第12話 罠

「ウオオオオアアアアア!!!」

全身から強い光を放ち、圧倒的な勢いで第2層を集団で突き進む男がいた。


その男こそ、

**チーレム勇者 イクイゴ**


そして彼に付き従うのは


**ドワーフ戦士 ドーラ**

**ダークエルフ魔術師 ライン**

**エルフ治癒魔術師 ローザ**

**シルフ精霊魔術師 エレン**


という、強力な仲間たちである。


「イクイゴ!後方の衛兵達がついて来れていないわ!」


ローザが焦りの声を上げる。


イクイゴたちは、第2層に配置されたガラスビーとマイクロワームを魔法障壁を展開しながら進んでいた。

しかし、衛兵たちはそんな高度な魔法を使えるわけもなく、入口付近で完全に混乱している。


空気中に漂うマイクロワームが、衛兵たちの装備の隙間から侵入し、皮膚に産卵する。

その痛みでのたうち回る同胞を助けようとする衛兵に、背後からガラスビーが襲いかかり、彼らの首筋にその鋭利な針を突き刺す。


さらに、第2層全体を覆う魔濃霧が視界を遮り、火炎魔法の使用も妨げられていた。


救護しようと駆けつけた衛兵が、救い出したと思った仲間が実は人面芋虫だった、という悲惨な状況が頻発していた。


無事な衛兵たちは、仲間の救護に追われ、イクイゴたちに追いつくどころではなかった。


「かまわねぇ!ここで引いたらミミアに顔向けできねぇ!このまま突っ走るぞ!」


イクイゴは決意を示し、さらに前進を続けた。


彼が放つ光に触れると、マイクロワームは瞬時に蒸発し、ガラスビーも剣の一振りでまとめて粉砕されていた。


「クッソ!薄気味悪いダンジョンだな!」


ドーラが苛立ちながら叫ぶ。


俺は彼らの進行をダンジョンの深部から眺めていた。

心血を注いで創り上げたこのダンジョンを、いともたやすく突破しようとしているこの男たちに対する怒りが湧き上がる。


「確かに気味の悪いダンジョンだけど、トラップがあまり見当たらないのが救いね。このまま進むわ!」


魔術師ラインが冷静に状況を判断し、仲間たちを鼓舞する。


だが、彼女の言葉が油断の元だ。

俺のトラップはすぐそこに待っている。

第4層への落とし穴、ダミー階段の前に巧妙に仕掛けてあるのだ。

そしてその先には、ギガントオーガが待ち構えている。

さらに、完全回復した魔人レントも第4層で彼らを迎え撃つ準備を整えている。


「このエビルフェアリーとリリスナイト、農業区を襲った魔物だろうね。」


ラインが鋭い目で魔物たちを睨みつける。


「うえー!臭い…気持ち悪い…」


ドーラが、微生魔物が沼地を覆う不快な光景に顔をしかめる。


俺は彼らに対して攻撃の手を緩めず、慎重にエビルフェアリーとリリスナイトの戦力を保持しながら適度な攻撃を加えた。


彼らが油断しないよう、しかしこちらの意図を悟られないように。


彼らは冷静に魔物たちを処理していく。

勇者パーティーの力は本物だった。

だが、俺は彼らがダミー階段に近づく瞬間を待ちわびていた。

ついに、その時が来た。


「やっとこの汚い沼地から出られるのね…」


ドーラがぼやきながらダミー階段に近づく。あと5歩、4歩、3歩…


「待てっ!」


イクイゴが突然叫び、ドーラのもとに駆け寄り、跪いて地面を調べ始めた。


「やっぱりな。ここだけ微生物の密度が不自然に少ない。罠だ。」


イクイゴが冷静に分析し、全員が罠から距離を取った。


「ザケんじゃねぇ!俺のワクワクを返せ!楽しみを返せ!せっかく作ったのに!せっかく考えたのに!あああ!落ちて!絶望して!ギガントオーガにボコボコにされちゃうの楽しみにしてたのに!おおおあああああ!!!!」


俺は怒りを抑えきれず、内心で叫んだ。

せっかくの落とし穴が無駄になった。


しかし、まだ終わりではない。

俺はさらなる手を打つ。


<リリスナイトは全員でエルフ治癒魔術師ローザに突撃!他の者にはかまうな!ローザだけを第4層に落とし込め!目印はあの美しい金髪だ!>


<エビルフェアリーは全員でローザに向けて魔法の弾幕を!リリスナイトと共に彼女を第4層に落とし込め!>


総勢500匹近くの魔物たちが、一人の女を狙い、全身全霊で突撃を開始する。


「なんだこいつらっ!?」


イクイゴが驚きの声を上げ、ローザの前に立ちはだかった。


「え?私?」


ローザは突然の襲撃に驚き、呆然と立ち尽くしている。


俺は第7層から魔物たちに指示を飛ばしながら叫んだ。


「いけぇぇぇぇえええ!!!」


ローザを守るイクイゴとドーラが奮戦し、リリスナイトを次々に細切れにしていく。


だが、魔物たちは仲間の死体を投げつけながら、四方八方から彼らを包囲し、ゆっくりと前衛の二人をローザから引き離そうとする。


エビルフェアリーたちは魔法の弾幕を張り巡らせ、ローザに襲いかかる。

しかし、魔術師ラインと精霊魔術師エレンが防御魔法でそれを防ぎ続けた。


俺はチーレム勇者パーティーの奮闘に対し、さらに手強い魔物を送り込むべく、DPダンジョンポイントを使ってアラクネクリスタルを数匹、第3層の落とし穴付近に転送した。


<アラクネクリスタルは金髪の女、ローザを糸で拘束し、そのまま第4層へ落とし込め!>


アラクネクリスタルは迅速に動き、ローザに向けて糸を放った。

数本は吹き飛ばされたが、ついに一本が彼女に絡みついた。


「え?何これ?いやっ!これ、取れない!」


ローザは慌てて小刀を取り出し、糸を切ろうとするが、クリスタルの糸は簡単には切れない。


「ローザ!!」


イクイゴが駆け寄ろうとするが、リリスナイトたちが立ちはだかり、彼の行動を阻んだ。


「どけぇぇぇ!!!」


彼の叫びと共に剣を振り、青い光が炸裂する。

数十体のリリスナイトが一瞬にして蒸発した。


しかし、アラクネクリスタルは魔法の弾幕に打ち砕かれながらもローザを糸で引きずり、第4層へと落ちていく。


第4層を見ると魔人レントが瀕死のアラクネクリスタルを握り、ぶら下がるようにクリスタルの糸の先で揺れるローザを見つめていた。


レントさんナイスですっ!!!

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