第19話 タコ

**俺の復讐者リスト**


- エルフの森のエルフ達 100名ほど

- 戦士 ロイゴック

- ルーキー勇者 ロッテン




リストを眺めると、かなりの人数が消化されていることに気づく。

長い戦いだったが、着実に復讐を遂げてきた。

そして、思わず苦笑いを浮かべる。


「ロッテン……やはりあいつは反則だったな……」


ロッテンとの戦いを振り返りながら、俺は今の状況に心を集中させた。

周りを見渡すと、視界の左端に青いスイッチがうっすらと浮かんでいるのが見えた。

何だこれ?注視するとスイッチが近づいてくる。


「なんだ、このスイッチ?」


気になったので、俺はその青いスイッチを押してみることにした。

指、いや、今では触手で「ピコッ」と押す。




だが、何も起こらない。

周囲は相変わらず綺麗な海の底の光景だ。

特に変化もない。

期待外れだ。


「何の意味があるんだ、このスイッチ……?」


不満が募り、今度は右端に見える黄色のスイッチを押してみたが、やはり反応は同じだ。

何も起きない。

ただ、青と黄色のスイッチがあっただけで、特に変化は感じられない。


「クソ……こんな意味のないものばかりだな。海の底で漂ってても何も始まらねぇ……」


ため息をつきながら、俺は再び周囲を見渡すが、見えるのは色とりどりの珊瑚と群れをなす美しい魚たちだけだ。

洞窟や岩陰は見当たらない。


上を見上げると、輝く水面が青空のように広がっている。

黒く見える影……

あれは船だろうか?

少し興味が湧くが、今はそれを追う気にもなれない。


「とりあえず、ここでじっとしていても仕方がねぇな。少し居住地を作るか」


俺は珊瑚の間に10メートルほどのダンジョンを作り、その中に入ることにした。


しかし、入ってみると自分の体が大きすぎて、ダンジョンに収まりきらない。

どうやらこのタコ型の体は相当大きいらしい。

なんとか体を捻じ込んで、足だけを外に出す体勢でその日は眠ることにした。


翌朝、目を覚ますと、足に大量の魚がくっついていた。

夜の間に吸盤に触れてしまい、毒で即死したらしい。

これがこの体の力か……。

食事として魚を頂き、微量なDPダンジョンポイントを得た。


「なんだか隠居生活みたいだな……」


と、俺はつぶやいた。


それから1週間、ダンジョンの拡大と漁業の生活が続いた。足にかかる魚たちは次々と俺に食料とDPダンジョンポイントを与えてくれ、俺は自分の居住地を少しずつ作り上げていった。

やがて、十分なスペースが確保できた第1層が完成した。


「さて、そろそろ召喚でもやるか……」


俺はDPダンジョンポイントを利用して魔物の召喚を開始した。


---


**召喚リスト**

<クラゲスライム>

<クイツキガニ>

<大笑い貝>

<ツノツノエビ>

<回転ウニ>

<カミツキフィッシュ>

<クビナガタートル>

<悪魚人>

<ゴブリンスイマー>


---


「クラゲスライムでいいか……」


ピコッと押してみると、水中に小さなポワポワとしたクラゲスライムが現れた。

フワフワと気持ちよさそうに泳いでいるその姿を見て、少しだけ癒される気持ちになる。


「ちょっと可愛いじゃねぇか」


俺はスライムを撫でてやろうと触手を近づけた。


だが、次の瞬間——


プシュゥゥゥ!


俺の吸盤から毒針が飛び出し、クラゲスライムに刺さった。

クラゲスライムは数秒で紫色に変色し、すぐにDPダンジョンポイントへと変換されてしまった。


「さようなら、クラゲスライム……」


短い命だったが、役に立ってくれたことは感謝しよう。



前回の失敗を振り返り、俺は考え直した。

ロッテンのような強敵に対して、数の力だけでは通用しないことが明白だ。

むやみに魔物を増やしても、結局は敗北するだけだ。

量で勝負する時代は終わりだ。

質を高めなければ、DMKダンジョンマスターキラーを倒すことはできない。



最初の1ヶ月、俺はダンジョン内にクラゲスライムを大量に召喚し、その餌も多種多様に試みた。

何かしらの変化や進化が起こるかと期待したが、クラゲスライムは繁殖するばかりで、進化の兆候はまったく見られなかった。


試した餌の種類は、普通の魚介類から、魔性ワカメなどの特殊なものまで多岐にわたった。

魔性ワカメに関しては、肥料を投入することで何か変化が起こるかと期待したが、結果は芳しくなかった。



そして、2ヶ月目には俺は思い切って第1層の入り口を封鎖し、クラゲスライムたちを放置することにした。



その間に新たなダンジョンを設営し、第1層同士を細い回廊で繋ぎ、日々蓄積されるDPダンジョンポイントを全て新しいダンジョンに投入することに決めた。

古い第1層は「試験場」と名付け、そこでは異常繁殖していたクラゲスライムの観察を続けることにした。


試験場での観察を続けると、クラゲスライムは餌を食べ尽くし、3日も経たないうちに共食いが始まった。

元々はふわふわと漂う可愛らしいスライムだったが、過密状態になった環境では生存競争が激化し、彼らの行動が変わっていった。


2週間が過ぎる頃、ついに共食いによる分裂から新たな個体「クライムボム」が誕生した。

クライムボムは、クラゲスライムとは違い、ゴツゴツとした鉱物のような外殻を持ち、その分泌液には強烈な甘い香りがあり、他のスライムを引き寄せる力があった。


そのクライムボムは、外敵が一定以上の攻撃を加えたり、餌が近づくと、外殻を脱ぎ捨てて中身のウナギのような無色透明な身体で逃げ出す。

脱いだ外殻は1分ほどで爆発し、外敵を焼き尽くしたり、餌をコンガリと調理するという機能を持っていた。


3週間が経つと、試験場にいたクラゲスライムの大部分は食い尽くされ、クライムボムが100匹ほど残るだけになっていた。

興味深いことに、クライムボムたちは飢餓に非常に強く、共食いもせず、ほとんど動かなくなっていた。


ここで俺は新たな方針を打ち立てた。

クライムボムの半数を新しいダンジョンに移し、残りの半数を試験場に残して、さらに過酷な環境において実験を続けることにした。




新ダンジョンでは、クライムボムが第1層に移動する前に大量の餌を準備していた。

あらゆる種類の魚介類や植物を配置し、彼らの新たな生態を観察することにした。


驚くべきことに、ダンジョンの拡張中、上空を通過する船からの情報が流れ込んできた。

これは、ダンジョンを水平に広げることで、上空の物体から情報を得られるようになったのだと気づいた。

以前のダンジョンは深く作りすぎていたため、上空を通過する馬車や物体の情報を取得できていなかったのだろう。


俺は直線的な拡張をやめ、円状にダンジョンを拡大することにした。

結果、現在では直径2キロメートルの水域がダンジョンの一部となり、今後さらなる拡張が期待できる。




クライムボムの観察を続けると、動きの速いナマコウオや極彩マンボウが引き寄せられ、爆発し、クライムボムに食べられているのをよく見かけるようになった。

この様子を見て、試験場にもナマコウオや極彩マンボウを大量に配置し、それらの餌となる魔性ワカメや発光エビも追加した。


同時に、定期的に俺の身体から毒素を試験場に流し込み、さらにサンダーボルトの魔法を範囲指定して電撃を数時間ごとに加えることで、クライムボムの進化を促した。




その結果、餌である極彩マンボウは毒素によって全滅してしまった。

しかし、ナマコウオや発光エビは毒素と電撃に耐え、逆に異常繁殖を始めた。




そんな折、船の情報が再び俺に届いた。

どうやら商船がこの領域に入ったようだ。


---


**商船 クライムエージェンス**


- 商人: バヨット

- 船長: エルゲス

- 水夫長: アルイ

- 航海士: ロイアック

- 通信魔術師: エギル

- 事務員: イジアム

- 水夫: 15人


---


現在、この船は俺のダンジョン領域内に入ったばかりだ。天候は快晴で、波も穏やか、船はゆっくりと航行している。

まさに実験のチャンスだ。

俺はクライムボムの性能を試すため、1匹をDPダンジョンポイントを使って船の進行方向に転移させた。




次に起こることを楽しみにしながら、俺は彼らの運命を見守ることにした。

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