第21話  試験場

試験場では、毒素と雷撃という過酷な環境にもかかわらず、数十匹のクライムボムが辛うじて生き残っていた。

彼らは、主食である<ナマコウオ>を食べ続けることで命を繋いでいたが、既に他の生物たちは試験場から姿を消していた。

<発光エビ>は毒素濃度が濃すぎて全滅し、<魔性ワカメ>もまた、過酷な環境に耐えられず枯れ果ててしまった。


この試験場は、俺が意図的に作り出した究極の過酷環境だ。

毒素が充満し、雷撃が頻繁に走るこの空間で、どの魔物が生き残れるのかを試すために設置したのだ。

しかし、生き残れるのは少数派であり、圧倒的な淘汰が進んでいた。


そして数日後、ついに<ナマコウオ>をも食い尽くしたクライムボムの中から、一匹だけ異変が現れた。

そのクライムボムは、他の個体とは一線を画していた。

頭部に金色の外殻を抱いた新種の誕生だ。


「おお、キングクライムボムか…」


俺はその姿を見て感嘆した。

外見的には頭の一部分が金色になっただけで、あまりクライムボムとの違いがない。

しかし、その金色の外殻が、強大な力を秘めていることを俺には直感的に理解できた。


貴重なこの一匹を、新ダンジョンに転移させることにした。

未知の力を持つ可能性があるため、より適切な環境でその力を確認し、育てる必要があると感じたのだ。

その後、試験場内では数匹のキングクライムボムが誕生したが、すべてのクライムボムは共食いを経て、最終的に全滅した。


試験場は一旦役目を終えたかのように見えたが、その毒素の残骸は大きな影響を及ぼした。

試験場の入口と出口を開放し、水流によって内部の毒素を換水させた結果、毒素が外部の水域に流れ出していった。

そして、その毒素はどこか遠く離れた海域で何らかの生物を屠ったらしく、数日にわたって不意にDPダンジョンポイントが流れ込んできた。

予期せぬ成果であったが、これも試験場がもたらした結果と言えよう。


「さて、キングクライムボムを戻してみるか…」


俺は新ダンジョンに移動していた数匹のキングクライムボムを再び試験場に送り返した。

この時点で、数匹のキングクライムボムが明らかに通常のクライムボムより一回り大きくなっていた。

これがさらなる成長の前兆であると俺は期待した。


正常な海水の中で<ナマコウオ>や<極彩マンボウ>を大量に与え続けると、キングクライムボムは順調に成長し、ついには5メートルもの巨体にまで達した。

そして、外殻からは仄かにピンクに煌めく分泌液を吐き出し始めた。

巨大な岩石の塊のようなモノが、キラキラとピンクの靄の中で水中に浮かんでいる光景は壮観だった。


「素晴らしい…」


その姿はまさに、ダンジョンの進化の象徴だ。

キングクライムボムが生み出すこの分泌液は、俺のダンジョンを次なる段階へと押し上げる鍵になるだろう。

その証拠に、日々流れ込んでくるDPダンジョンポイントの量が飛躍的に増加し、ダンジョンレベルは著しく向上した。

キングクライムボムの存在が、ダンジョンのさらなる成長を促進していることは明白だった。


「だが、このキングクライムボムの力はどれほどのものか?」


当然、疑問が湧いてくる。

キングクライムボムの力を試さずにはいられなかった。

俺は新ダンジョンに移動させたキングクライムボムを再度、試験場に戻し、一匹だけを残して他の個体を別の場所に移動させた。

そして、試験場でその力を試すことに決めた。


ダンジョンレベルの上昇と、以前の商船や海賊船から得た大量のDPダンジョンポイントにより、俺は強力な魔物を召喚できる状態にあった。

そこで、キングクライムボムと強力な魔物の一騎打ちを行わせ、その実力を試すことにしたのだ。


「では、召喚だ」


俺は強力な魔物を試験場に召喚することを決意した。


---


**召喚魔物リスト**


<クラゲスライム>

<クイツキガニ>

<大笑い貝>

<ツノツノエビ>

<回転ウニ>

<カミツキフィッシュ>

<クビナガタートル>

<悪魚人>

<ゴブリンスイマー>

<サンダーシャーク>

<シャベリオンハンター>

<シーサーペント>

<アクアガーディアン>

<水獣 ゴルゴロス>

<水魔獣 サルバリオン>← **ピコッ**


---


試験場に現れたのは、全長10メートルを誇る巨大な水魔獣サルバリオンだ。

頭部には2メートルの捻り角があり、その鋭い牙は幾重にも重なり、獲物を引き裂くための凶器となっている。

背中には鋭利な背びれが走り、その両側に8つの目が怪しく光っている。左右には10対の鋭利なヒレが出ており、その巨大な尾びれは鉄のように硬く、岩をも粉砕する威力を持っている。


「さて、どうなるかな…」


サルバリオンがキングクライムボムに引き寄せられるように、じりじりと接近していく。

鋭利な牙が光を反射し、そしてついに、サルバリオンはキングクライムボムにガブリと噛み付いた。


ボオオォォォンッ!


その瞬間、キングクライムボムは大量のピンクの分泌液を放出し、靄のように水中を覆った。

そしてその靄の中から、キングクライムボムの中身が驚異的な速度で飛び出し、まるで巨大なウナギのような姿で海底に向かって一直線に泳ぎ切った。


キングクライムボムの中身は、桜色の帯を纏った半透明なウナギのような体を持ち、海底に向かって凄まじい速度で泳ぎ切ると、急に身を丸め、球状に変化した。

その球状の姿は、一瞬のうちに黒く変わり、何か大きなことが起こる予兆を感じさせた。


「なんだ、あれは…?」 俺はその異様な光景に目を凝らし、興味津々に見守る。

サルバリオンはその外殻を噛み砕いた満足感を味わっていたが、次の瞬間、それがすべての破滅の始まりだった。


チュゴォォォォォンンンンン!!!


突如として、キングクライムボムの外殻が大爆発を起こした。

爆発の衝撃は凄まじく、試験場全体が激しく揺れ動き、その瞬間、俺のダンジョン全体に衝撃が走った。

海底に位置する試験場がまるで嵐の中の船のように揺さぶられ、その爆発は上空まで届くほどの巨大な水柱を海面に立てた。


水柱は高さ10メートルにも及び、その力は圧倒的だった。

試験場内のすべてが吹き飛ばされ、海底の石や土が一気に宙へと舞い上がり、まるで津波のように周囲へと押し寄せた。


「やりすぎた…!」


俺は思わずつぶやいた。

まさかここまでの威力があるとは予想していなかった。

サルバリオンの満足げな表情も一瞬で消え、その巨大な身体は爆発の直撃を受け、肉塊となって水中に漂い始めた。


キングクライムボムの自爆は試験場をほぼ壊滅させ、その場に残るものは何もなかった。

爆発の範囲があまりにも広範囲であったため、隠れていたキングクライムボムの中身も、防御体制を取っていたにもかかわらず、自身の爆発に巻き込まれて死んでしまっていた。


「これはまずい…」


俺は考え込んだ。

キングクライムボムの力を試すという行為が、試験場を破壊するだけでなく、サルバリオンのような強力な魔物さえも無残に粉砕してしまった。

キングクライムボムの潜在的な危険性は明白だった。

下手に扱えば、ダンジョン全体を壊滅させかねない。


この爆発の威力を見て、俺は慎重に行動することを決意した。

キングクライムボムの増殖は、危険を伴うものだと悟った。

幸いなことに、飢餓には強い性質を持っているので、キングクライムボムは一匹ずつ隔離することに決めた。

試験場のような分離された部屋を作り、そこで厳重に管理することが必要だった。


餌の選定も慎重に行うことにした。

刺激を与える可能性のある<ナマコウオ>や<極彩マンボウ>の代わりに、より動きの少ない、刺激を与えにくい<魔性ワカメ>や<ギガヒトデ>を与えることにした。


それに加えて、キングクライムボムが暴発しないよう、毒素や電撃のような刺激も最小限に抑えることにした。




現在、ダンジョンの南側に位置する直径2キロメートルの水域には、小さな隔離部屋が30個も設置されている。

それぞれの部屋にキングクライムボムを一匹ずつ配置し、彼らの成長と動向を観察している。




「さて、次は何が来る…?」


試験場での失敗から数日後、俺のダンジョンに新たな情報が流れ込んできた。


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**軍船 グングライル**


船長 ブルガイス

航海士 プルメイ

水夫長 クラーメン

水夫 20名

討伐隊隊長 紅蓮の勇者 ナイナイム

討伐隊副長 魔道師 エグゼイム

討伐隊僧侶 コーラム

討伐隊戦士 アイム

討伐隊格闘家 ゴル

討伐隊 40名


---


「討伐隊か…」


俺を討伐するための船がやってきたのか。討伐隊の隊長は、紅蓮の勇者ナイナイム。いかにも強そうな名前だが、俺のダンジョンがそう簡単に破られるとは思えない。

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