第23話 ナイナイム
軍船グングライルは、総勢60名からなる討伐隊を乗せていた。
討伐隊を率いるのは、紅蓮の勇者ナイナイム。
勇者の名に恥じない強力な力を持つ彼を筆頭に、討伐隊はこの海域で最強と謳われる実力を誇っている。
いや、誇っていた。
だな。
軍船グングライルが俺のダンジョンに近づいた時、俺はすぐさまキングクライムボムを送り込んだ。
大きさは50cmほどしかないが、その威力は恐るべし。
奴らがダンジョン水域に足を踏み入れた瞬間、俺は迷うことなく命令を飛ばした。
「命を賭して爆発せよ!」
キングクライムボムは躊躇なくその命令に従い、中身ごと爆発した。
海面ぎりぎりで起きた爆発は、直径30メートルもの火柱を水上に立ち上らせ、海底には強烈な衝撃波が広がった。
爆風と共に、軍船グングライルは一瞬で木っ端微塵に消し飛んだ。
「あぁ、最高だ…!」
その光景を目の当たりにしながら、俺は満足感で満たされた。
船の乗組員たちは海の藻屑となり、周囲の魚介類も衝撃波に巻き込まれて死滅した。
あたりには、無数の魚たちの死骸が浮かび上がり、さらに気絶した大型の海獣までもが海面に漂っている。
衝撃波が去った後、俺は海底に降り注いだ破片を見つけ、辺りを泳ぎ回って確認していた。
すると、そこで一際目を引く光景が目に入った。海底に沈んでいる、綺麗な球体。
輝きを放ちながら、まるで俺に拾えと誘っているかのようだ。
「これは…」
俺はその球体を手に取った。
<DMKダンジョンマスターキラーの球の使い方>
<DMKダンジョンマスターキラーの球を使う>
例の球だ。
俺は即座に決断した。
<DMKダンジョンマスターキラーの球を使う>←ピコッ
選択肢が表示される。
<吸収>
<眷属化>
<開放>
<晒す>
<道具化>
眷属化に目を留め、俺は迷うことなくそれを選んだ。
<眷属化>←ピコッ
すると、次の瞬間、目の前に姿を現したのは、一体の人間のような姿を持つが、どこか異形な存在。
毒々しい色の頭髪に、鋭い目つき。
上半身は人間のようだが、鱗が生えており、下半身はタコのように何本も足が生えている。
紅蓮の魔族 ナイナイムの誕生だ。
その異様な姿をした存在が、馴れ馴れしく話しかけてきた。
「いやぁ、あんたぁつえぇなぁ」
声に驚きながらも、俺はその異形の存在に対して話しかけた。
「お前、俺と話せるのか?」
今までの眷属たちは念話以外でコミュニケーションを取ることがなかった。
しかし、このナイナイムは違った。
彼は、生前の記憶を持っているのか、言葉を交わしてくる。
「ああ、一応あんたの眷属だからな、会話はできるさ」
「俺を恨んだりはしていないのか?」
眷属として従っているとはいえ、もとは討伐隊の隊長だった男。
俺を恨んでいてもおかしくはない。
「恨むも何も一瞬過ぎてな…意気込んできた仲間もろとも、一瞬で消し飛んじまったからなぁ」
ナイナイムは淡々とした口調で答える。
「そうすると、俺は仲間の仇ということになるだろう?」
「まぁ、そうなるんだが、眷属化されたせいか、あんたに対する復讐心なんてこれっぽっちも湧いてこねぇんだ。むしろ、あんたの役に立ちたいって思うくらいさ。不思議だが、そういうもんだ」
彼の言葉に驚きながらも、俺は少し安堵した。
眷属に恨まれるのは厄介だが、そういう心配はないようだ。
「なるほどな。勇者だった頃の記憶はどうだ?まだ鮮明に覚えているのか?」
「ああ、それがぼんやりとしか覚えていないんだよな。勇者だったってことくらいは覚えてるが、今はダンジョン拡大の使命感で頭がいっぱいさ。それ以外の記憶はあいまいだ」
「そういうものか」
二人で他愛もない話を交わしながら、俺はこの奇妙な状況を楽しんでいた。
生まれて初めて、念話以外で会話ができる相手と過ごす時間。
それは驚くほど新鮮で、俺にとっては甘美なひとときだった。
「ナイナイム」
「なんだい?」
「よろしく頼む」
「ああ、こちらこそよろしくな。ところで、あんたには呼び名とかあるのか?」
「呼び名?いや、無い」
そう答えた。
今まで一人で行動していた俺には、呼び名なんて必要なかった。
「じゃぁ、眷属を代表して俺があんたに名前を付けてもいいか?」
「好きに呼べ」
「あんたのその姿、広げた足がまるで海底に咲く毒花のようだ。眷属の王として、あんたを“花咲く王”と呼ばせてもらうぜ」
「花咲く王か…王ねぇ」
「ああ、俺たちの生みの親であり、支配者であり、王だ」
「分かった、名前をありがとうよ」
「あんたと共に暴れるのが楽しみだぜ、花咲く王よ!」
ナイナイムと俺はがっちりと握手した。だが、その瞬間、俺の吸盤から毒針が飛び出し、ナイナイムの体に突き刺さった。
「くぅぅ、沁みるねぇ!気持ちが高ぶるぜ!あんたぁ最高の王だっ!」
彼は痛みにもかかわらず、喜びを露わにしていた。
眷属化は俺にとっても、意外な効果を持っていたらしい。
この肉体でも眷属とだけは触れ合うことができる、それが何とも嬉しい発見だった。
紅蓮の魔族ナイナイムが眷属として俺の力になろうという意気込みを見せるのは、心強い。
だが、実際のところ、その力がどこまで役に立つのか?
それは未知数だ。
「おい」
俺はナイナイムに声をかけた。
「なんだい?」
ナイナイムは気軽に応じる。
まだ俺のことを「王」として捉えていないようだが、それでいい。
力が認められれば、自然とその態度も変わるだろう。
「実は、眷属を持つのは俺も初めてでな。お前の出来ること、つまりお前がどこまで役に立つのかを知りたいんだ。お前自身も自分の限界を把握しているわけではないだろう?」
俺は率直に話を切り出した。
ナイナイムは深く息を吸い込み、自嘲気味に笑った。
「そうだな、俺だってまさか魔族になるとは思ってなかったしなぁ。この変わり果てた肉体がどれほどの力を持つのか、それに何が出来るのか、全くわからないんだ。いろいろ試してみる時間が必要だろうな」
俺は軽くうなずいた。
「分かった。それなら、お前に時間を与えよう。ただし、その間に試してもらいたいことがある。このダンジョンをお前に任せる。俺はしばらくここを離れるが、その間、お前がこのダンジョンの管理を行うんだ」
「ダンジョンを任せるって……俺にか?」
ナイナイムは驚いた顔を見せた。
「俺が管理するって言っても、どうやって?」
「お前も俺の眷属なら、DPダンジョンポイントを使ってダンジョンの拡大ぐらいはできるだろう?」
俺は当たり前のように答えた。
ナイナイムは眉をひそめた。
「DPダンジョンポイント? それは何だ?」
俺は少し首をかしげた。
「お前、知らないのか? それは、ダンジョンを拡大し、強化するためのエネルギー源だ。ダンジョンに侵入してきた敵や魔物を倒すことで溜まるものだ。お前が元々DMKダンジョンマスターキラーなら、理解できると思っていたが……」
ナイナイムは手を振って言った。
「ちょっと待て。KPキラーポイントのことか? それなら知ってるぜ。俺がかつてのDMKとして使っていたものに似てる。剣技や魔法、アイテム作成、それに仲間の召喚や強化に使ってた。拠点の拡充にも利用できたな」
俺は興味を引かれた。
「どうやって溜めていたのか聞いてもいいか?」
ナイナイムは腕を組んで答えた。
「メインはダンジョン生まれの魔物を倒すことだった。倒すたびにKPが溜まり、強化や召喚に使ってた」
俺は考え込んだ。
「お前は元々、俺を討伐するために来たんだろう?」
ナイナイムは少し困った顔をした。
「いや、実はそれが違うんだ。俺はサメ型の魔物が北の海域で暴れまわってるって聞いて、そいつらを討伐しに来たんだ。だが、このダンジョンにはサメ型の魔物はいないみたいだな」
「サメ型の魔物?」
俺は驚いた。
「他にもDMダンジョンマスターがいるのか?」
「多分な」
とナイナイムは頷いた。
「そのサメ型魔物の背後には、別のダンジョンがある気がする。俺が知ってるのはそいつらがかなり手強いってことだ」
「他のDMダンジョンマスター……」
俺は興味をそそられた。
「確かに気になるな。だが、まずは力を蓄えるとしよう。今のクライムたちでは、魚類型の魔物の動きに対応しきれないかもしれん」
ナイナイムは深く考え込むようにうなずいた。
「分かった。お互いにダンジョンを拡大し、DPダンジョンポイントを集めるのが先だな」
「その通りだ」
と俺は頷いた。
「まずはダンジョンを成長させることに集中しよう。俺も南方20キロの地点に新たなダンジョンを作るつもりだ。お前にこのダンジョンを任せるのはその間だ。お前ができる範囲で最善を尽くしてくれ」
ナイナイムは口元に微笑を浮かべた。
「ああ、任せておけ。これだけの力を持っているなら、俺もやる気が湧いてくるってもんだ」
「それなら問題ない」
と俺は答え、彼に背を向けた。
その後、俺たちはダンジョンの拡大と運営について、詳細に打ち合わせをした。
ナイナイムは自分が地上世界にいた頃のことをぼんやりと思い出していたが、どうやらその情報は限られていた。
「地上の国はどうなっている?」
俺は問うた。
「大きな国が3つ、その他に小さな国が60ほどある。それぐらいしか覚えてないな。だが、これだけ知っていればとりあえずは十分だろう」
とナイナイムは肩をすくめた。
「なるほど……まぁ、いずれにせよ、俺たちがダンジョンを拡大し続ければ、もっと多くの情報が自然に集まるだろう」
と俺は納得した。
翌日、俺は南の海域へ旅立つ準備を整えた。
新たなダンジョンを築き、さらに力を蓄えるために。
ナイナイムに任せたダンジョンも順調に拡大していくことを期待している。
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