第17話 閑話 マネス

マネス視点


ルロエ様の執務室にて、俺は報告をしながら、視線を彼女から逸らすことができなかった。

彼女の透き通るような水色の髪が燭台の灯りに照らされ、歳を重ねる度に増すその美貌に思わず見惚れてしまう。

だが、今はそんなことに気を取られている場合ではない。

ダンジョンにまつわる最悪の報告を彼女に伝えなければならない。


「ルロエ様、例のダンジョン落とし、イクイゴの件ですが…」


俺は静かに声をかけた。


ルロエ様はデスクに手をかけながら、小さく息をつく。


「マネス、その話は報告を受けているわ。彼がダンジョンの入り口で晒されていると…しかし、あの男がこのような目に遭うとは、想像もしていなかった。」


「はい。彼は、領地内のダンジョンで強力な結界に囚われ、苦しみ続けているとのことです。兵士たちも様子を見に行きましたが、近づくことすらできませんでした。あのダンジョンがいかに危険か、これで明白です…」


俺は言葉を続けながら、ルロエ様の横顔に視線が吸い寄せられる。

軍服のような服装が、その下に隠された女性らしい肢体をさらに引き立てている。

だが、そんなことを考える暇は今はない。


「イクイゴが晒されているという事実は、すでに町の兵士たちにも広まっています。あの男がダンジョン落としとして恐れられていたにもかかわらず、今や晒し者にされているという現実…兵士たちは恐怖し、動揺しています。あのダンジョンは尋常じゃない…まるで、我々を嘲笑うかのように。」


ルロエ様は深い溜息をつく。


「マネス、あなたもそう感じているのね。私も、この領地にあのようなダンジョンが生まれたことを本当に悲観しているわ。どうしてここに…どうして、この領地にあんな危険なものが…」


彼女の言葉に含まれた重い現実を痛感しながらも、俺の胸の奥では微かに熱が宿る。彼女の憂い顔、そしてその知性に満ちた瞳は、俺の中に眠る欲望をじわじわと呼び覚ましていく。

彼女の苦悩を見ていると、どうしても助けてやりたいという思いと同時に、彼女に触れてみたいという気持ちが湧いてきてしまう。


「それと、もう一つ…」


俺は気持ちを立て直し、話を続けた。


「サルシュの件です。彼の屋敷が先日の急襲で崩壊し、彼自身も命を落としました。彼がこれまで築き上げてきた影響力も、ここで完全に終わったと言っていいでしょう。もっとも…彼のやり方には疑念を抱いていましたが、今となっては、それも無意味な話です。」


ルロエ様の表情が僅かに硬くなる。


「サルシュ…彼もこのダンジョンのせいで命を落とすことになるとは。彼がいなくなったことで、一時的にはこの領地の混乱が収まると思っていたけれど…ダンジョンの脅威はそれ以上のものね。」


俺は頷きながら、言葉を選んだ。


「サルシュの影響力が消えた今、領主様にとっては動きやすくなる部分もあると思います。しかし、あのダンジョンの存在がこの町の未来を覆い尽くしてしまう可能性があります。兵士たちの士気も下がってきている…早急に対策を講じないと、手遅れになるかもしれません。」


ルロエ様は頬に手を当て、しばし黙考した後、目を閉じて言った。


「マネス、あなたの言う通りね…このままではこの町が、いや、この領地全体がダンジョンの影に呑まれてしまう。」


その沈痛な表情が、俺の中で欲望と保護の感情を複雑に絡み合わせる。

彼女は領主として、この領地を守らなければならない。

その責任感に押しつぶされそうな彼女の姿を見ていると、俺は彼女を支えたいという気持ちと同時に、もっと近づきたいという欲望が膨らんでしまう。


だが、今はそんな感情を抑えなければならない。

彼女には領地を守る使命があるし、俺には彼女を助けるという重要な役割がある。


「ルロエ様、俺は全力でこの事態に対応します。兵士たちを鼓舞し、ダンジョンに対抗する手段を模索してみます。それまで、どうか無理はなさらないでください。」


ルロエ様は少し微笑んで、俺に感謝の意を示す。


「ありがとう、マネス。あなたがいてくれて本当に良かった。これからも、私を支えてちょうだい。」


彼女の言葉に、俺の心臓は一瞬跳ね上がる。

その微笑みを見ただけで、俺の中の欲望が再び疼く。

しかし、今はそれを表に出すわけにはいかない。


「もちろんです、ルロエ様。俺は常にあなたのそばで、力を尽くします。」


俺は心の中で彼女への思いを抑え込みながら、しっかりと立ち上がり、次の行動に移るための決意を固めた。




翌日。

こちらの準備をあざ笑うかのように、城壁が次々に破壊され、侵略が着々と進んでいる。

3の城壁が破られ、ついに2の城壁も陥落するのは時間の問題だ。

俺、マネスは領主館の一室に立ち尽くし、刻一刻と迫る危機を感じていた。

戦の音が遠くから聞こえ、どんどん近づいてくる。

町全体が混乱に包まれ、領主館も次第にその影響を受けつつある。


「まずいな…このままだと、館も陥落するだろう…」


俺は焦燥感に駆られながら、手を握りしめた。

この状況を想定していたにも関わらず、今となっては打つ手がない。

館の中は緊迫感に満ち、兵士たちが行き交う。

誰もが、目前に迫る敵の圧倒的な力に怯えているようだった。


ルロエ様はどうしているだろうか。

あの強靭な精神力で、この絶望的な状況にも冷静に対応しているのだろうか。

いや、どんなに堅実で聡明な彼女でも、この状況ではさすがに動揺しているはずだ。

俺の頭の中には、彼女の姿が浮かんでいた。

責任感が強く、常に領地のために尽力してきたルロエ様。

だが、その心の強さが今や裏目に出ているようにも感じた。


2の城壁が破られた報告が入った時、俺は一瞬、全身が冷たくなった。

もう逃げ場はない。

館はもうじき敵に包囲されるだろう。

死が目前に迫っていることを感じながら、俺は頭を抱えた。


だがその一方で、今まで抑えてきた感情が強く膨れ上がる。

死が目前に迫っているからこそ、俺は自分の本心に気づかざるを得なかった。


「ルロエ様に…愛を伝えたい…」


俺の胸の中で、ずっと秘めてきた感情が爆発しそうだった。

俺が彼女に惹かれていたのは、ただの領主と家臣の関係ではなかった。

彼女の気高さ、知性、そして美しさに、俺は深く心を奪われていたのだ。

だがその感情を告白する機会は、ついに訪れなかった。


「もう時間がない…」


俺は決心した。

死ぬ前に一度だけでも、彼女に自分の気持ちを伝えたい。

それがどんなに拒絶されようとも、もう俺には失うものなどないのだ。


俺は意を決してルロエ様の部屋へと向かった。

館の中は混乱しており、兵士たちが撤退を急いでいる。

戦の音がますます大きく聞こえ、敵がすぐそこまで迫っていることが感じ取れた。


ルロエ様の部屋に着くと、彼女は地図を見つめ、最後まで防衛の策を考えているようだった。

だが、その瞳にはいつもの冷静さが失われ、わずかな焦りと不安が見え隠れしていた。


「ルロエ様」


美しい彼女の姿がそこにある。

その気高い立ち姿を見て、俺は言葉が一瞬詰まった。

だが、この機会を逃してはならない。


「マネス…」


ルロエ様が振り返り、俺に視線を向けた。

その瞳には疲れと不安が見え隠れしている。

それも当然だ。領地がどんどん侵略され、終末が近づいていることを誰よりも理解しているはずだ。


「ルロエ様…私は…」


俺は躊躇しながらも、胸に溢れる感情を言葉にしようとした。

この瞬間、何度も心に浮かんだ告白の言葉が喉元で震えている。


「…私は、ずっとあなたを女性として慕っていました。あなたを愛しています!」


その言葉が出た瞬間、俺の心臓が強く鼓動する。

言ってしまった。

この瞬間が来ることを、俺は恐れながらも待っていた。

だが、ルロエ様の表情が一変した。

驚愕と、それに続く冷たい拒絶が彼女の顔に浮かんだ。


「マネス…あなたは何を言っているの?」


彼女の声には冷たい怒りが込められていた。


「今この状況で、何を考えているのですか?私たちの領地は危機に瀕しているのに、あなたは私にこんなことを…」


「ルロエ様…この戦が終わる前に、私はどうしても伝えたかったんです。ずっと抑えていたんです。あなたに仕えながら、この感情を隠してきた…だけど、もう時間がない。死ぬ前に、どうしてもあなたに伝えたかったんです!」


俺は懸命に気持ちを訴えた。

だが、彼女の瞳には厳しい拒絶があり、それが俺の言葉を突き刺した。


「あなたは私を侮辱しているのですか?」


ルロエ様の声が低く、強い怒りを帯びていた。


「私は領主として、この領地の民のために命を懸けているのに、あなたは側近として領地を共に守る策を練るべきなのに!最後まで諦めないで共に戦うのが側近の役目なのではなくて?私はあなたを信頼していました。しかし、信頼できる側近以上にあなたを考えたことはありません。私とあなたの身分の差、なによりも年齢差を考えてるの?あなたはその信頼を裏切るようなことを…」


俺の胸が痛む。

彼女の言葉が鋭く、俺の心を貫いた。


「ルロエ様…俺は、あなたをただ愛していただけなんです。あなたが高貴な方だと知っていても、俺の心は止められなかったんです。死ぬ前に、一度でいいから…あなたを抱かせてください。最期に…一度だけ…」


俺は彼女に懇願した。

だが、彼女の拒絶はさらに強固だった。


「ふざけないでください、マネス!」


彼女は鋭い声で俺を叱責する。


「私が誰だと思っているのですか?私はこの領地の領主です。あなたのような愚かな感情に身を任せるつもりはありません!」


俺の心は焦燥感でいっぱいになった。

彼女の拒絶が俺を追い詰め、理性を失わせていく。

俺は一歩彼女に近づき、そして、次の瞬間、彼女を強く抱きしめ唇を奪い。


「マネス!何をするの!?」


ルロエ様が驚いて声を上げた。

破き剥く。

真っ白な肌。

俺の腕の中で震え抗い。

だが、その抵抗にも関わらず、俺は求め続けた。


「許してください…これが最期なんです…俺にはもう、これしか…はぁはぁ」


「やめなさい!マネス、あなたは私を裏切ったのです!私の信頼を…!ああああ」


彼女の声には激しい怒りと失望が混ざっていた。

俺は強い抵抗を感じながらも、行為を止められなかった。

初めて見る震え怯え号泣する姿。

その瞬間に自分の行為の重さを実感した。

だが、もう後戻りはできない。


「あなたを絶対に許さない!ぃぃぃあああああ」


絶叫が部屋に響き渡る。

胸を濡らす液体に懺悔の思い。

嗜虐心。


その時、館の外で大きな轟音が響いた。

侵略軍がついに館の周りを包囲し、破壊の手がすぐそこまで迫っていた。


「マネス…あなたは…ひああうあああんんあうああん」


肉と肉、湧き出し、弾かれ、空気漏れ、旋律が何度も響き渡り。


「あがあああああっががが」


声は痙攣によりそこで途切れた。

凄まじい締め付けと共に極上の快楽が襲った。


次の瞬間、館の天井が大きく崩れ落ち、重なる2人の上に瓦礫が降り注いだ。

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