ということを除けば生活はしていけそうではあった。
というか、ほかの僻地がひどすぎて、選択肢にならない。
「わかりましたよ。この島で安定した暮らしを実践してやります」
「それは島の住人と仲良くできるか次第だな」
今更になって、ものすごく生々しいこと言ってきた。
「島民から『なんだ、この余所者』とか思われたら不味いですね」
「むしろ、お前が『なんだ、この田舎者たち』と露骨に顔に出したりしそうで、心配だ。だが、どうにかはなるだろ」
教授はぽんぽんと私の肩に手を置いた。
「お前は性格はアレだが錬金術師としての能力は素晴らしい。自分を信じろ」
「性格も褒めてくださいよ」
「事実を伝えないのは錬金術師の倫理に反する。技術はある。顔もいいと思うぞ。ただ、性格だけは……難がある」
「師弟関係の風通しがよすぎて、困ります!」
こうして、私は南の島で工房を営むことが決まってしまったのだった。
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