第20話 船
商船クライムエージェンスがクライムボムに触れた瞬間、俺は命令を飛ばした。
「<命を賭して爆発せよ!>」
通常であれば、クライムボムは外殻を脱ぎ捨て、中の無色透明な体が外敵から逃げて数分後に爆発する。
しかし、今回はタイムラグを無視し、クライムボムの中身ごと一気に爆発させた。
クライムボムの大きさは直径50センチほどで、全長25メートルの船に比べればずいぶん小さい存在だ。
それでも、クライムボムの爆発力は強力で、船底に直径1メートルほどの大穴を開けた。
爆風が水中に広がり、波紋のように海を震わせる。
「完璧だ…これでしばらくは船も動けないだろう」
船底に開いた穴からは勢いよく海水が浸入し、水流が船の内部を侵食していく。
船は少しずつその重みを増し、まるでゆっくりとした時間の中で死を迎えるかのように沈んでいった。
沈没には数十分もかからなかった。
さすがに水夫たちは訓練された者ばかりで、泳ぎには慣れている。
それでも沈没の瞬間、海水の渦に巻き込まれたのは半分ほどだ。
残りの10名は水面に浮き上がり、命を懸けて必死に泳いでいた。
だが、ここまで来ればあとは俺のお楽しみの時間だ。
水面へ向かってゆっくりと浮上した俺は、沈みゆく船と泳ぐ水夫たちをじっくり観察した。
船長エルゲスも含めた水夫たちの足に俺の触手をそっと巻きつけ、毒針をジュジュゥッと注入してやった。
最初は頑張って泳いでいたが、毒が回ると次第に痙攣し、やがて力尽きて沈んでいく。
俺はその全員を美味しく頂いた。
その後、船内の残された空気で必死に生き延びていた数名の船員も逃さずご馳走にした。
船が完全に沈む前に、全員が俺の糧となったのだ。
「20人分のDPダンジョンポイントを一気に手に入れたぞ!」
この戦利品を前に、俺はほくそ笑む。
魔物一匹でこれだけの成果を上げるのは、ボロ儲けに等しい。
さすがに気持ちが良い。
船の沈没とともに手に入れたアイテムも、さほど価値のあるものではなかったが、クラゲスライムに運ばせて一箇所にまとめておいた。
人間は水に弱い存在だ。
この海底ダンジョンならば、人間どころかどんな強敵でも俺にとって狩りの対象となる。
強力なDMKダンジョンマスターキラー、例えばあのロッテンも、この水中であればその力を半減できるはずだ。
今のところ、これほど優れた環境は無い。
水中という弱点を突くことで、ダンジョンの守りは一層堅固になるだろう。
数日後。
新たな船がダンジョンの水域に入ってきた。
今度はもっと大きな船だ。
その名は「海賊船 百鬼夜行」
海賊頭 テツオ
海賊 イシイ
海賊 タロウ
海賊 タナカ
海賊 サトシ
海賊 ゴロウ
海賊 ヒトシ
海賊 テツ
海賊 ジン
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海賊30人
奴隷 サト
奴隷 エイジ
奴隷 スズキ
奴隷 クロ
奴隷 ゴトウ
奴隷 ヒビキ
奴隷 コウジ
奴隷 ミホ
奴隷 ジュンコ
奴隷 チカ
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奴隷50名
この巨大なガレー船は全長50メートル、三階層に分かれており、50名もの奴隷たちが人力でオールを漕ぎ、かなりの速度で進んでいる。
船の総乗員数は100名近くに達しており、奴隷50名を含むこの船は、かなりの戦闘力を持っているようだ。
「面白くなってきたな…」
今度もやってやる。俺は大きめのクライムボム50匹を選び出し、命令を下した。
「<全速で海賊船百鬼夜行に向かえ!急げ!敵を殲滅せよ!>」
選抜されたクライムボムたちは、命令を受けると一斉に海賊船に向けて進み出す…かと思ったが、40匹は突然整列し、その後ろに10匹が並んだ。
「ん? 何をする気だ?」
その瞬間、後ろに並んだ10匹のクライムボムが同時に爆発した。
第1層に大きな衝撃が伝わり、海中に轟音が響く。
しかし、残った40匹はその衝撃をものともせず、分泌液を大量に放出しながら海賊船に突き進んでいった。
ボクゥボゥホクォボクォォボコボクボクゥゥゥ!
立て続けにクライムボムが船に命中し、船体の下部が次々と爆発する。
海賊船はその重量で中心からポッキリと折れ、瓦礫や奴隷、海賊が海中に投げ出される。
もがき苦しむ者たちの姿も見えたが、それもほんの数分のこと。
浮いてる何人かは直接捕食した。
また食べ残しも渦に巻き込まれ、やがて彼らは静かに沈んでいった。
「ははは… 今回は俺が最前線に出るまでもなかったな。100名分のDPダンジョンポイントがどんどん流れ込んでくる」
この海底ダンジョン、最高だ。
人間たちを狩るのがこんなにも簡単になるとは思わなかった。
海賊船には金銀財宝が山ほど積み込まれていたが、俺にとっては腹の足しにもならない。
クラゲスライムたちに命じて、宝物を一箇所に運ばせた。
「俺はもう、最強だろこれは!」
俺の海底ダンジョンは、着実に強力なものへと成長している。
それはもう誰にも止められない。
海賊サイド
海賊船「百鬼夜行」が水域に入ってきた瞬間、海が不気味な沈黙に包まれた。
全長50メートルもあるこの巨大ガレー船は、奴隷たちがオールを漕いで海面を滑るように進んでいる。
木造の船体は古びた血痕や傷が刻まれており、海賊たちが長年にわたり戦いを繰り広げてきたことを物語っている。
奴隷たちは汗を流し、疲れた顔で黙々とオールを引きながら船を動かしている。
「おい、もっと早く漕げ!何をちんたらしてやがる!」
海賊頭のテツオが甲板の上から奴隷たちに怒鳴り声を上げる。
「このままじゃ次のターゲットに追いつけねぇぞ!」
奴隷たちは顔に汗を浮かべながらも、言葉なくオールを漕ぎ続ける。
しかし、彼らの眼差しは虚ろで、背中はやつれ切っていた。
その時だ。
「ん?なんだ、何か音がしないか?」
海賊の一人、サトシが海面を見下ろし、眉をひそめた。
だが、その瞬間にはすでに遅かった。
海の中からくぐもった爆発音が連続して響き渡った。
ボクゥ!ボクォ!ボォゥォ!
「な、なんだ!?何かが爆発したぞ!」
テツオが慌てて甲板を見回し、船の揺れに立っていられなくなり、甲板に倒れ込んだ。
ボコォォォ!
一発目のクライムボムが船の船体に命中した瞬間、爆風が甲板に吹き上がり、海賊たちは一斉に立ち上がった。
船の下部に大きな穴が開き、海水が激しく船内に流れ込み始めた。
「穴が開いたぞ!急げ!水をかい出せ!」
水夫長のアルイが叫ぶが、その声も虚しく、船の構造自体が次々に崩壊していく音が響く。
海水は急速に船内に侵入し、まるで船が飲み込まれていくかのようだった。
奴隷たちは必死に水をかい出そうとするが、すでに水位は彼らの腰にまで達している。
「こ、こんなところで死にたくねぇ!」
イシイが悲鳴を上げ、オールを放り出して海に飛び込んだ。
「待て、イシイ!海に飛び込んだらもっと危険だぞ!」
タナカが叫ぶが、イシイはもう水面に姿を消していた。
一方で船上では、海賊たちが何とか船を持ち直そうと必死になっていたが、状況は悪化する一方だ。
「奴隷ども!もっと早くオールを漕げ!」
テツオが吠えるように命令を下すが、すでに奴隷たちの表情には絶望の色が浮かんでいた。
奴隷の一人、サトは涙を浮かべながらオールを握りしめていた。
「俺たちはもう助からないのか…?」
エイジがそう呟くと、隣にいたミホが顔を伏せた。
その時、さらに大きな衝撃が船全体を襲った。
船体の真ん中で大爆発が起こり、まるで細い木の枝のように船が真っ二つに折れたのだ。
瓦礫や海賊たち、奴隷たちが宙を舞い、悲鳴が海中にこだました。
「う、うわあああああ!」
「助けてくれ!」
海賊たちは海に投げ出され、奴隷たちも次々と水中に沈んでいく。
渦巻く海水は瓦礫と共に彼らを飲み込み、巨大な渦を作り出した。
海面は泡立ち、まるで大海が怒り狂ったように波打っている。
「テツオ!このままだと全員飲まれる!」
ゴロウが必死に叫ぶが、その瞬間、彼自身も渦に飲み込まれ、声は海の底へと消えていった。
船の残骸はどんどんと沈んでいき、その上には生き残った海賊や奴隷たちが必死に水面で浮かんでいた。
「まだだ!まだ俺たちは助かる!」
テツオがそう叫んだ瞬間、何かが静かに水面まで浮上し、触手を伸ばして彼の足を掴んだ。
「な、なんだ!?くそ、離せ!」
テツオは足をバタバタさせながら必死にもがくが、触手はがっちりと彼を捉えていた。
ゆっくりと毒針を注入され、テツオの体が痙攣し始める。
他の海賊たちも次々と俺の触手に捕まり、毒が回り、海の底へと引きずり込まれていく。
奴隷たちは、ただ静かにその光景を見つめるだけだった。
「た、助けてくれ…誰か…」
最後にテツオが呟いたその声も、やがて泡と共に消え、彼の体は海の底へと沈んでいった。
沈みゆく海賊船「百鬼夜行」。
巨大な船体がゆっくりと沈む。
瓦礫、海賊、奴隷たちが一緒くたに渦巻く水流に巻き込まれ、全員がもがき苦しみながら消えていく。
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