第24話 クロニーサ
当面の俺の目標は、ナイナイムが言っていたサメ型の魔物との接触だ。
どうやら、この海域には他にもDMダンジョンマスターがいるようだが、その者が俺にどう反応してくるか、まったく予測がつかない。
「敵対的なのか、それとも友好的なのか…?」
俺は、海底を進みながら考え込んでいた。
DMKダンジョンマスターキラーなら、間違いなく本能的に敵対的な行動を取るだろう。
その場合は、こちらもためらわずに叩き潰すつもりだが、もし相手が同じDMダンジョンマスターで、友好的に接してくるならば、こちらも敵対する必要はない。
だが、どんな場合でも備えあれば憂いなしだ。
敵対的な行動を取られた場合に対応できる力は十分に持っておきたい。
可能であれば、生け捕りにしてダンジョン運営についての情報を搾り出すのも悪くない。
相手の知識を利用すれば、さらなるダンジョン拡大に役立つかもしれないからだ。
南方20キロの地点に向かう途中、周囲の魚や海獣を次々と捕まえてむさぼり食い、俺はまるでピクニックでも楽しんでいるかのように海底を進んだ。
数日後、その地点に到着した俺は、さっそく溜まったDPダンジョンポイントを使って第1層を作ることにした。
「今回のダンジョンは、前回のクラゲスライムで得た経験を活かして、もっと速度のある魔物を育てる必要があるな…」
俺は召喚の準備を始めた。
召喚
<クラゲスライム>
<クイツキガニ>
<大笑い貝>
<ツノツノエビ>
<回転ウニ>
<カミツキフィッシュ>
<クビナガタートル>
<悪魚人>
<ゴブリンスイマー>
・
・
・
<ニードルフィッシュ>
・
・
<サンダーシャーク>
<シャベリオンハンター>
<シーサーペント>
<アクアガーディアン>
<水獣 ゴルゴロス>
<水魔獣 サルバリオン>
今回は、あまりDPダンジョンポイントを大量に消費することは避けたい。
だが、それなりに効果的でかつ多くの数を召喚できる魔物を選ぶ。
そこで俺は、ニードルフィッシュを選んだ。
<ニードルフィッシュ>← 「ピコッ」
ニードルフィッシュは、顔の先端が鋭い針のようになっていて、体表面も無数の針で覆われている。
この針によって水流抵抗が極限まで減り、驚異的な速度で泳ぐことができるのだ。
俺はまず第1層に30匹のニードルフィッシュを召喚し、各種の餌を配置した。
「このドーナツ状の構造で回遊させれば、奴らの能力をさらに引き出せるはずだ」
と俺は念話で命令を下した。
<右旋回で回遊せよ>
次に第2層を作り、そこに60匹のニードルフィッシュを召喚して同様に餌を配置した。
第1層とは逆方向に泳がせるために、念話で再び命令を出す。
<左旋回で回遊せよ>
第1層と第2層の間には細い回廊をいくつも設け、ニードルフィッシュたちが自由に移動できるようにした。
ニードルフィッシュたちは命令通りに回遊し始め、彼らの超低抵抗の体が水流に逆らうのを感じているようだった。
その結果、一週間も経たないうちに、第1層に「ハープーンツナン」という新たな魔物が発生した。
ニードルフィッシュよりも一回り大きく、力強く泳ぎ、顔の先端が銛のようになっている。
「なかなかの進化だな…」
俺は満足げに第1層を眺めた。
2週間が経過すると、ほぼ全てのニードルフィッシュがハープーンツナンに置き換わり、彼らの起こす水流が第2層にも影響を与え始めた。
第1層のハープーンツナンたちが作り出す水流は、第2層に逆流を生み出し、第2層の個体にさらなる負荷をかけるようになっていた。
3週目には、第2層にいるハープーンツナンの数が第1層を上回り、今度は第1層に逆流が発生するまでに至った。
この連鎖的な進化は、予想以上に早いペースで進んでいる。
「よし、次はさらなる負荷をかけるために、ダンジョンの構造を狭めていくか…」
俺は第1層、第2層ともに徐々にダンジョンを狭くしていった。
狭い空間で泳ぐことが困難になると、個体同士の衝突が頻繁に起こり始めた。
壁にぶつかって速度が落ちた個体は、後続のハープーンツナンに串刺しにされ、その肉片は後続の餌となっていく。
進化が進むごとに、選別は厳しくなる。
しかし、そんな中でナイナイムから念話が届いた。
「トラブル発生だ、花咲く王よ、力を貸してくれ!」
俺はすぐにナイナイムのダンジョンに向かい、問題を解決するために駆けつけた。
そこには、たった一匹のアイアンマリーンが残っているだけだった。
「一体何があった…?」
ナイナイムのダンジョンでのトラブルが発生したとの通信を受け、俺は急ぎ彼のダンジョンに向かった。
途中、何度も衝撃波を感じ、そのたびに嫌な予感が胸に広がっていく。ナイナイムのダンジョンの様子はおおよそ把握しているものの、やはり直接確認しなければ気が済まない。
ダンジョンに到着すると、そこには爆心地のような巨大なクレーターが広がっていた。
まるで大規模な爆発が起きたかのように、ダンジョンは崩壊していた。
海域内を見渡しても、俺の魔物たちは一匹も見当たらない。
「何があったんだ…?」
俺は自問しながら、クレーターの中心に目をやった。
キングクライムボムを隔離していた部屋もすべて爆発しているようだ。
クレーターの状態を見る限り、全てが吹き飛ばされたのは明らかだった。
ダンジョンが完全に崩壊してしまっているため、情報収集は困難を極める。
さらに、ナイナイムの姿もどこにも見当たらない。
「ナイナイム…どこだ?」
俺は懸命に彼の姿を探し続けた。
それから6日間、俺はダンジョンの再構築作業をしながら、瓦礫を取り除き、クレーターを整地していった。
何とかナイナイムの痕跡を見つけ出すため、休む間もなく作業を続ける。
7日目、ようやくキングクライムボムの隔離部屋の中心付近で、綺麗な球を発見した。
これがナイナイムの痕跡だろうか…。
「DMKダンジョンマスターキラーの球の使い方…か。さて、どうするか…」
球に触れ、選択肢が表示される。
<吸収>
<眷属化>
<開放>
<晒す>
<道具化>
俺は迷わず<眷属化>を選んだ。
「ピコッ」
妖艶な魔族、クロニーサが現れた。
「あんた、誰だい?」
紫の髪をした巨乳丸出しの女が、俺に問いかける。
下半身から足が複数伸びていることから、無事に眷属化が成功したことは確認できるが…。
「俺はこのダンジョンの主だが?」
「ふーん、貴方があの馬鹿の親玉ってわけね。そして、どうやら私も貴方の眷属になったみたいね」
「馬鹿って…ナイナイムのことか?」
「そうよ、あの馬鹿ったら、死ぬ間際にここに逃げ込んで、私たち諸共ダンジョン全体を大爆発させたのよ。私も逃げ切れなかったわ」
クロニーサはため息混じりにそう言った。
「ほう、やるじゃないかアイツも」
「そうね、この瓦礫の下に奴の球が埋もれているはずよ。後で褒めてあげたら?」
「そうだな、身を挺してお前を屠ったことは評価に値する。ナイナイムを見つけたら褒めてやるさ」
そして、ついにナイナイムの球を瓦礫の中から見つけ出し、再度眷属化してやった。彼は元気そうに笑っている。
「いやー、ビックリしたぜ」
「事情がよくわからないんだが、説明してくれるか?」
「わかった。少しだけDPダンジョンポイントを譲渡してくれないか?体力が限界なんだ…」
俺はナイナイムにDPダンジョンポイントを半分譲渡した。
「おお、こんなに!助かるぜ!」
ナイナイムは大きな穴を作り、その中からニューッとキングクライムボムを出現させた。
「ギリギリのところで残っていたDPダンジョンポイントを使って、なんとか一匹だけ転移させたんだ」
「お前、よくやったな。ナイナイム、さすがだ。俺はてっきり、また一からやり直しかと思っていたが、これで助かった」
「花咲く王が喜んでくれれば俺は満足だよ」
ナイナイムは嬉しそうに笑っていた。
「ちょっと、私を忘れてない?」
クロニーサが話に割り込む。
「ああ、ナイナイム。こいつは新しく眷属になったクロニーサだ。よろしく頼む」
「いや、ちょっと待てよ。こいつおっぱい丸出しじゃねぇか。魔族の女ってみんなこんな感じなのか?」
ナイナイムが驚いた様子でクロニーサを見た。
「魔族はそういうものだ。人間とは違うんだから、気にするな」
「まぁ、確かに服を着た魔族なんてダサいかもな…」
「そういうことだ」
ナイナイムが納得したところで、クロニーサがナイナイムに向かって話しかけた。
「貴方の自爆攻撃、なかなか見事だったわよ」
「そうでもしなきゃ、お前は俺のダンジョンまで探しに来てたんだろ?」
「もちろん。それが依頼であり使命だったからね」
「だろうな。お前も強かったよ。ナイナイムだ。よろしく頼む」
「貴方の根性には感心したわ。クロニーサよ、よろしくね」
「さて、それでどういう事情があったのか、詳しく説明してくれるか?」
俺は新しく作った第1層にキングクライムボムを転移させながら、彼らに問いかけた。
「じゃあ、私から説明するわ」
クロニーサが口を開く。
「そうだな、俺は抵抗するだけで精一杯だったからな。説明はクロニーサに任せるよ」
ナイナイムも同意し、クロニーサが事情を語り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます